マガジンのカバー画像

ずっと待つよ

114
少し長めのお話を集めたマガジンです。
運営しているクリエイター

2015年7月の記事一覧

永遠のその先

永遠のその先

毎晩パソコンに向かって仕事をする私の手元には、フォトスタンドに収められた古い写真がいつもある。写真の中では、三人の制服姿の女の子が並んで仲良さげに笑っている。

一人は私。あと二人は、千絵と遥だ。私たちは高校時代、お互いのことを「親友」と呼んでいた。写真の中の三人は永遠に高校二年生だけど、私たちは等しく齢をとり、今年で三十二歳になる。

そして、三人の距離は、毎秒、毎秒離れつつあることを実感する日

もっとみる
夏草(2)

夏草(2)

宮がふっと目を開けると、柔らかいとはいえない布団の感触がした。かつがれたまま気を失ったことまで思い出し、はっと身を起こして周りを見渡すと、近くの囲炉裏の側に、年を召した老僧が座っているのに気が付いた。

「目が覚めたようですな」

柔和な笑みで話しかけてきた老僧に、宮はたずねた。

「あの、私、なにがなんだか。ここは、どこなのでしょうか」
「ここは、村井の荘のはずれの、長楽寺というぼろ寺ですよ」

もっとみる
夏草(1)

夏草(1)

その戦は終わりなく思えた。敵味方に分かれての泥仕合は、いつ果てが来るともしれず、雑兵にすぎない自分も、近いうちに斬られるのだと、弥十郎は静かに覚悟を決めていた。彼はまだ十六に過ぎなかったが、到底自分が長く生きるとも思えなかった。かがり火の下で、仲間の兵士と酒を酌み交わしながら、熱い頬を覚ましていると、ふとこんな噂が聞こえてきた。

(荒れ果てたぼろ屋敷で、一人琴を弾く娘がいるのだとよ)
(その娘は

もっとみる