- 運営しているクリエイター
2020年5月の記事一覧
【児童文学】お弁当のひそひそばなし
さきこは、窓の外のぴかぴかの空を眺めると、クレヨンで絵のつづきを描いている手をとめました。そしてベランダでせんたくものをとりこんでいるお母さんに声をかけました。
「お母さん、雨を晴れにしたいときは、てるてる坊主をつるすでしょう。晴れを雨にしたいときは、どうするの」
お母さんは、さきこの心の中を見抜いて、ふきだしました。
「さきこ、そんなに明日の運動会がいやなの?」
「だって……リレーなんて
【短編】夜風の匂い 雨の匂い
梅雨が近づくと、私の嗅覚はじめ感覚が、なんとなく鋭くなるような気がする。雨が降り出す気配にも、夜風の香りにも、ふだんより敏感になる。今夜カーテン越しのすこしだけ遠い雨音に交じって、カエルの声が耳をくすぐっていく。
少し熱のこもる体で、私は台所に立ち、麦茶を煮出す。初夏から、私も同居している恋人も、たくさん水分を摂るようになるから、大鍋いっぱいに湯を沸かして、麦茶のパックを入れて十分。じゅうぶん濃