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今こそ読みたい!新直木賞作家・島本理生さんのおすすめ小説10選

直木賞受賞の第一報は、東北旅行で岩手県の旅館にいた時、NHKニュースを見ながら「受賞者速報まだかな」と思いながらごろごろしていたとき、友人からLINEが入って知りました。

「りおお直木賞とったよ!」

驚くとともに、彼女の小説を知ってから13年間にわたって応援しつづけてきて、本当にファンとして喜ぶべき日だ、ということも、しみじみ感じました。

というわけで、今日は島本さんの著作の中から、私が10冊セレクトして、お届することにします。選ぶのが、難しかったけど楽しかったです。

では、どうぞ!

島本さんのデビュー作は「シルエット」という小説ですが、この「リトル・バイ・リトル」は2作目で、島本さんが高校在学中に初めて芥川賞候補となった作品です。芥川賞は逃しましたが、この作品で野間文芸新人賞を獲られました。「和菓子のような名前」の主人公、ふみは、高校を卒業してからアルバイトをしている。その中で、知り合った格闘家の周と、少しずつ仲を深めていって――日常生活のささいな出来事に光を感じるような、爽やかな読後感の作品となっています。

昨年松本潤さんと有村架純さんのダブル主演によって映画化され、話題となった、島本さんのベストセラー「ナラタージュ」ですが、発表当時は「お願いだから、私を壊して」という帯も印象的だったし、「この恋愛小説がすごい!」第1位もおとりになった作品です。大学生、泉のもとにかかってきた一本の電話は、高校在学中にお世話になった、葉山先生からのものだった。忘れ得ぬ激しい恋と、その痛みと――。葉山先生と上手くいかず、代わりにつき合うことになった小野くんの、ひたひたとせまる怖さも、とても覚えています。私はこの作品で、島本さんを知って、以来13年間新刊が出るたびに即買いするファンとなりました。

島本さんの文学のテーマに、理不尽な性暴力との向き合い方というのは、初期作品から直木賞受賞作「ファーストラヴ」に至るまで、ずっと現れているのですが、それが大テーマとして最初に現れた作品が、この「あなたの呼吸が止まるまで」だと思います。舞踏家の父と暮らす12歳の朔。大人しいながらも、クラスメイトの中にも鹿島さんや田島くんという大切な存在ができて――その中で、父の知り合いであり、最初は憧れていた男性から、信じられないような行為に遭うことになり。児童文学のような筆致で読ませながらも、主人公朔に起こる出来事は目を覆いたくなるほどの残酷さで。物語が現実に浸食してくるラストも見事。

中期の作品ですが、私が島本作品のなかでもとくに愛読してきた「波打ち際の蛍」を紹介します。主人公、麻由は、かつての恋人に受けたDVの記憶から、いまだ抜け出せず、上手く働けないでいる。そんな中、カウンセリングの診察室で出会った青年、蛍と仲良くなり、じょじょに、心を開いていって――島本作品の中でも、特に終わり方に光や救いを感じる、温かい読後感の作品です。そして、お寿司や牛丼を食べる描写が美味しそう。食べ物描写の印象的なところも、私が島本作品を愛する理由です。

島本さんのデビュー10周年を記念して書かれた、1200枚にも及ぶ、上下巻の大作で、直木賞候補にもなった作品。初めて読んだときは、あまりの痛々しさに、何度もページをめくる手がとまったほど。筑波に住む中学生、黒江は、母と二人暮らし。ある日見た写真集に心奪われて、カメラマンになることを夢見る。そんな中、転校してきた、垢抜けない少年、彌生くんのことがなぜか気になり――と、最初は、ヤングアダルト小説の王道のように進む展開なのですが、黒江に、いくどもいくども、辛い試練がのしかかり――ずっとテーマにしつづけている性暴力の問題、救われたくて保護者を求めてしまうこと、どこにもいけないまま、それでも明日へ踏み出そうと破れた靴で歩くこと――下巻ラストの一文が、本当に秀逸すぎて、震えました。女の子にとっての「神様」とは。心に刺さりまくる長編小説です。

