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【インタビュー】~本と人との出会いを楽しむ~金沢・石引商店街の私設図書館「Community & Library コトノハ」

古都・金沢市街地の、兼六園から小立野方面に向かう地区、石引商店街のなかに、私設図書館 兼 コミュニティスペース「Community & Library コトノハ」(以下コトノハと略します)が2022年11月にオープンしました。金沢市内の印刷会社「栄光プリント」を経営するご夫妻、出村有基さんと妻の真妃さんがクラウドファンディングで資金を募り開設にこぎつけました。

もともと真妃さんと、同じ職場に勤めていたご縁で、ボランティアとしてオープン時の壁塗りのお手伝いもさせてもらった私。このたび、オープンからもうすぐ一周年となるコトノハのことを、多くの人に知っていただきたくて、真妃さんにインタビューを行いました。

Q.コトノハの貸し出しルールはどのようなかたちですか?

最初に図書カードの登録料500円をいただいています。おひとりさま貸し出し可能冊数は5冊まで、貸出期間は3週間です。

Q.一箱本棚オーナーという面白い制度をとっているとお聞きしました。本棚オーナーとはなんですか?

コトノハにオーナーだけの本棚を持つことができる仕組みです。月額プランと年額プランがあります。オーナーの契約期間であれば、いつでも自由に本棚の入れ替えをできます。詳しくはコトノハのほうへお問い合わせください。

Q.イベント利用もできるとお聞きしましたが、いままでにどんなイベントが開催されましたか?

北陸大学の学生さんの企画で、ミニどら焼きを作る会を開催して地元の子供たちも含めて交流をはかったり、映画を上映して鑑賞したりしました。そのほかにも、宮沢賢治の童話の紙芝居を、朗読する会などもありました。

Q.コトノハをやろうと思った理由があれば教えてください。

コトノハをやろうと思ったのは山代温泉にある、おんせん図書館みかんさんに出会ったことが1番の理由かなと思います。義両親が山代温泉にお泊まりに行った際に見つけたそうで、その後わたしたち家族4人で訪ねたのですが、なんとも不思議な仕組みでなりたつ図書館だなととても驚きました。

そこに集まっている人たちがたのしそうで、初めて来たわたしたちに対してもオープンであたたかい雰囲気があってすてきだなと思いました。本棚オーナーのみなさんの棚をひとつひとつ覗き見するのも、知らない世界がそれぞれに広がっていてたのしかったです。

Q.私設図書館という場所に対して、どんな思いがありますか。

私設図書館という場所に対しては、そんなに数を見てきたわけではないので何とも言えないところがあるのですが、図書館という場所や本にはわたし自身、これまでの人生の中でとてもお世話になってきたので、なにか恩返しがしたいなあという気持ちは常にあります。それもあって私設図書館を通して、感謝の気持ちをみなさんにふりまいていけたらなあと思っています。

Q.幼少期~大人になるまでの間に、真妃さんが本を好きになったきっかけがあれば教えてください。

小さい頃のことはあまり覚えてないですが、そんなに読書家ではなかったような気がします。小学校に上がる前くらいはセーラームーンが大好きで付録欲しさに少女雑誌を買ってもらい、本体の本はほとんど読んだ覚えがなかったような。

小学生になってからは、いつも自宅に週刊少年漫画雑誌があったので父親が1番に読んで、その後に自分の番が回ってくるのが楽しみだったなと。思い返すと子供の頃は家では漫画くらいしか読んでいなかったかも。

でも、小学校だったか中学校の図書館で休み時間に戦争関連や公害被害の本など写真多めの重ための本を1人でこっそり見て、うわーと思いながらショックを受けていた記憶があります。

ちゃんと文字ばかりの小説などをよく読むようになったのは中学生か高校生になってからかなと。中学生の思春期時代になんとなく色々うまくいかなくて死にたい気持ちがあったときに、ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読んで、母親にこれを読めと言ったりするなど、いやな感じの娘だったなと自戒しています。

高校生〜大学にかけては、村上春樹さんの作品を古本屋で文庫で買い集めて色々読んでいました。結局、本を好きになったきっかけは何かと言われるとなんでしょうね。友達関係や人付き合いがあまり上手にできなかったことが大きいのかもしれませんね。

Q.幼少期、印象的な絵本はありましたか。

エリック・カールの「はらぺこあおむし」が好きだった気がします。そして、びりびりに本を破った覚えがあります。 あとは、「ぐりとぐら」や「バーバパパ」、「ゴリラのパンやさん」も好きだったなと。
 
Q.コトノハという私設図書館は真妃さんから見てどのような場所ですか。

公共の図書館とちがって、本棚ひとつひとつに持ち主の方がいて、その方の個性がそれぞれとても豊かで見ていてとても楽しいです。

本屋さんや図書館はジャンルごとに並んでいるので、私は普段行く場所が限られて同じ場所ばかり見てしまうのですが、ここは本棚オーナーさんごとに並んでいるので、普段だと目にしないような本に出会えるのがよいところかなと。

