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【児童文学】亜樹とともだち

ゆるく巻かれているきれいな金髪を、おもちゃの櫛で梳きながら、亜樹はその金髪の持ち主——人形のカンナに、話しかけた。

「ねえ、カンナ。今日も、中学校早退してきちゃったよ」

カンナの青いつぶらな瞳が、亜樹をじっと見ている。まつげにふちどられたその綺麗な瞳は、亜樹が七歳のときから、そのさびしいとき、つらいときに寄り添ってくれていたものだった。

学校から帰ったまま、セーラー服から部屋着へと着替える前に、亜樹は必ず西洋人形のカンナに話しかける。カンナはもちろん何も言わないけれど、亜樹の気持ちを、いつも汲み取り、辛さを吸い取ってくれている気がする。

(どうしたの? あきちゃん。おなかがいたいの?)
(今日は涼しかったから、あきちゃんが着せてくれた、秋のお洋服が、ちょうど良かったよ)

カンナは今日は、焦げ茶色の袖がふくらんだワンピースに、白いレースのエプロンをつけて、赤い靴を履いている。金色の髪には、赤白の格子柄のバンダナを巻いている。どれも、昨日亜樹が、カンナの洋服コレクションから選んで、着替えさせたコーディネートだった。

「カンナ、今日もお着換え、しよっか」

亜樹はそう言って、タンスの一番上——カンナの洋服たちがしまってある引き出しを開けた。色とりどりのカラフルな布地が、ぎゅうぎゅうにつまっている。子供の頃から亜樹がおこづかいで買い集め、それに飽き足らなくなってからは、自分でインターネットを見て、作成した衣装たちのコレクションがそこにつまっていた。

亜樹はしばし迷ったあと、ローズ色のふんわりしたスカートと、白いブラウス、黒い靴を取り出すと、カンナが今まで着ていた服を脱がせ、ひとつずつ丁寧に着替えさせた。長い金髪からは、バンダナをはずし、ゆるく頭のてっぺんでまとめてお団子をつくった。

「かわいい、かわいい。カンナは、本当にかわいいね」

そう口にするたび、亜樹は自分の心が癒されていくのがわかった。中学校に友達は一人もいなくて、でもこのカンナだけが、亜樹の唯一の友達といえるのだった。自分が十四歳で、もうお人形遊びをしている同年齢の子が、皆無に等しいこともわかっていて、それでも亜樹は、カンナと自室で会話したり着せ替えすることをやめられなかった。

亜樹は、本棚から「お人形の洋服づくりコレクション」という、何度も何度も開いた実用書を取り出すと、学習机のスタンドライトをつけて、広げた。

「こんどは、カンナに、どんなお洋服をつくってあげようかな?」

冬のもこもこしたコートもいいし、たまにはズボンも新しくつくってあげたい。新しい髪飾りをつくるのも楽しそう。ああ、ブーツもいいなあ。そうやって、カンナの新しい洋服のデザインを考えているときが、亜樹にとって至福のときだった。

中学校は、ざわざわうるさいし、気の強い女の子たちは怖いし、先生はすぐに怒鳴るし、通っていて心安らぐことなんてひとつもなかった。辛い気持ちをカンナに吐き出し、カンナのためにかわいい服を考えてあげられる、自室で過ごす時間が一番好きだった。


食卓の上には、亜樹の母、和歌がつくった夕食が並んでいる。クリームシチューに、ブロッコリーやニンジンのホットサラダ、ひじきの煮物が、亜樹と和歌、それぞれの座席の手前に置かれていた。

のろのろと、部屋から出てきて、リビングのダイニングテーブルの自席に座った亜樹に、和歌が話しかけてくる。

「亜樹、また少しやせたんじゃない? たくさん食べてね」

亜樹の母である和歌は、近所のチェーンの雑貨屋で9時—5時のパートをしている。たいてい亜樹が学校から帰ってきてから、和歌が家に帰りつくので、夕食はだいたい7時ごろになる。父の隆司は、このところ仕事が連日遅く、たいてい亜樹が寝てしまってから、家に帰ってくるため、夕食は亜樹と和歌、二人でとることが普通だった。

「あーきー」

和歌が、シチューを黙ってすする亜樹に、ちょっと苛立った声を出した。

「今日も、中学校早退したんだって? さっき担任の福田先生から、連絡があったわよ。このところ、保健室で休んでいることも多いみたいだし、そんなに、具合が悪いの?」

亜樹は、何とも答えられずに、そのままシチューを口に運びつづけた。

「あまり欠席が多いと、行きたい高校に進学できなくなるわよ」
「……高校なんて、どこでもいい」
「亜樹」

そのまま、会話がなくなった。亜樹は、和歌が自分をどう取り扱えばいいのか、悩んでいることを知りつつ、どうすることもできなかった。ちょっと口答えすれば、私が十四歳のころはもっと外で遊んだし、家の手伝いもしていただとか、学校は皆勤賞だったとか、そんな返事がぽんぽんと返って来るのはわかっていたし、それを聞くのは鬱陶しかった。