「よだかの片想い」は、大長編ではないですが、中編のなかでも、とくに私がいとおしく思っている、大切な作品です。主人公、アイコは、子供のころから、ずっと顔にあるおおきな痣をからかわれてきた。大学院生になった彼女に、顔をテーマにした写真集に出演しないかという声がかかり、ひょんなことから映画監督の飛坂さんと知り合うことになる。一緒に飲むうちに、アイコは飛坂さんに初恋をしてしまい――!?とてもキュートで、あたたかくまっすぐな作品です。不器用なアイコがかわいく、また女に不自由しない飛坂さんが、だんだんとアイコにほだされていく様子も、微笑ましく読めてしまいます。完全なハッピーエンドでは終わりませんが、最後は、とてもすがすがしい終わり方です。

女性がブラのホックを外そうとしている過激すぎる表紙が話題となった、不倫小説「Red」は、静謐で切ない恋愛小説を書いてきた島本さんの新境地といえる作品だったのではないでしょうか。発表された当時、やはり話題になりました。夫の両親と同居する塔子は、そこそこ容姿のいい夫と、かわいい娘にも恵まれ、幸せなはずだった。だが、偶然再会したかつての恋人に、不倫へとひきずりこまれていく――身勝手な夫の描写や、官能描写も話題となり、島清恋愛文学賞を受賞しました。島清恋愛文学賞の授賞式は金沢であり、私は一般観覧者として見にいけたのですね。そのとき、式後のパーティで、島本さんにお目にかかり、お話できてとても感激しました。お祝いに、Redにちなんで赤いお花のブーケもお渡しできました。

島本さんの4回目の芥川賞候補作「夏の裁断」。作家の千紘の前に現れた、悪魔的な編集者、柴田。彼の気まぐれとも病的ともとれる言動に、彼女は振り回されていき――タイトルの「裁断」は、千紘が電子書籍のために、本を裁断して「自炊」することから。母親との不仲、うまくいかない関係ばかり、それでも彼女は夏を生きていく――この作品の芥川賞落選をきっかけに、島本さんは「エンターテインメント小説に舵をきっていく」ことをインタビューなどでも答えておられます。その結果が、今回の喜ばしい直木賞受賞につながったのでしょう。

島本さんは、キリスト教に興味をお持ちで、それについて先生について勉強なさっていると、何かのインタビューで拝読したのですが、それが活かされた作品といえるかもしれません。「イノセント」は、三人の主人公がいます。美容師のシングルマザーである比紗也、やりて経営者の男性真田、過去に傷を抱えた神父の歓。一人の女性をめぐっての、二人の男性の恋愛模様、と書くとありがちに聞こえますが、落ち着いた文章とスリリングな展開で、長さを感じさせず一気に読ませます。比紗也がシングルマザーになったわけ、というのも途中でわかり、舌を巻きました。

直木賞受賞作「ファーストラヴ」は、出てすぐに本屋で購入し、すぐ店内で袋を開けて、本屋に設置してある椅子に座って、つい最後まで読み切ってしまいました。それほど、吸引力のある、クオリティ高い作品でした。サスペンス的展開は、島本さんは「匿名者のためのスピカ」という作品でも挑戦されていますが、今回は、よりいっそう、高い境地に到達されたなあ、という印象を受けました。聖山環菜という女子大生が、父を殺した罪で逮捕され、カウンセラーの由紀は、彼女についての本を書く名目で、拘置所の中の彼女に取材を重ねる、といったストーリーです。物語が進むにつれて、環菜をとりまく両親の異様な環境がわかってきたり、由紀と夫の我聞、義弟の迦葉の三人の微妙な関係が、古傷となって、いまだに由紀を苦しめたりします。鬼気迫るサスペンス、法廷場面もでてきて、手に汗握る展開なのですが、本当におもしろく、一気呵成に読み終えてしまいました。ラストに射した光の美しさも忘れ難い、特別な作品でした。

授賞会見を、旅先の宿でニコニコ動画で見ながら、本当に祝福で胸がいっぱいでした。島本さん、素敵な作品群を本当にありがとうございます。これからも、新刊が出たらまっさきに買う読者でいます。

どうか、お体に気を付けて、これからも書き続けてくださいね。楽しみにしています。

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