君の形をしているもの
吸ってるタバコなんだっけ?
キャメル
2日も一緒に寝たから寂しいかもって思った
ため息が出るほどにあざといその子
俺はアメリカに行くと決めてから
はや一年が経とうとしている。
またおいで
すぐいきたい
あと半年もすればアメリカに行く俺は
2年の時間を共にした彼女に別れを告げ、
3年勤めた会社を退社し、
珈琲屋とレンタルビデオショップで働いている
このすぐ行きたいなどと軽々しく口にしてくる
女の子はつい先日会ったばかりで
驚くことにまだ4、5回しか会っていない
その子と海にデートに行って帰ってきた部屋は
ひっそりと後をつけてきた
サンダルと皮膚の間の砂が
部屋を土っぽい匂いに豹変させた。
高校の土っぽい教室からは
風に吹かれるグラウンドの砂埃と
嫌なほど教室内を暗く感じさせる青空
ばかり見えて、
あの子の事をあの子の事を形作る物事を
見ようともしていなかったことに
気づかせてもくれなかった
あの子はクラスも違うし学年も一つ違った
高校内で噂が一人歩きして、
女優をしてる 歌を歌ってる 社会人の彼氏がいる
などといくつもの顔があったが
大抵は女子の嫉妬から生まれる
醜い噂ばかりだった
ねぇ聞いてる?
うん?
足洗っていいの?先に
あぁいいよ
いつの間にか部屋へと上がり込んだのは
昼間の海の砂っぽさだけでなく
その子もであった。
よくある名前だが、
彼女の季節を含む3文字の名前が
やけに高校時代のあの子に似ていて
その残り香の様なものに
惹きつけられていたのかも
知れない。
飲み物最初何飲む?
ビールかな
私もそーしよっ
いつの間にかその子は俺の家の冷蔵庫を
俺よりも開けるようになっていて
ズカズカ踏み込んでくる姿さえも
あの子に重ねてしまった
高校時代は部活の朝練で腹が減り、
母の作ってくれた弁当だけでは足りなかった俺は
昼に毎回購買へと足を運んだ
そこには大抵いつも何人かの女子と
決まって背の高い男の子が周りにいる
あの子がいた
部活でうまくいかない時は
決まって古い特別教室のある塔へ足を運んで
2階の1番奥のトイレでタバコを吸った
決まってそこならバレなかったし、
2つうえの可愛がってもらってた先輩が
見つかった時のバレずに逃げ切る方法まで
教えてくれてたからだ
雨が降っていた
それと夏が本番を過ぎて惰性だけで
私たちをイライラさせていた頃だった
なんだかその日は朝練の時間に来ても
中々やる気が出ず、
いつもトイレで朝の一服をする事にした
人気のないそのトイレの入り口に濡れた傘が
一本立てかけてあった
咳払いをしながら恐る恐る開けると
あの子が外を眺めていた
少し濡れた髪の毛と外の雨音のせいで
一瞬にして思考が停止した
ども
あ。ども
いつも来てるんですか?
いや、いつもここで彼氏とあってるんだけどさ
あ、邪魔なら帰ります
あ、いや彼退学になってさ
詳しくは聞かなかったが
2人でここにいる時に
たまたま先生が来て
彼女を逃して彼だけはタバコで退学になったらしい
まぁもともとタバコでは停学になる程度の
学校だったがその彼は3回目らしい
馬鹿だよねと笑う彼女の横顔は
どう見ても雨じゃない水滴が流れていた
一本いります?
吸ってるタバコなに?
キャメルっす
じゃあと2人で一本分の時間を共有した
いつもよりゆっくり目に吸ったが
それでも灰が落ちるのは彼女よりも早く
これでバレたら笑えないねと言って
フィルターにあと2センチくらいのところで
火を消して俺の持ってる携帯灰皿に
ポトンと落としていった
吸わないの?キャメル
あ、吸っていい?
自分ちじゃん笑
この子はあの子ではないし
俺はもうすぐこの国を旅立ち
25年生きてきて初めてレールを自分で
敷いてみる
キャメルの銘柄はしばらく変えられそうにない
君の形を俺の中で縁取って作っているのは
紛れもなく
あの土っぽさと
雨と
キャメルだから
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