亜樹は食事をできるかぎり早く済ますと、「ごちそうさま」と小さく言って、自室へ戻るためにリビングのドアを開けた。

「これが亜樹なりの反抗期ってやつなの?」

和歌がつぶやいた独り言が、これ見よがしに聞こえたが、気付かなかったふりをして自室に戻った。

夜中、リビングで父と母が声をひそめながらも言い争っている声で、亜樹は目をさました。

聞いちゃいけない、と思いつつ、ベッドから起き上がって、リビングへ続く階段を音を立てずに降りた。ドアの陰に隠れて耳を澄ますと、和歌の声が響いた。

「……あなたはそうやって、娘の様子が変でも、仕事仕事で何も家庭のことを気にしてくれない! あの子ずっと部屋で人形と話しているのよ! それを知って心配じゃないの?」

「亜樹には亜樹の、成長の仕方があるんだろうさ。そんなに大袈裟に騒ぐほどじゃないよ。君のヒステリーはもううんざりだよ。そういうところが、亜樹を追い詰めているんじゃないのか」

それ以上はとても聞いていられず、亜樹は静かに階段を上ると、自室のドアを閉め、明かりをつけて、ベッドの上のカンナを抱き上げた。そのままぎゅっと、抱きしめる。

(あきちゃん、だいじょうぶよ。あきちゃんはひとりじゃないよ)

カンナの言葉が心に響いてきたようで、亜樹は、しゃくりあげた。そのまま、明かりをまた消して、カンナと二人ベッドにもぐりこむ。カンナの服に染み込ませたラベンダーの香水の香りが、ふわりと鼻をつき、亜樹自身を、なぐさめているように、そう思えた。

亜樹は、朝が嫌いだ。大嫌いな中学校だけど、それでも行かないといけないと思っているからだ。窓の外がしらじらと明るいのを見ながら、亜樹はいつも溜息をつく。時計は七時五分。のろのろしていると、和歌が部屋にまで上がって来る。和歌は亜樹の部屋を見るたび、カンナの存在をいまいましく見つめるので、亜樹としては、和歌をなるべく自室に入れないため、早起きして朝食を食べに、リビングへ向かわざるを得ないのだった。

セーラー服に着替えて、階下へ降りると、パンの焼ける香ばしい香りがした。あまり朝は食べられない亜樹だったが、少しでも食べないと、和歌の叱責が飛ぶので、いつも無理やりお腹に詰め込んで、家を出るのだった。

教室に入る瞬間は、いつもお腹がきゅっと縮こまる。ガラガラ、と引き戸を開けると、幾人かの女子の視線とぶつかって、亜樹はさっと目を逸らした。自席に行くと、今日も、机には靴の跡がついていた。持ってきたティッシュペーパーで、うつむきながら靴跡をこすったが、あまりきれいにはならなかった。

一限目の授業は理科だった。机の中に入れて置いた教科書を開くと、「バーカ」とか「人形オタク」とか、落書きが書いてあった。カンナを連れて登校していたときのこと、みんなまだ覚えているんだ、と亜樹は思い、胃の痛みを感じた。

チャイムが鳴り、理科の授業が始まっても、胃の痛みは治まらない。しくしくと痛むばかりだ。理科の酒倉先生は、背の高い中年男性教諭で、かなり怖かったが、胃の痛みから冷や汗が流れてきてしまったので、亜樹は観念して手を挙げた。

「どうした、吉峰」

酒倉先生が野太い声で応じた。

「具合が悪いです。保健室に行ってもいいですか」
「またかー。仮病じゃないだろうな!」

酒倉先生が大きな声を出して、皆がどっと笑った。立つ瀬がなくなり、亜樹はその場で凍りつく。先生は思いのほかクラスの反応が悪意あるものだったのに驚いたのか、態度を変えて、言った。

「行きなさい。保健室に。早退するときは職員室に寄って担任に一声かけるんだぞ。勝手に帰るなよ」

亜樹は、こくこく、と頷くと、早足で教室を出た。後ろからまた、どっと笑い声が上がった。

亜樹は保健室に行き、「最近多いわね」と薄い眼鏡の奥で心配そうに見つめる保健の高尾先生に頼み、ベッドにもぐりこんだ。カンナがいる自室のベッドと違って、固いマットレスと新しいシーツの匂いがする、保健室のベッド。亜樹は、目をつむって、胃の痛みに耐えた。

(どうして学校に行くと、お腹が痛くなっちゃうんだろう)
(どうしてクラスのみんなと、上手くやれないんだろう)

そんなことを思いながら、亜樹は眠れないまま、昼すぎまで保健室で横になっていた。高尾先生が、「吉峰さん」とかけてきた声で、ベッドから起き上がり、そのままベッドのふちに腰掛けて、頭を振った。

