見出し画像

【日本神話⑪】海の神と竜宮への道

 邇邇芸命(ニニギノミコト)の妻・木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)は、業火の中で火照命(ホデリノミコト)、火須勢理命(ホスセリノミコト)、火遠理命(ホオリノミコト)の3子を産みました。このうち、兄のホデリは海幸彦(海佐知毘古=ウミサチヒコ)、弟のホオリは山幸彦(山佐知毘古=ヤマサチヒコ)として、神話が進みます。真ん中のホスセリですが、3人中1人は何もしないのは、いつものパターン。

 兄・ウミサチは漁業を、弟・ヤマサチは狩猟をしてそれぞれ生計を立てていました。ある時、ヤマサチがお互いの仕事を変えてみようと兄にせがむのですが、釣りを始めたヤマサチは、ウミサチの大事な釣り針をなくしてしまいます。ヤマサチは剣をつぶして釣り針にかえて謝るのですが、ウミサチは全く許してくれませんでした。

鹽竈神社 ヤマサチを助けたシオツチの社

宮城県塩竈市の鹽竈神社(2013年10月12日撮影)

 海辺でヤマサチが落ち込んでいると、塩椎神(鹽土老翁神=シオツチノカミ)がやってきて、海神(ワタヅミ)の宮へ行って相談することを勧めました。ヤマサチはシオツチが作ってくれた竹籠に乗り、海の神様のもとへ旅立つのでした。

鹽竈神社。門の奥に改修中の左右殿。武神の建御雷男神と経津主神を祀る(同日撮影)
鹽土老翁神を祀る鹽竈神社の別宮(同日撮影)

 ヤマサチを助けたシオツチを祀る神社が、宮城県塩竈市の鹽竈(しおがま)神社です。陸奥国一之宮でもあり、格式の高さが窺えます。海路を導く神様としても知られ、武神である建御雷男神(タケミカヅチノオカミ)と経津主神(フツヌシノカミ)にも付き添い、東北地方の平定に尽力したそうです。2武神が鹿島と香取へ帰った後もシオツチはここに残り、塩の精製法を地元住民に伝えたという逸話があるそうです。

鹽竈神社から眺める日本三景・松島(同日撮影)

 鹽竈神社は高台にあるので、そこから松島を眺めることができます。私も過去に行きましたが、それは別の機会に。写真の中央のマンションが・・・まぁ、仕方がないですかね・・・。

和多都美神社 海神の竜宮城?

長崎県対馬市豊玉町の和多都美神社(2014年6月9日撮影)

 さて、ヤマサチはシオツチの竹籠に乗って海神の宮へ行くのですが、「竜宮城」はどこにあるのでしょうか?本当に海の底にあるなら私には行けそうもありませんが、その神話の発祥地が、壱岐の月読神社に続いて離島にありました。長崎県対馬市豊玉町の和多都美(ワタヅミ)神社です。

海から和多都美神社本殿へ、まっすぐ続く鳥居のトンネル(同日撮影)

 日向国から来たヤマサチを、海の神・大綿津見神(オオワタヅミノカミ)は歓待します。ここでヤマサチは3年もの日々を楽しく過ごしました。その最中、ヤマサチはワタヅミの娘・豊玉姫にほれ込み、結婚することになりました。

和多都美神社の本殿。彦火火出見命(=火遠理命=ヤマサチヒコ)と豊玉姫を祀る(同日撮影)

 3年の月日が経った頃、ヤマサチは兄・ウミサチの釣り針を探しに来たことを思い出します。ワタヅミに相談したところ、赤鯛の喉に刺さっていた釣り針を見つけ、これで故郷へ帰ることになりました。

和多都美神社の豊玉姫と真珠のモニュメント。真珠にまつわる伝説もある(同日撮影)

 豊玉姫を伴って地上に戻ったヤマサチは、ワタヅミから教わった呪文と、潮の満ち引きを操る宝玉をもって兄・ウミサチを懲らしめました。ウミサチは以後、弟・ヤマサチに背かず、警護する役目を担いましたとさ。めでたし!

 一説に、ウミサチは南九州の隼人族の祖先とされています。熊襲や隼人といった大和王権に従属しなかった部族の征伐を表していると解釈する説です。この手の話も世界の神話でよく見られます。面白いのは、敵役として出て来る部族の血筋にも、比較的王家に近いものがあるという点でしょうか。争いにも正当な動機を持ち出して読者を説得しています。

和多都美神社の遠景。背後の山に豊玉姫と父・豊玉彦命(海神)の墳墓があるという(同日撮影)

 さて、和多都美神社についての復習です。境内の案内看板を読むと、海神である豊玉彦命(トヨタマヒコノミコト=大綿津見神)がこの地に宮を建て、この地を「夫姫」と名付けた。一男(穂高見尊=ホダカミノミコト)二女(豊玉姫、玉依姫=タマヨリヒメ)が産まれたそうです。その後、ヤマサチがやってきた話は前述の通り。本殿の後方に二つの岩(夫婦岩)があり、手前は豊玉姫の御陵。西手の山下の石が豊玉彦の御陵だそうです。海幸山幸の伝説はここで生まれたものだとも書いてありました。

 天照大御神の孫・ニニギが大山祇神の娘と結婚し、その子・ヤマサチが大綿津見神の娘と結婚したことで、山神と海神の血統が天皇家に受け継がれます。海神の宮が離島の対馬にある点も興味深いですね。壱岐や対馬が大陸から近くて先進地であったことは過去に述べました。ヤマサチの神話は、有力部族との政略結婚の名残でしょうか?天皇家本筋と関わる脇役的な神様たちの背景を探ると、王家の側近や地方の有力者たちの歴史が垣間見える気もします。

 「竜宮伝説」は全国各地にあり、元ネタも複数ありますが、日本神話に起源を持つこの話は、中々の説得力ですね。「玉手箱」は出てきませんが、ヤマサチはこの後「見てはいけないものを見てしまい」で失敗?しちゃいます。これもまた人間らしい?一面でしょうか?

鹽竈神社↓

和多都美神社↓

表紙の写真=長崎県の和多都美神社(2014年6月9日撮影)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?