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お気に入りの物語ベスト10

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これまでの物語の中で、スキの数に関係なく作者自身が気に入っているショートショートをセレクトしています。【きまぐれ更新】
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#小説

ヤツはロボット?|ショートショート

アンドロイドと人間の区別がつかなくなって、もう数年になる。 アンドロイドの持ち主が何らかの事情でいなくなることによって生まれる、いわゆる「野良ロボット」の問題が顕在化し始めたのもこの頃だ。 街を人間のようにうろついている野良ロボットは、取り締まりの対象となった。アンドロイドは腹部にバーコードを持っている。警官が呼び止め、相手がアンドロイドと分かれば、バーコードの提示を求めた。 バーコードの改ざんは不可能。野良ロボットが取り締まりを避ける唯一の道は、人間のフリをすることだった

みんなでジュリエット|ショートショート

「はい、ではジュリエット役をやりたい人?」 さっきまで熱を帯びたざわめきが教室を満たしていたが、先生のこの一言で水を打ったように静かになった。 学園祭のクラスの出し物が演劇『ロミオとジュリエット』に決まった時は、クラス一同落胆した。食べ物の出店や、お化け屋敷を期待していたのに、よりにもよって、ラブストーリーの演劇とは。 他のクラスの奴らが冷やかしに見に来ることを想像しただけで吐き気がする。 「先生」 クラスのひとりが手を挙げ、皆は一斉に振り返った。 「何人かでジュリエット

で、出たぁ!|ショートショート

「で、出たぁ!」 驚いてのけぞった拍子に、椅子から転げ落ちた。 新入りの、この漫画のような動きに、古株たちは皆笑い転げた。 「おい、幽霊が生きてる人間に驚いてどうする」 「いやはや、生きてる時の感覚が抜けないもので。すみません」 新入りが床から立ち上がるのを、古株たちは同情を込めた目で見守っていた。 幽霊の住む世界には、もちろん幽霊しかいない。 最近亡くなった人と、ずいぶん前に亡くなった人という、時間的な格差はあるものの、皆生前と同じような平穏な生活を送っている。 とこ

雨雲ろうそく|ショートショート

「くそぉ、またお天道様が顔を出してらぁ」 ここ数ヶ月の日照りで、じいちゃんの畑は危機に瀕していた。青い空には白い雲がぷかぷかと気持ち良さそうに浮かんでいる。 「おい、お前。ヒマなら向こうの神社に行って、雨乞いでもして来い」 僕は鉛筆を放り出して外に出かけた。セミの声がうるさい。田舎はこれだから嫌だ。 別に雨乞いなんて現代で通用するとは思っていなかったけど、宿題を中断する口実ならなんでもよかった。 外に出たものの、特に行くところはないので、本当に神社に向かった。 鳥居近くの

ボーナスポイント|ショートショート

「あれ、ボーナスポイント溜まってるじゃん。昨日何したの?」 「へへへ、秘密ですよ。先輩!」 人々の左肩にARで表示されているボーナスポイントについて触れることは、近頃の挨拶代わりだ。 このボーナスポイントは、いわゆるゲームの得点だ。だが、通常のゲームと違う点が2つある。 1つは現実世界とリンクしていること。人々が現実世界において、健康的で文化的な善い行いをすると、そのミッションに応じてポイントが加算される仕組みだ。例えば、お年寄りに席を譲ると10ポイント、休日に公園のゴミ