「どう? 教室戻れそう?」

高尾先生の優しい声に、大きく横にかぶりを振った。高尾先生は、担任の福田先生を呼んで、二人がかりで「教室でがまんすることはできない?」と亜樹に聞いてきたが、亜樹は「すみません」というばかりだった。

そうして、そのまま亜樹は、今日も早退することになった。

秋晴れの空の下、とぼとぼと通学路を家のほうへと向かいながら、亜樹はどんどん気持ちが落ち込んでくるのがわかった。自分が、学校に不適応を起こしていることは、誰に言われなくてもわかっていた。近いうちに、きっとこのまま通えなくなってしまうことも。今は、ぎりぎり踏みとどまっているだけなのだ。

亜樹は、道の途中で、家に帰る方向とは、反対の方向へ折れた。亜樹が、本当に最低の気分のときに、いつも行く場所があった。亜樹の友達は、カンナ一人だったけど、そのほかに、亜樹が心を開ける人がいる場所——、母、和歌の妹である叔母、百合の、デザイン工房へ向けて、亜樹は歩いて行った。

「洋服のオーダーメイド承ります——佐藤百合の服のアトリエ」そう書かれている貼り紙のある、小さなビルの一階。亜樹は、その前まで来ると、チャイムを押した。十秒ほど待ったあとに、叔母の百合が顔を出した。

「いらっしゃいませ、って、亜樹じゃん。久しぶりだね。あれ? 今日は平日でしょ? また学校さぼってきたねー」

そう言いながらも、にこにこと歓迎のムードを漂わせる百合の笑顔に、亜樹は心底ほっとする。

百合は、洋服のオーダーメイドのお店を、3年前に立ちあげた。現在はたしか、三十三歳だ。洋服のパタンナーとして、最初はアパレル会社に勤めていたが、独立したのだ。細々とだが、ちゃんとお客はついているらしく、経営は軌道に乗っているらしい。

独身だけど、好きな仕事で生計を立てている百合は、亜樹にとって憧れだった。

百合は亜樹を、アトリエ内へ招き入れると、すぐに熱い紅茶とレモンケーキを出してくれた。

「これ、昨日焼いてみたんだ。どう? 美味しい?」

百合の質問に、亜樹はこくこくと頷く。レモンの皮がほの甘いケーキの中で、いいアクセントとなっていて、とても美味しいケーキだった。

「中学校は、やっぱりしんどい?」

百合がつづけて聞いてきて、亜樹は、そのままうつむいてしまう。

「いいんだよ、いいんだよ。あたしも、学校って、ほーんと最後まで馴染めなかったし。大嫌いだったな。その反動で、まあ今は好きな仕事ができてるわけだけど」

『学校が自分も嫌いだった』という本音を、亜樹に語ってくれる百合は、貴重な存在だった。本来親戚ならば、『我慢して通いなさい』とか諭すものじゃないだろうか。そういう意味で、百合は変わりものだったし、その変りものぶりが、亜樹をひきつけた。

「私が世界の中で必要としてるのは、カンナと百合ちゃんだけだから」

いつものようにそう言うと、百合は笑って言った。

「亜樹、まだまだ、世間を知らないねえ。きっと、この世界には、カンナとあたしのほかにも、亜樹を必要としてる人がきっといるよ」

百合にいつもそう返される言葉を、亜樹はいまいち信用できない。そうかなあ? と首をかしげていると、百合は、

「最近、カンナは元気なの?」

と訊いてきた。カンナを、ちゃんとただの人形じゃなく、亜樹の大切な友人として扱ってくれるのも、亜樹が百合を慕う大きな理由だった。

亜樹は、通学鞄を開けると、ごそごそと袋を取り出し、中からカンナの新作衣装を取り出した。

「百合ちゃん、見て。またつくったの」

ギンガムチェックのスカートと、黒いベストを、百合は手放しで褒めてくれた。

「すっごい、亜樹、やるぅー。また腕が上がったんじゃないの。カンナは幸せものだね」

「そんなことない」

照れ笑いしながら、亜樹は、本当に百合が叔母で良かったと思った。

中学校はその後も、早退を繰り返しながら通っていた亜樹だったが、ある日、登校してみたら上履きがなくなっていた。教科書の落書きも、日に日にひどくなり、ページがごっそりと破られていることもあった。

少しずつ、学校へ行く勇気が削られていった。教室にいても、くすくすと笑い声が耳まで届き、すべて自分を嘲笑っているかのように聞こえた。

教室移動のときに、廊下を幾人かの女子に通せんぼされた。顔を上げると、一人の女子が吐き出すように言った。

「あんた、めっちゃ邪魔なんですけどー」

きゃははは、とかん高い笑い声が、周りからあがった。

「早退とか、中途半端なんだよ。いっそ、もう学校来るな」

わかったー? とうつむいた顔をのぞきこむように言われたその日、亜樹は初めて、担任に報告せずに、学校を飛び出した。もう、何食わぬ顔をして通えるのも、限界だと思った。