棚ごとにみなさんの「好き」という気持ちがあふれていて、とても素敵だなと思っていつも眺めています。好きなものでゆるく誰かとつながれる場所になれたらなと思っています。
 

 
Q.金沢という街で私設図書館をやることについて、どのような思いがありますか。

生まれてこのかた金沢以外の街に住んだことがないこともあって、なかなか他の街ではじめるという発想はありませんでした。

ただ、一箱本棚オーナー制度の私設図書館を考えられた土肥さんが運営する「みんなの図書館さんかく」さんが静岡県焼津市の商店街で始められたこともあり、金沢市内の商店街を中心に色々と物件を見てまわりました。

そのなかで石引商店街の中のバス停の真ん前のとてもいい場所が見つかって、よい方々に恵まれてオープンすることができました。
 
Q.好きな本があれば3冊教えてください。

『ねにもつタイプ』岸本佐知子
『おうちでできるおおらか金継ぎ』堀道広
『お直しとか』横尾香央留
 
Q.最近はまっていることはありますか。

なにかモノを作ったり直したりすることがすきです。最近は余裕がなくてなかなか時間がとれませんが編み物をしたり、服を作ったり、服にあいた穴を繕ったり。割れたり欠けたりしたお皿を本を見ながら独学で漆で継いでみたり。

古道具も大学生の頃から大好きで古道具屋さんをのぞくのもとてもすきです。小さい頃から道を歩いていて何か拾うのも大好きで、その延長で最近はごみ拾いもたのしいです。拾える余裕がある時しか拾えませんが。まんまるな石ころも大好きで、お気に入りの海に拾いに行きたいなといつも妄想してます。
 
Q.その「はまっていること」はどういうところが楽しいですか。

自分で作ったり直したりしたものに対して、たとえ上手にできなくとも愛着がわくところが楽しいのかなと思います。古道具や石ころは長い年月を経て、自分の手元にやってくるのがうれしいなあと。そして、また自分が長年大切にして次のところへ引き継ぐことができたらなと思っています。

Q.よく借りられていく人気の本があれば、教えてください。

『日日是好日』森下典子
『推し、燃ゆ』宇佐見りん
『考えない練習』小池龍之介

きちんと貸出ランキングをつけているわけではないのですが、上記の3冊がよく借りられている気はします。
 

Q.コトノハをやりはじめて、変化したことや成長したことはありますか?

日々いろいろな方が来て下さり、わたしの知らないことをたくさん教えて下さるので日々とても学びが多く、成長させていただいているなと感じます。ここをしていなかったら出会えなかっただろうなと思う方々ばかりで、その出会いがありがたく尊いなと思います。
 
Q.真妃さんからみた金沢の石引商店街の魅力はなんですか。

ここに場所をかまえるまでは、ずっと金沢に住んでいましたがなかなか石引商店街に足を運ぶきっかけがなかったんです。ですが、ここへ毎日のように通うようになってとてもいい町だなとしみじみ思っています。

商店街のあちこちにすてきなお店があって回遊できるのがたのしいです。そして、歴史の深さと文化度がとても高い町だなとひしひしと感じます。

ご当主の交代を最近耳にしたりと、ああまだ藩政期がこの城下町では続いているのだなと、ここへ通っていなければ感じられないものが色々とあるなと。最近、通勤の途中の道で工事をしていたのですが、地面の下に石垣が埋まっているのが見えて、さすが石引!と思ってしまいました。

Q.これからコトノハとして何をしていきたいですか。

まだコトノハをはじめて一年足らずなので、ひとまずは細く長く続けていくことができたらなと思っています。そのなかで本棚オーナーのみなさんや、ここを訪れるみなさんがやってみたいなと思うことを気軽にチャレンジできる場になっていけたらなと思っています。

Q.また様々なお客さんが訪れますが、どんな場所にしていきたいですか。

色々な方が日々来て下さりますが、なるべくみなさんにとって居心地のよい場所であれたらなと思っています。自宅と学校や職場以外の第三の場所、サードプレイス的な場所になれたらなぁと。

普段の生活でなかなか出会えないような人と人、人と本など知らない世界に出会える場所であれたらよいなと。何かここに来たらよい発見や出会い、よいことがあるかもしれないと思ってもらえる場所にしたいですね。

Q.これから私設図書館を立ち上げようとしている若い人に向けて一言ください。

私設図書館を立ち上げようとしている方は若い人とは限らないような気はするので、これから始めようとしてらっしゃる方へ向けてとしますが、何か図書館とは別に本業がある人がよいのかなと個人的には思っています。

私設図書館単体でなかなか採算をとっていくことは、とても難しいような気がしています。私設図書館を始めたいなと思った時に、一箱本棚制度を考えられた静岡県焼津市にある、みんなの図書館さんかくの土肥さんと初めて話す中で、「下心を出してはいけない」と言われたことがとても印象的でした。

図書館は本来とても公共性が高いものなので、そこで儲けようと下心を出してはいけないよという趣旨のことを最初にぴしゃりと言ってくださったのです。かくいう私は何か本業があるわけではなく、コトノハのお店番しかしていないのですが、夫の経営する印刷会社の一つの事業として私設図書館を運営しております。

