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上田聡子
2017年5月6日 14:31
綿菓子みたいにフワフワの世界も、その裏側は、しっかりした土台に支えられているものだ。初実は、店の前の広い駐車場をゆっくりとした足取りで歩きながらそんなことを考えた。コンビニのビニール袋。アイスの棒。丸めたティッシュ。そういったゴミをひとつひとつトングで拾い、左手で持っているゴミ袋に入れながら、くまなく駐車場全体を巡る。初実は、一週間前に、県内で一番店舗数の多い雑貨店にアルバイト採用となった。そ
2017年4月8日 20:27
大人になってする恋は、あのころよりは、せめて恰好つけられる。三月下旬、社の送別会が開催された駅近のタワーホテル内のレストランで、私はいろんな人に送別の挨拶をしながら、ビールをついで回りながら、視界の隅でちらちらあなたをとらえていた。入社して数年が過ぎ、私はこの四月から、博多支社に転勤となった。そろそろ、東京本社を離れる時期だと思っていた。私は結婚しているわけではないし、きっと地方に飛ばしやすか
2015年10月7日 08:47
私の腕の中では、ショールにくるまれて今年産まれた娘の真里が眠っている。夫が運転するレンタカーの助手席の窓からは、よく晴れた空と青く凪いだ瀬戸内海が見えた。今日はこれから、結婚後初めて私の生まれた家に里帰りするのだ。思い出すのは、小さいころ、この海を港の堤防に座ってずっとスケッチしていたことだ。祖父に買ってもらったキャンパスノートを大切に使っていた。灯台にかもめ。遠くを行く船。2Bの鉛筆で、なぞ