そのまま百合の工房に走っていった亜樹だったが、今日は百合の工房には「本日は急なお休みをいただきます」と貼り紙がはってあった。布地の買い付けにでも行っているのだろうか。

がっかりして、家へと帰り、自室に閉じこもった。人形オタク、と以前教科書に書かれていた落書きが頭の中をぐるぐると回り、そばにいるカンナを手に取ることができなかった。

(あきちゃん)
(あきちゃん)

カンナの心配する声は、亜樹に届いているのに、どうしても、抱いてあげることができなかった。服を着替える気力もなく、制服のままベッドにつっぷして、泣きながら亜樹は眠ってしまった。

夕方、パートから和歌が帰ってきて、亜樹の部屋へと上がり込み、学校を無断で早退したことを強く叱責された。亜樹は、涙ながらに、「もう学校行かない」「行きたくない」と訴えた。和歌は説得を試みたが、亜樹の心を開くのは、和歌には不可能だった。

亜樹は部屋から和歌を追い出すと、夕食も食べずに眠りについた。このまま泥のように眠ってしまいたかった。そうして、見たのは、祖母である佐和の夢だった。

『亜樹ちゃん、ほうら、亜樹ちゃんのお友達だよ』

七歳の誕生日、佐和が亜樹にと、西洋人形のカンナを連れて来た。波打つ金髪に、青い瞳。レースのついた、アンティークなお洋服。大好きな祖母が、こんなに可愛いお友達を連れてきた、そう思って、亜樹はすぐに、カンナに夢中になった。

『おばあちゃん、カンナがね、おばあちゃん大好きって言ってる。亜樹もね、おばあちゃんが大好きだよ』

『そうかい、おばあちゃんもね、カンナちゃんも亜樹ちゃんも大好き。亜樹ちゃんはね、きっと大きくなったらカンナちゃんみたいに、美人になるよ。その日が楽しみだねえ』

祖母の膝のぬくもり。白髪はうす紫色に染められ、眼鏡の奥の優しい目はいつも笑っていた。祖母はカンナと亜樹のままごとに、辛抱強くつきあってくれて、亜樹の誕生日が来るたびに、ねだったカンナの新しい洋服を買い足してくれたのだった。

ふっと夜中に目をさまし、祖母の夢だった、と気付いた亜樹は、もう一度泣いた。祖母は、五年前から、認知症にかかり、家族で面倒を見切れなくなって、老人ホームに入居していた。会わせてほしいと思っていたが、和歌や隆司が、亜樹をホームへ連れて行くことはなかった。

「きっと亜樹のこと、わからなくて、お互いに可哀想だから」というのがその理由だった。

そうして、亜樹はそのまま、中学校を二ヶ月、休み続けた。

「亜樹、お父さんの大学の後輩がフリースクールという、学校に行けない子供たちの場所をつくっているんだ。そこへ行ってみないか」

日曜日、突然父親の隆司からそう切り出され、亜樹はとまどった。亜樹自身も、自分が今「不登校」の状態にあるということは認識していたが、学校以外に通う場所を、父から提案されるとは思ってもみなかった。

「そこでは基礎学習のほかに、体験活動や課外活動もあって、亜樹のように学校に通えない子供たちが集まっているんだよ。どうだい、見学に行ってみるのはどうだい」

隆司なりに、亜樹のことを考えてくれているのだろう。和歌も、横から口を出した。

「百合がね、最初は付き添って行ってくれるって。あたしは仕事があるから難しいけど、あの子はほら、時間の融通が利くから」

和歌は、実の妹である百合に、亜樹のフリースクールへの付き添いを頼んでくれたようだった。和歌は最後に、駄目押しとして言った。

「なんだっけ、あの、亜樹の人形? カンナだっけ? も連れて行っていいってさ」

それで、亜樹は、フリースクールへ、行ってみることに決めた。

当日、家へ百合が迎えにきてくれた。亜樹は、カンナをリュックに入れて、お出かけの準備をした。フリースクールは、私服でいいらしいので、あえて、今日のカンナの服装と似たコーディネートを亜樹も身に着けた。家の最寄り駅から、電車で二駅行った駅前のビル内に、そのフリースクールは入っていた。

『フリースクール つばさ学校』と、ネームプレートがかかっているガラスドアを、亜樹はおそるおそる押し開ける。百合は後ろから見守ってくれている。

白く塗られた内壁に、グレーのカーペットの敷かれている明るい部屋には、白い丸テーブルとカラフルな椅子が置かれ、亜樹と同年代に見える子たちが、思い思いに過ごしているようだった。しばらく教室内の様子をうかがっていると、奥から大柄な男性と小柄な女性のペアが出てきた。男性のほうが、亜樹と百合に声をかけてきた。

