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みんなでジュリエット|ショートショート

「はい、ではジュリエット役をやりたい人?」

さっきまで熱を帯びたざわめきが教室を満たしていたが、先生のこの一言で水を打ったように静かになった。
学園祭のクラスの出し物が演劇『ロミオとジュリエット』に決まった時は、クラス一同落胆した。食べ物の出店や、お化け屋敷を期待していたのに、よりにもよって、ラブストーリーの演劇とは。
他のクラスの奴らが冷やかしに見に来ることを想像しただけで吐き気がする。

「先生」
クラスのひとりが手を挙げ、皆は一斉に振り返った。
「何人かでジュリエット役をやるのはどうでしょうか?」
「ダブルキャストか。まあ、主役は台詞も多いし、シーンごとにキャストが交代するのは悪くないかもな」

複数人で恥ずかしさを紛らわすのか、名案だな。
ジュリエット、みんなでやれば、怖くない。

「複数でやるなら、ジュリエット役をやりたい人は?」
示し合わせたように、何人かの女子が手を挙げた。ははーん、さてはあらかじめ話し合っていたな。

「わかった。じゃあロミオはどうする?」
「小林くんがいいと思います」
小林の名前が出た途端、女子のクスクス笑いが広がった。クラスの中でもイケメンで知られる小林は、突然の指名に照れ笑いとも、苦笑いともつかない笑顔を浮かべていた。
なるほど、そういう魂胆か。

「でも、ジュリエットがダブルキャストなら、ロミオも複数がいいだろ? 台詞も同じくらい多いわけだし」
先生の提案に、ジュリエットの女子たちは露骨に嫌な顔をしていた。きっと、そういうつもりじゃなかったのだろう。

「じゃあ、もう一人は山本で」
突然自分の名前が呼ばれた俺は、驚いた。いつの間にか挙手制から指名制に変わっているのに気づかない先生は、期待顔でこちらを見てくる。
「小林が言うなら、山本にするか。どうだ?」
小林はニヤニヤしながら振り返った。くそ、道連れか。
「あー、はい」
「よし、決まりだ」


演劇の稽古中、ジュリエットたちの台詞が俺の胸に突き刺さる。
「ああ、ロミオ。どうしてあなたがロミオなの?」

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