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消えない言葉。

学生の頃によく使った赤や緑の透明なシート。
参考書なんかに開いて乗せると、答えが消えるプラスチックのペラペラとした。
じつにシンプルな原理だけれど、よく考えたものだと思う。

同じ色を通して見れば、その先にあるものはまるで何もないかのように見える。
たとえどんなに嫌な言葉が書かれていたとしても、同じ色が重なれば、見えなくなる。
きっと、誰かが言ったことをその通りだということにしておけば、自分も書き手と同じように、何ものにもぶつかることなく過ごすことができる。
ただまっさらな空欄が続いていく。
答えはちゃんとそこにある、という安心感だけを残して。

けれど、シート越しに眺めていては、いつまで経っても答えは見えない。
太陽と同じ色のシート越しに太陽を見れば、太陽は消えるのか。
川と同じ色のシートを透かして見れば、川は消えるのか。
彼らと同じ色のシートをかざして見れば、彼らは消えるのか。

だから、誰も持っていない色で、言葉を記したいと思う。
どんなに覆っても、消えないように。


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