「おっ、来た来た。えーと、お名前は…」

百合が亜樹の肩に手を置き、名前を言うように促す。

「吉峰、亜樹です」
「私は付き添いの、叔母です」

亜樹のあとに続き、百合も自己紹介した。男性がよく通る声で言った。

「僕は、このフリースクールの教室長の、風野新といいます。こっちは、スタッフの塩谷です」

風野先生に紹介された、小柄な女性は、ぴょこんとお辞儀をして、

「塩谷莉莎子です。亜樹ちゃん、よろしくね」
と笑顔を見せた。

それから、風野先生は亜樹と百合を、小さな相談室に通し、フリースクールの説明をはじめた。

「ここには、学校に行けなくなった——いわゆる不登校の子供たちが、集まっています。吉峰さんにも、ここに平日は毎日通えるようになることを目指してもらいます。ここにいる時間は、学習をしたり、本を読んだり、生活習慣について考えたりしてもらいます。まず、じゃあ、今日は見学みたいなものだから、今日一日やってみて、合うようなら手続きをするしい、合わないようならまた考えてみてね」

風野先生に促されて、亜樹はおずおずと相談室を出て、亜樹の担当スタッフ、塩谷先生と二人で、教室内の片隅で、お話することになった。百合はここで「ごめん、仕事の時間だから。また帰り際に迎えに来るね」と言って、スクールの外へ出て行った。

塩谷先生は、小柄で髪をひとつむすびに結えている、まだ若い二十代半ばくらいの先生だ。

「吉峰さんは、普段何をしているときが楽しい?」

そう聞かれて、亜樹は、百合がいなくなったことを不安に思いながらも、リュックの中に入れていたカンナをそっと取りだした。

突然亜樹が取りだした西洋人形に、塩谷先生の目がまるく見開かれる。あ、大丈夫かな、引かれていないかな、とドキドキしながら、

「この人形はカンナといって……」

と説明しようとすると、塩谷先生の後ろから、ふわふわした茶色っぽい髪をした亜樹と同じくらいの女の子がひょいと顔を出した。

「なにそれー、かわいい!」
 塩谷先生は、急に現れた少女のほうを振り向くと、
「あれ、光谷さん、おはよう」

と笑顔で声かけをした。少女はくるくる動く大きな瞳で、亜樹のほうを見て笑った。親密な笑顔に、亜樹はひどく鼓動が早くなった。

「塩谷センセ、この子、新しい子?」
「そうよ、吉峰亜樹さんというの。仲良くしてあげて」
亜樹はそっと頭を下げる。少女は亜樹に向かって言った。

「あたし、光谷まなみというの。このフリースクールには中一のときから通ってる。よろしくね。で、その人形は、あなたのなの?」

まなみから急に飛んできた質問に、亜樹は一瞬おろおろしたが、勇気を出して言う。

「この子、カンナといって、私の親友なの」
「へーえ、素敵ね」

素敵といわれて亜樹は面食らう。中学校の子たちは、亜樹が人形を連れていると、気持ち悪がったのに、この子はどうもそうじゃないみたいだ。塩谷先生も、カンナを見て、

「とても精緻につくられた、きれいなお人形ね。吉峰さんに大切にされているのが伝わって来るわ」
と言ってくれた。亜樹はしぜんと頬を赤くする。

亜樹はその後、カードゲームや、友人関係を築くためのロールプレイを、塩谷先生とまなみと一緒に行って時間を過ごした。途中、フリースクールの通学メンバーである、髪を長く伸ばした田谷くん、体の大きい中橋くんとも挨拶をした。そのときもずっと、塩谷先生はカンナを「リュックにしまいなさい」なんて言わずに、亜樹のとなりの椅子に座らせてくれていた。

まなみは、ゲームをするときも、ロールプレイのときも、とにかく、けらけらとよく笑い、そのたびにふわふわしたきれいな髪が揺れた。亜樹は、ふと、まなみが誰かに似ていると思って、記憶をさぐっていたが、思いだした。カンナとペアの人形、アンナだ。

昔祖母に魅せられた、人形のカタログに、カンナの対として載っていたアンナに、まなみはそっくりだった。くるくるふわふわの茶色い髪も、大きな目も、散ったそばかすも。亜樹はじょじょに、まなみに親近感を覚えるようになった。

翌日亜樹は百合の付き添いなしで、一人で電車に乗って、フリースクールへ来ることができた。塩谷先生とまなみに、「おはようございます」と挨拶すると、亜樹はさっそく、カンナを取り出して椅子に座らせる。

