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「お腹の赤ちゃんが、話しかけてきた。」<短い小説>

咲のお母さんのお腹の中には、豆ツブくらいの赤ちゃんがいた。

咲がお母さんに絵本を読んでもらう時も、赤ちゃんは咲に話しかけてくる。

「おねぇちゃん!ねぇねぇねぇ…おねぇちゃんってばー!」

「………もうっ!うるさいな!いまママに絵本読んでもらってるんだから、しーっ!」

「え?なに!?咲ちゃん。どうしたの!?」

「誰でもない!なんでもなーい!」

咲のお母さんは、まだお腹に赤ちゃんがいることを知らない。

4歳の咲は悩んでいた。

お母さんに教えてあげるか、それともどうにかしてこのおしゃべりの赤ちゃんをお母さんのお腹から別の場所に行かせるか。

赤ちゃんの声は、なぜか咲にしか聞こえていないようだった。

「おねぇちゃん。ぼくは男の子なんだー!名前はゆうくんって言うんだよー!ちゃんとママに教えてあげてよ!」

「…なんで?」

「だって、僕のおねぇちゃんでしょ!」

「おねぇちゃんになんて、なりたくないよ!私はずっと一人っ子でいいもん!」

「なんで?」

「だって、ゆうくんが生まれてきたらママもパパも、ゆうくんゆうくんってなって、私のことなんか忘れちゃう!そんなのぜったいやだもん!可愛い赤ちゃんなんていらない!どっか、ちがうところにいってよー!!!!」

「………。」

「…いなくなった?」

「いるよ!」

「どっかいって!」

咲のお母さんは、咲がおままごとか、物語の真似をしているのだろうと、咲の独り言を気にしないことにした。

豆ツブだった赤ちゃんは、ミートボールくらいになった。話し声も大きくなる。

「ねぇねぇ、おねぇちゃん!ママってどんなひとー?」

「…ママは優しいよ。」

「あらー?咲ちゃん、いきなしなーに?ありがとう。うふふ」

「へー!へー!ほかには?ほかには?」

その時、咲はある作戦を思いついた。

「でも、ママはすっごい怒るよ!鬼みたいにこわーい顔して!あと、嫌いな食べ物も無理やり食べさすし!お外で遊びたいっていってもどっこにも、連れてってくれないよ!すっごくいじわるな魔女みたい!」

「咲っ!なんなの!いきなり!」

咲は怖い顔をしたお母さんに、本当に怒られることになってしまった。

「ごめんなさーい!」

お母さんに言おうとしたわけではなかったが、咲は怖くて悲しくて悔しくて、わんわん泣いた。それを聞いた赤ちゃんはお母さんが怖くなった。

「ママは本当に怖いんだ…。ぼくも怒られたりしちゃうんだ!」

その時から、赤ちゃんの声がピタッと聞こえなくなった。

咲は、ほっとするかと思ったが、全くの逆だった。

赤ちゃんはどうしたんだろう?もう、どこか別の場所に行っちゃったのかな?ひょっとしたらお腹の中で泣いてるかもしれない!

咲はいてもたってもいられず、お母さんにすべてを話した。

お母さんは、はじめは本気にしてくれずくすくす笑いながら「はい、はい。」と聞き流していたが、そのうち顔がこわばった。"もしかしたら…"と思ったのだ。

咲を連れて急いで病院へ行くと、お母さんのお腹に、赤ちゃんがいた。

モニターに映る小さな赤ちゃんの小さな小さな手は、咲に向かって手を振っていた。

赤ちゃんは元気で、ほかの場所には行かず、お母さんのお腹にちゃんと留まっていたのだ。

咲はそのことが嬉しくて、赤ちゃんを弟と認めることにした。

「ゆうくん、よろしくね!」

「うん!おねぇちゃん!」

「ねぇ?どうして黙っちゃったの?」

「おねえちゃんを心配させてやろうと思ったんだ。ごめんね?」

「もぅ!生まれる前から困った弟くんだなー」

2人は、きょとんとするお医者さんとお母さんの前で、あはははと笑った。

咲と赤ちゃんは、生まれるまで、お腹の中と外でずっとお話をしていた。

6歳になった咲は、1歳になったばかりの弟と、ずーと前から一緒にいるような不思議な感覚をたまに感じる。

1歳の弟は夜にいきなり起きて泣き続けたり、好き嫌いが激しく食べ物を投げたりする困った弟だが、咲にはたまらなく可愛い弟だ。



(あとがき)

これは物語なのですが、半分は本当のお話です。私の弟がお母さんのお腹にいるときに教えたのは私だったみたいで、4歳の私はお母さんに「ママ〜お腹に赤ちゃんいるよ〜きょうちゃんっていう男の子だよ〜」と言ったらしいのです。お母さんが調べると本当に妊娠していて、その後、本当に男の子だとわかったので、名前も「きょうちゃん」と呼べる恭一郎になったのです。なので、莉亜と恭一郎で私たち兄弟の名前に統一性は0ですが、私が名付け親なので仕方ないのです。でも、そのことを私は全く覚えていません。残念です。

この物語は私の空想ですが、きっと私と弟もこんなやりとりをしたんじゃないかなと思って書きました。


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倉本莉亜@小学生小説家
山形県に住んでいる小学4年生です。小説や漫画を読むのが好きで、1年生の頃からメモ帳に短い物語を書いてきました。今はお母さんのお古のパソコンを使って長い小説「皐月と美月の夏。」を書いています。サポートしていただいたお金は、ブックオフでたくさん小説を買って読みたいです。