「皐月と美月の夏」 <note版①>

〜ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された女の子の不思議な夏の物語。~

<あらすじ>横浜に住む小学4年生の皐月は、昔からトラブルメーカーでお調子者、マイペースに自己中というレッテルを貼られ、家族の心配の種であった。夏休みまであと1週間という時に、皐月は学校である事件を起こしてしまい小学生なのに停学処分を受け、みんなより一足早い夏休みに突入したのだが、両親はその事件を重く受け止め、皐月を夏の間、ある危険人物へ預けることにした。親族歴代1位の心配の種だった皐月の叔母、美月の元へ。5年前に突然七島という小さな島に引越し、七家というゲストハウスを始めた美月の元へは、天使や絵描きなど世界中から一風変わったゲストが訪れる。そんな環境の中、1人で預けられることになった皐月は、夏が終わる時、どうなっているのか・・・。


1話 皐月の話 「私の叔母さんは変な人。」


私の叔母さんの名前は、今井美月。(いまいみつき)

年れいは私のパパの妹だから、37才のパパよりは若い。叔母さんの思い出は、あんまりない。年に1回、お正月に会うとお年玉をくれるが、毎年いろんな国のお金をくれるのでコンビニで使えない。

パパとママは叔母さんのことを「変わってる。」という。

大好きな優しいおじぃちゃんは「皐月と美月は名前だけじゃなくて、性格もよく似ている。」という。

ということは、私も変わっているということらしい。

私が小さい頃の写真に写っている叔母さんは、髪が黒くて長くて、顔も女優みたいに綺麗だけど、みんなが黒い服を着ているのに、1人だけアフリカの人みたいなカラフルな変な格好をしていた。

「この黒い服は喪服といって、お葬式とかには黒い服を着なきゃいけないんだよ。」とパパが教えてくれた。

叔母さんは、5年前に横浜から七島(ななしま)という小さな島に引っ越した。

うちから叔母さんちに行くには、電車と飛行機とフェリーと車に乗って1日の半分と学校の授業2回分くらいかかる。とにかく遠いし、不便なところらしいけど”七島”という名前は気に入った。何だか魔法が使えそうな島だ。

私のパパは月曜日から金曜日まで会社に行って土曜日と日曜日をお休みする。ママは週に3日くらいパートに行く。パパは毎日6時30分に起きて、顔を洗ってスーツを着て髪をセットしてから、ママが作った朝ごはんを食べて、コーヒーを飲んで歯を磨いて7時35分に「行ってきます。」と言って家を出る。ロボットパパだ。

叔母さんの七島での毎日はどんなだろう・・・。

パパと違うということだけはきっと間違いない。

そんな変な叔母さんのところに、私は夏休み中1人で預けられることになった。

もちろん、パパとママとそんなに長い間離れたこともないし、叔母さんと仲よしというわけでもないから、私は全力で大泣きして「いやだ!」ということを伝えたし、反対活動としてマンションの廊下を叫びながら走り続けたりもしたし、交番に駆け込んでおまわりさんに助けを求めたりもしたが、いつも優しいパパが、ガンとして折れなかった。

「皐月は、この夏休み美月叔母さんのところに行ってもらいます。これはパパとママとで決めた決定事項だから、どんなに嫌がっても暴れてもおまわりさんに言っても変わりません。諦めて叔母さんのところに行く準備をしなさい。」と、学校の先生のような口調で言った。

私はパパの目をキッと睨んだ。睨んだら、これは勝てないということがよく分かってしまったので、しぶしぶ泣きながらお気に入りの大きなバッグに、大好きなアイテムを詰めることになったのだ。

全ては、私が学校で”やってはいけないことをやってしまった”せいらしいけど、私はその時から、七島の叔母さんのところへ向かう日までずっと怒ってすねていたし、納得していなかった。

出発の日はパパが七島まで送ってくれることになり、ママとは玄関でお別れした。

「・・頑張って!いい子でね!電話してね!」私を無理やり行かせるくせに、ママは泣きながら私を抱きしめた。親というものは本当に意味がわからない。

私はすねたまま、「・・・行ってきます。」と呟いてドアを閉めた。

こうして、私の長い夏休みが始まった。


続きの話→ 2話「私の姪は変な子。」


山形県に住んでいる小学4年生です。小説や漫画を読むのが好きで、1年生の頃からメモ帳に短い物語を書いてきました。今はお母さんのお古のパソコンを使って長い小説「皐月と美月の夏。」を書いています。サポートしていただいたお金は、ブックオフでたくさん小説を買って読みたいです。