「あれ、昨日と服、変わってない?」

まなみが目ざとく、カンナの服装の変化に気が付き、塩谷先生も「ほんとうだ」と、笑う。塩谷先生は、亜樹に訊く。

「カンナちゃんは、衣裳持ちなのね? このほかにもいろいろ持っているの?」
「あ、カンナのお洋服はぜんぶ自分でつくってて……」
「ええーっ、すごい!」

まなみが大きな感嘆の声を上げ、塩谷先生もびっくりした顔をしたので、亜樹は慌てて、

「昨日一緒に付き添いで来てくれた叔母が、洋服のパタンナーで、全部教えてもらったの。私一人で、出来るようになったわけじゃないから」

と言い訳した。まなみは、目をきらきらさせて亜樹に持ちかけた。

「私おしゃれ大好きなんだー、将来はモデルになりたくて。ねえ、亜樹ちゃん、私に洋服づくり教えてよ。手作りでつくってみたい」

「私にできるのはお人形の洋服だけだもの。人の着るような大きなものはつくったことない」

そっかー、と残念そうなまなみに、塩谷先生が言う。

「洋服の中でも、簡単なものはあるのじゃないかしら。フリースクールの課題授業として、みんなでつくってみるのはいいかもしれないわ。風野先生に私、かけあってみるわ。調べたら、私たちでもできるかもしれない」

亜樹ははっとして、「あの」と塩谷先生に声をかける。

「叔母に教えてもらえるよう、私、頼んでみます。叔母はそういうのプロなんで、もしかしたら、教えに来てくれるかも」

「あ、そしたら、謝礼のお話もしたいから、先生のほうから直接吉峰さんのおばさまに頼んでみるわ。吉峰さん、良い提案をありがとう」

そのあと塩谷先生はすぐに百合に連絡をとり、百合も二つ返事で承諾したようだった。

「やった! お洋服がつくれる」とまなみは飛び上がって喜び、亜樹も嬉しくなった。

翌週の水曜日、百合がお店の定休日に合わせてフリースクールに出向いてくれることになった。楽しみな予定ができるのは久しぶりのことで、亜樹の胸も躍った。

みんなで洋服を作ることになった当日、亜樹がフリースクールに出向くと、すでに百合が来ていて、五種類ほどの布地がテーブルの上に置いてあった。まなみが登校してくると、塩谷先生と合わせて四人で、さっそく作業にとりかかることになった。

「今日は、ウエストゴムのギャザースカートをつくります。みんな、まず好きな布を選んでね」

亜樹とまなみは、頬を紅潮させて、五種類の布地を検討した結果、亜樹は黄緑に小鳥の絵の模様の布地、まなみは薄紫に、赤い花と白い花が散った布地を選んだ。まなみには百合が、亜樹には塩谷先生がついて、作業を始めた。

布をカットし、ミシンを使って、二枚の大きな布を縫い始める。普段裁縫をしている亜樹と違って、まなみはほとんどミシンを扱ったことがないらしく、悪戦苦闘している。しょっちゅう亜樹の手元を見て、

「亜樹ちゃん、すごい、きれいにつくれてる」
というので、亜樹はおおいに照れた。

百合が出張授業に来れるのは二週間に一度、一日に二時間までなので、今日はスカート作りは途中になった。また、二週間後に、もう一度作業しなければならない。

「あー、楽しかった。はやく穿いてみたいなあ」

そういって大きく背伸びするまなみに、亜樹はほんのりと嬉しい気分になる。

「まなみちゃんは、痩せててきれいだから、スカートきっと似合うよ。今でも本当のモデルさんみたいだもの」

亜樹がそう言うと、まなみは、
「そういえば、亜樹ちゃんって将来何になりたいの?」

と聞いてきた。塩谷先生も「あ、それ知りたい」と言って笑っている。

亜樹は迷ったけれども、ためらわずに本心を口に出してみた。

「あのね、私は、お洋服もトータルで含めてデザインできる、お人形作家——お人形をつくる人になりたいの」

まなみはそれを聞くと、ぱっと花が咲いたように笑った。
「じゃあ、お互い夢を叶えられるようにがんばろうね」

その言葉に、亜樹も笑った。

「うん、一緒にがんばりたいね」

二人の会話を聞いていた塩谷先生が言った。

「じゃあ、亜樹ちゃんは、この先の進路のこととか、考えているのかな? 人形作家になりたいのだったら、特別な勉強がいるかもしれないよね」

亜樹は、そんなことは思ってもみなかったので、驚いて青くなった。塩谷先生は、亜樹の反応を見て、言った。

「ここの教室のパソコンを使って、人形作家の人たちが、どういうルートを通って、作家になったのか、調べてごらん」

亜樹は、先生に促されるまま、フリースクール内のパソコンスペースの椅子に腰かけると、先生に言われたとおりにパソコンを起動した。インターネットの使い方なら、うちでだいたいわかっているが、人形作家のプロフィールまで検索したことはなかった。いつもは、人形の洋服の作り方のページしか見ていなかったからだ。

検索した結果、人形作家の人たちは、美術系の高校、大学に通っていた人が多いということがわかった。

——結局、行きたい進路に行くためには、高校進学をちゃんと考えないといけないようだった。

(高校なんてどこでもいい)

