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上田聡子
2015年7月29日 21:30
毎晩パソコンに向かって仕事をする私の手元には、フォトスタンドに収められた古い写真がいつもある。写真の中では、三人の制服姿の女の子が並んで仲良さげに笑っている。一人は私。あと二人は、千絵と遥だ。私たちは高校時代、お互いのことを「親友」と呼んでいた。写真の中の三人は永遠に高校二年生だけど、私たちは等しく齢をとり、今年で三十二歳になる。そして、三人の距離は、毎秒、毎秒離れつつあることを実感する日
2015年7月5日 16:41
宮がふっと目を開けると、柔らかいとはいえない布団の感触がした。かつがれたまま気を失ったことまで思い出し、はっと身を起こして周りを見渡すと、近くの囲炉裏の側に、年を召した老僧が座っているのに気が付いた。「目が覚めたようですな」柔和な笑みで話しかけてきた老僧に、宮はたずねた。「あの、私、なにがなんだか。ここは、どこなのでしょうか」「ここは、村井の荘のはずれの、長楽寺というぼろ寺ですよ」
2015年7月1日 19:05
その戦は終わりなく思えた。敵味方に分かれての泥仕合は、いつ果てが来るともしれず、雑兵にすぎない自分も、近いうちに斬られるのだと、弥十郎は静かに覚悟を決めていた。彼はまだ十六に過ぎなかったが、到底自分が長く生きるとも思えなかった。かがり火の下で、仲間の兵士と酒を酌み交わしながら、熱い頬を覚ましていると、ふとこんな噂が聞こえてきた。(荒れ果てたぼろ屋敷で、一人琴を弾く娘がいるのだとよ)(その娘は