Knight and Mist六章-8泉にて
月光に照らされ、シルバーがかった金髪が艶めく。
森の中の泉で水浴びをしていたのはイーディスであった。
細身の身体に、筋肉がついている。栄養状態が良いわけではなさそうな体つきだ。
そして胸にはなだらかな曲線ーーーー
「ってめえ、なにひとの胸なんかジロジロ見てんのだよ。ヘンタイか?」
呆れてイーディスはバシャバシャ水浴びを続ける。
「………………」
ハルカが何もいえなかったのは、うっかりイーディスの裸を見てしまったからではない。
イーディスが非常に美しいとはじめて気付いたからであった。
女から見ても、エルフに引けを取らない美しさ。レティシアやリルさんにも負けてない。
「なんでそんな綺麗なのに隠すのよ?」
ハルカが尋ねると、イーディスは水浴びを続けながら淡々と言った。
「戦場で女を出して生き抜けるか?」
「危険……だよね」
イーディスは少し奇妙な顔をして首を横に振った。
「そんな話をしてるんじゃねえよ。女を出して有利になるならいくらでも出してやるけどよ、部下の兵士たちに舐められんだよ。それじゃあ王様にも申し訳ないってんでこうしてるわけ。そもそも女だからってデレデレするやつなんか論外だからな。味方でもぶっ殺すぞ」
さすがに生きている世界が違う……ハルカは不思議な気分でイーディスをみた。
今度はイーディスのほうから質問があった。
「お前は心細くねーの?」
「ん? なにが?」
「ずっとあのうさんくさい野郎にベッタリだったじゃねえか。あいつのこと心配じゃねえのか?」
「しんぱい?」
ハルカにとっては意外な響きに首を傾げた。
(天下のあのセシル様が、変な現象に負ける?)
内心首を横に振る。
(いやいや、魔族が出てる時点でセシルはなんか大丈夫な気がする)
どう答えたものか考えていると、その沈黙を違う意味に取ったイーディスが、
「あー悪い悪い! あんまり考えたくない話だったか」
手をパタパタと振り、話をなかったことにするイーディス。
ーーと、それから。
「……お前ってあいつのこと好きなの?」
「ちょ、ちょっと待って! なんでそんな話になるの!?」
まさかの爆弾発言に、ハルカは慌てて首をブンブン振った。
「え、だってベッタリくっついてたしさ。あいつのほうはお前のこと好きだろ?」
またしても爆弾を落とされた気分でハルカは樹木のあるところまで後退った。
「な、なんで!?」
「でもなきゃ命がけで助けるかよ、あのタイプの野郎が」
「あのタイプって……イーディスはどう思うの?」
イーディスは顎に手をやり、苦々しい顔で、
「ーーアレは人が死んでも何も思わないタイプだ。戦場にいたら真っ先に殺したいやつだな。殺意なくやってきて、意のままに引っ掻き回しやがる厄介なやつだぜ。これが戦いに意義を見出してるやつならいいんだ。あんなやつ横にもいたくねえよ」
「でもイーディスだってセシルに助けてもらったんでしょ?」
「あー、お前高熱で寝込んでたから見てないんだな。あいつはオレに回復魔導をかけただけでなんっっにも世話してないからな」
「魔導かけること自体わりと珍しいような……?」
「お前がそれを言うのもなんか変な話だけどさ、セシルのやつ起きてるあいだはずーっとお前のところいたんだぞ」
そこで何か思い出したようにイーディスは手を打った。
「そうそう! デキてるかどうかでスループレイナのバカと賭けたんだった。そういやスループレイナに行ったらあのバカから金巻き上げねーとな。なんて名前だっけ。モンティ?」
「惜しい! モンド!」
「どーでもいー」
そんなこんなで、その夜は更けたのだった。
つづき
2021/09/22大変遅くなりました。つづきを公開いたしました。
2021/09/09個人的な用事でバタバタしており、更新が遅れていて申し訳ありません。落ち着き次第更新します。
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