和歌に投げやりに言った言葉が思いだされて、亜樹は赤面した。
「進路について、考えてみます」

亜樹は塩谷先生にそう言うと、今日のフリースクールのプログラムを終えて自宅へと帰った。

亜樹は、一週間考えたのち、和歌と隆司に「美術系の高校へ行きたい」と、隆司が休みの日の夕食の席で、宣言した。

和歌は最初、反対した。

「亜樹が、高校進学について考えるようになったのはいいことだけど、美術を学ぶのは大学からでもいいんじゃないかしら。普通科の高校に行って、学生生活を楽しんでから、大学で美術を学べばいいんじゃないの」
和歌の言葉に、亜樹は反論した。

「理科や数学とか、そんなに私に合っていないと思う。それよりは、美術やデザインをしっかり学んで、そっち方面で仕事ができるようになりたい」

隆司は、ビールで顔を赤くしながら言った。

「デザイン系で、手に職がつけられるまでになると、それはひとつの強みかもしれないなあ。亜樹、お父さんは応援するぞ。自分で、ここから通える美術専攻コースがある高校を調べてみて、パンフレットを自分で取り寄せて観なさい」

和歌は、指で額を押さえると言った。

「どんな高校に進学するのであっても、受験に受からないとお話にならないわよ。だから、不登校であっても、勉強はちゃんとやるのよ」

亜樹はうなずいた。和歌が、亜樹の進路をその日認めてくれたのだった。

パンフレットを取り寄せた亜樹は、風野先生のアドバイスも受けながら、自宅から通える二校の美術専攻コースがある高校から、中学校の出席日数を問題にしない、とある一校に、進路を絞り込んだ。

自分のこの先が少し光があるように見えて、ほっとしだした亜樹だったが、まなみが反面元気がなくなっていた。

亜樹は完成したのに、まなみのギャザースカートはつくりかけのまま、ほっておかれている。具合が悪くて百合の洋裁授業に出られなかったのだ。塩谷先生が、亜樹にこっそり教えてくれた。

「まなみちゃん、一番合格したかったモデルのオーディションに落ちちゃったのよ。それで元気がないみたい。ダイエットもして、がんばっていたのにね」

まなみは、亜樹が話しかけても、上の空だったり、ときには「いいよね、亜樹ちゃんには得意なことがあって。私には何もない」などと、いらいらをぶつけてくることもあった。

亜樹は、まなみにおびえるというよりも、ただ心配だった。

ある日、フリースクールのトイレを利用しようとした亜樹は、中でまなみが、げほげほとむせている声を聞いた。心配な気持ちのまま、外で待っていると、まなみがドアを開けて出てきた。まなみの口元は、食べかすで汚れていた。

「もしかして、吐いてたの?」

亜樹がそう聞くと、まなみは「誰にも言わないで」と言い捨てて、亜樹の顔を見ずに、さっとスクールの外へと出て行ってしまった。

そうしてまなみは、その後スクールに姿を見せなくなった。

亜樹は、スクールで、風野先生の指導を受けながら、英語の問題集を解いていた。受験まであと約一年少しあるが、学校で勉強している子たちにも負けないように、がんばらなくてはならない。

亜樹が集中しているさなかに、塩谷先生の携帯が鳴り、亜樹の思考は中断された。背筋をううんと伸ばして、体をほぐしていると、風野先生が言った。

「少し、休憩しようか。給湯室から、お菓子を持ってきていいよ」
「はい」

お茶とお菓子を用意して、テーブルに戻ると、風野先生と塩谷先生が、話し込んでいた。塩谷先生は亜樹の顔を見ると、眉を寄せて言った。
「まなみちゃん、少しのあいだ入院するそうよ」

亜樹ははっとした。この間亜樹が吐いていたことを思いだしたのだ。
「何か、悪い病気ですか」

そう言った亜樹に、風野先生が続ける。

「拒食症だそうだ。食べてもその分吐いて体重を減らしていたみたいで、親御さんから電話があって、一月ほど入院を予定していると聞いたよ」
「入院したら、良くなるんですよね」

亜樹は聞いたが、風野先生は、そうなるといいね、と言って、吉峰さんはおやつを食べたら勉強に戻ろうね、と話をそらしてしまった。

亜樹は、一晩自分にできることを考えた。その結果、まなみの作りかけのギャザースカートを仕上げて、まなみに渡してあげたいと思った。

亜樹は、百合と塩谷先生に考えていることを話し、二人の協力のもと、まなみのギャザースカートの仕上げに取り掛かった。

ミシンをかけていくたび、ゴムを入れていくたび、まなみの顔が思い浮かんだ。カンナはというと、ずっと亜樹の隣の椅子で、亜樹を応援してくれているように思えた。布の余りで、髪飾りのシュシュもつくってみた。

