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ずっと待つよ

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少し長めのお話を集めたマガジンです。
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2018年5月の記事一覧

【児童文学】僕のあだ名は

僕は、何をやるのもだいたいのろい。学校の黒板は、最後まで書き写さないうちに、先生がチョークで書いた内容を「はい、次ね」って消しちゃうし、給食の時間は、給食当番の女子たちに「もうっ、お昼休みになってもまだ食べてるの、奥山くんだけだよっ。あたしたち片づけて遊びに行けないじゃない!」ってすぐどやされる。かけっこだって遅い。逆上がりだって、できたのはクラスで一番最後。おまけに、しゃべるのだってゆっくりだ。

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【小説】潮騒の家

【小説】潮騒の家

高校生の私は、海が好きだった。実家は漁港のそばにあり、夜自転車を押して塾から帰るとき、いつも海沿いのほうから帰っていた。夜の海をわたってくる潮風に、よく前髪を持ち上げられた。沖に点在する船の明かりが、浜のほうから見ると夢のようにきれいだった。

浜に出て少し海風に吹かれた後、家へと向かう。脇道に自転車をとめて、玄関から入ると祖母に叱られた。

「また遅くなって、この子は。今日も海に寄り道しとったん

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【児童文学】亜樹とともだち

【児童文学】亜樹とともだち

ゆるく巻かれているきれいな金髪を、おもちゃの櫛で梳きながら、亜樹はその金髪の持ち主——人形のカンナに、話しかけた。

「ねえ、カンナ。今日も、中学校早退してきちゃったよ」

カンナの青いつぶらな瞳が、亜樹をじっと見ている。まつげにふちどられたその綺麗な瞳は、亜樹が七歳のときから、そのさびしいとき、つらいときに寄り添ってくれていたものだった。

学校から帰ったまま、セーラー服から部屋着へと着替える前

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