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野生の行方

ひょいひょいと、続く塀の影を渡りながら進む。
耳の奥まで熱を注ぐような陽から逃れると、一瞬だけ汗が引く。
昔は陽のあたるところを選んで歩いていた。
日焼けなどどこ吹く風で、照らされる心地よさを感じたものだった。

それが今や、まるで忍びの如く、影から影へ。
陽射しから身を隠さなければ、目的地にたどり着くことさえ危うくなってくる。
暦が次の季節に移っていると言われても、実感のない白昼。

ところが、夜風の吹く時刻。
驚いたことに、窓を開けると涼しげな秋虫の声。
ちいさきものたちは、いったいどうやって自らの季節を理解しているのだろう。

体内時計なんて言うけれど、人のそれは今やかなりぼけているように思う。
カレンダーだの、時計だの、測るものがなければ季節の変化など気づかずに過ぎているかもしれない。
そして気づかないことすら、これといった問題にはならない。
どんな季節も知を以って生きていけることは人の強さではあるけれど。
頼るツールがなくなれば、じつは単に脆く、弱い存在であることも、時に突きつけられる。

いつ、自分の側でどんな変化が起きるとも限らない。
安穏といられることを願いながら、猫のヒゲのような、虫の触角のような、空気の変化を感じ取るアンテナを鍛えておかなければ、と思うことがある。


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