百合は、亜樹に指導をしながら言った。

「亜樹、成長したね」
「まなみちゃんは大事な人だもん。カンナをかわいがってくれたから」
「そうか、そうか」

ギャザースカートが完成すると、亜樹は塩谷先生と一緒に、まなみの入院先をたずねた。

「西棟の501号室ですよ」
病院の受付の人が、笑顔で言ってくれて、亜樹は塩谷先生と、病院のエレベーターに乗り込んだ。

廊下を歩き、501号室に着くと、そこは個室だった。ノックして、そうっと音を立てないように病室へと入る。

「あれ、亜樹ちゃんと、塩谷先生」

ベッドに寝ていたまなみが、驚いたように、言った。細い腕、こけた頬に、亜樹は言葉をなくす。塩谷先生が、まなみに優しく声をかけた。

「まなみちゃん、大丈夫」

「うん。心配かけてごめんなさい。亜樹ちゃんも、来てくれてありがとう」

まなみの言葉に、亜樹は紙袋の中から、ギャザースカートとシュシュを取り出した。

「まなみちゃんのスカート、私が仕上げちゃったの。あと、シュシュもつくった。勝手につくってしまってごめんなさい。でも、私、これからも、まなみちゃんに、服をつくりたいと思ったの。まなみちゃんは、大切な人だから。良かったら、またつくったらもらってくれないかな?」

亜樹が一息にそう言うと、まなみは、嬉しそうに笑った。

「だめだよ、タダでもらえないよ。十五歳になったら、バイト始めて、そのお金で買わせて。私は亜樹ちゃんのつくった服着て、オーディションに行きたい。亜樹ちゃんは大切な友達だもの」

「私、まなみちゃんの友達でいていいの?」
「もちろんだよ」

二人は手を取り合い、塩谷先生は、にこにこ笑いながら、亜樹とまなみを見ていた。

一年後、亜樹は地元の美術系の高校に進学が決まり、まなみも東京のモデル事務所に所属が決まった。通信制高校に通いながら、事務所で仕事をするそうだ。フリースクールも、二人とも今日で卒業だった。

「亜樹ちゃん、だいぶ笑顔が増えたし、可愛くなったね」

塩谷先生が感慨深げに言う。

「まなみが、髪をさらさらにするシャンプーを教えてくれたから」

亜樹は照れたように笑った。

「まなみちゃんはこのところ、体調もいいみたいだし、病気をきっかけに、自己管理できるようになったね」

「亜樹が、食べなきゃだめだよって心配するから」

二人はこのごろ、まなみ、亜樹と、名前で呼び合うようになっていた。亜樹は地元だが、もうすぐまなみは東京の女子学生寮へと入ってしまう。二人が一緒にいられる時間は限られていた。

離れていても、連絡を取り合おうとは、お互いに話していて、その約束が、二人をたしかにつないでいた。

亜樹は、和歌に、この半年ずっと考えていたことを、お願いすることにした。

「お母さん、おばあちゃんの老人ホームへ連れて行って。どうしても、おばあちゃんに会いたいの」

和歌は驚いたが、高校進学を決めた娘のお願いを無下にはしなかった。

「いいわよ。ただ、亜樹のことは、顔も名前もわからないとは思うけど」
「それでもいいの」

そのお願いから一週間後の日曜日、和歌は、亜樹を車に乗せて、祖母、佐和の暮らす特別養護老人ホームへと向かった。

ホームのスタッフが、亜樹と和歌を、佐和のルームへと通してくれた。佐和は、寝椅子に座って、目を閉じていた。

スタッフが佐和を揺り起こす。
「佐和さん、お孫さんと娘さんが、いらしてますよ」

薄目を開けた佐和に、亜樹は話しかけた。
「おばあちゃん、私だよ、亜樹だよ」
「あき……?」

和歌の事前の言葉通り、佐和は亜樹のことがわからないようだった。亜樹は続ける。

「おばあちゃん、私ね、大切な友達ができたよ。おばあちゃんも一人で寂しいと思うから、この子をおばあちゃんのところに置いていくね。おばあちゃんが昔くれた、カンナちゃんだよ。ときどき、着替えさせにくるからね」

娘が実母に優しく話しかける様子を、和歌は目頭を押さえながら聞いた。亜樹は和歌に、「じゃあ、行こうか」と言うと、佐和の病室を出た。

振り向いて、亜樹はカンナと目を合わす。
(カンナ、いままでありがとう。おばあちゃんをよろしくね)

そう胸の奥でつぶやいた亜樹に、まっすぐカンナの気持ちが飛び込んできた。
(まかせて、亜樹ちゃん。高校も、がんばってね)

早春の陽射しが、亜樹の見つめる中、カンナと佐和を柔らかく包んでいた。

※本作品は2017年9月にnoteに載せたあと、改稿のために一度下ろしていたものの再掲載になります。

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