他県のみんなのとしょかん、通称みんとしょの姉妹館のみなさんも何かしら本業があって運営されている方が多いように感じます。お医者さんがやっているところや、建築事務所に併設の場所、ゲストハウスをされている方などなど。それぞれの本業があることで、とてもバリエーション豊かでたのしい図書館になるのではと思っています。

Q.座右の銘や好きな言葉があれば教えてください。

座右の銘かはわかりませんが、好きな言葉は「文化的雪かき」です。村上春樹さんの本を読んでいて出会った言葉なのですが、なんの本だったかなと覚えてなかったのですが、後に調べたら「ダンス・ダンス・ダンス」の中に出てくることを最近知りました。

読んだ本の内容をすぐ忘れちゃうタイプなのです。ふとした時にこの言葉を思い返しては、自分を励ましたりなぐさめたりしています。自分が日々している仕事や行いも、なんの意味があるのかしらと落ち込むこともありますが、めぐりめぐってどこかのだれかのお役に立てているといいなと願っています。
 
Q.最後に、店名をコトノハにした理由について教えてください。

いろいろと夫とともに店名の案を考えてはいたのですが、オープン直前までハコブネで行こうとしていました。一箱本棚のハコとかかっていていいかなと思ったのですが、夫の家系がクリスチャン家系なこともあって宗教性が強すぎるねということで、お店のネーミングで来る方を狭めてしまうかもしれないことはよくないよねとなり、ボツとなりました。

そこから、また色々と悩む中で、夫が出してきたコトノハとなりました。言の葉、つまりは言葉を大切に、対話をとおして人と人がなかよくなれるような場づくりができたらなという思いを込めて、このような店名となりました。

コトノハの「本棚オーナー」4名の方にも、ご質問に答えていただきました!

◆本棚オーナー 奥谷郁さん◆
(アカネ不動産としてコトノハの建物管理をご担当)

Q.私設図書館・コミュニティスペース「コトノハ」の魅力はなんですか?

本が好きな色々な人と知り合えたり、話をして繋がれるところ。 日々暮らしていて、本好きな人となかなか出会えないから嬉しい。 本に囲まれていると落ち着くので、くつろぎと癒しのスペースでもある。 身近にある知の泉が本だと思うので、そういうものに触れることができるところが近くにあるのはありがたい。

Q.奥谷さんのおすすめ本2冊を教えてください。

『成熟スイッチ』林真理子
『君が夏を走らせる』瀬尾まいこ

◆本棚オーナー  Oさん◆

Q.コトノハでよかったことはありますか?

いろいろな人と関わり、話すコミュニティスペースとしてコトノハが存在していることで、世の中で「当たり前となっている価値観・思想」を改めて「本当にそうかな」と考え直すことができる。

Q.Oさんのおすすめ本2冊を教えてください。

『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想 しごとのわ』
川上浩司
『遊びと人間』ロジェ カイヨワ

◆本棚オーナー Nさん◆

Q.コトノハはNさんにとってどういった場所となっていますか?

いろんな人に出会えるっていうのは一番大きい。いろんな本にも出会える。自分は結構年代が上なので、年代が若い人にも会えることが嬉しい。なんのしがらみもない人と出会える。いままでは組織に属していたので、そういうしがらみが生じてしまっていたが、コトノハで出会う人とはそういうことがないので、新鮮であるし重荷もなくていい。それで、とても心が落ち着く。

Q.Nさんのおすすめの本を2冊教えてください。

『ルイズ――父に貰いし名は』松下竜一
『一瞬の夏』沢木耕太郎

◆本棚オーナー そらまめさん◆
(コトノハにて、読書会を主催)

Q.コトノハでの読書会の魅力はどういったものですか?

コトノハでの読書会は、とにかく気軽な感じで 単に「本が好きな人が集まってワイワイやる場になれば」と思って、 そして「自分もそんな場があれば行ってみたい」 っていう気持ちから始めてみました。

好きな本、印象に残った本について 話したり聞いたりすることで、 さらに紹介された本について興味を持ったり、 自分の紹介本に共感してもらったり。 それをきっかけに自分の知見が広がったり新しい好奇心が芽生えたり、 本好きな仲間が増えて思わぬところからつながりが広がったり。

とにかく気軽な読書会は、その場も楽しいし、 その後にも色んな可能性が詰まっている場だと思います。 コトノハでの読書会が、そんな場になればいいなと思います。

Q.そらまめさんのおすすめの本を2冊教えてください。

『本日はお日柄もよく』原田マハ
『かがみの孤城』辻村深月

最後に、コトノハのSNSを紹介いたします。

Instagram
facebook
※開館カレンダーは、SNSのほうをご参照ください。

さて、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!金沢、石引商店街の私設図書館 兼 コミュニティスペース「コトノハ」に、みなさん一度はぜひ行ってみてくださいね。きっと本や人とのすてきな出会いが待っていますから。








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