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春の星々(140字小説コンテスト2024)結果発表

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「細」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「季節の星々賞」として入選3編+佳作7編(計10編)を選出しました(応募総数644編)。ご応募いただきありがとうございました。

選評(評・ほしおさなえ)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。

入選の方々には特製の賞状(ほしおさなえによる手書きのお名前入り)と、図書カード(1000円分)を贈呈いたします。

年4回のコンテスト後に、各回の入選作のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作

入選(3編)

高遠みかみ(サイトからの投稿)
(細雪って知ってますか。谷崎の。中学のとき友人が読んでて、どんな話かって聞いて。そしたら細い雪が降るって。そのまんまですね。でもその友人、実は全然読んでなくて。で、おれも本読まないんで、おれにとっての細雪って、ずっとしずかに雪が降ってるだけの小説なんですよ。)手を繋ぎませんか?

千景虹(サイトからの投稿) 
目は二つと言われたので残り五つは潰しました。口は一つのようなのでそれっぽい穴を開けました。手と足は二つずつらしいので素敵なものを拵えました。これでいいかと思ったけれど、やっぱり細い筒を向けられました。
まったく。この生き物たちにとって、いったいどこからが「同族」なのでしょうか。

酒部朔(サイトからの投稿) 
介護用のミトンを外すと細くなった指が現れる。鼻歌でもうまかったらよかった。ホラ話がうまかったらよかった。もっと父と触れ合えばよかった。手を握れるのは最後になるだろう。ぼくがいきなりそんなことをしたら、そう、最期だと父は悟るだろう。ぼくは握った。ぼくが生きていくために握った。

佳作(7編)

赤木青緑 @akakiaomidori 
細い魚を見た。見たことのない魚だった。細さが際立っており細いという特徴がダイレクトにきた。細い魚としかいいようがなかった。よおく見ると魚ではなかった。細い紙だった。紙を細長く折り畳んだものだった。魚とは似ても似つかなかった。なぜ魚だと思ったのだろう。おそらく細かったせいだろう。

泥まんじゅう @doromanju_sub 
父はいつも明け方にミルクをいれる。いつものカップに黒いコーヒー。そこへミルクをゆっくり回し入れる。カップの黒い水面では、か細い白い線が渦を巻いて、徐々に全体の色を明るく染める。父がミルクを注ぎおえる頃には、なぜかいつも夜があけて白い陽がにじみ始めている。父はこの日課を仕事と呼ぶ。

右近金魚 @ukonkingyo 
「蕎麦は途中で切らない」。それがわが家の約束だった。つるつると麺を啜るおかっぱ頭の私。湯気にむせ噛み切りたいけれど、ぐっと堪える。上手くいけば願いが叶うと信じている。子猫、初恋、家内安全と願いは移り変わっていった。今夜も眠る母の隣で蕎麦を啜る。微かに光る細い細い糸を手繰り寄せる。

三津橋みつる @mitsuru32hashi 
お喋りだった祖母が唯一静かだったのは、棺の中にいる時だった。病床ですら嘘みたいに賑やかだったのに、私のぴかぴかのランドセルはついぞ見ることはなかった。
祖母は今でもお喋りだ。
私が欄間を見上げれば、額縁の中で目を細め、口角を上下させる。息継ぎが要らないぶん、昔よりよく喋っていた。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd 
和紙の層に刃を入れます。「小口」と名を得たその断面は鋭く整い、しかし、ふんわり空気を含んでいます。しばし見惚れた後は切り離された紙片の中でとりわけ細い――糸のように細いものを――つまみ上げ「ふ」と息を吹き掛けます。すると、ごく偶に青葉が舞います。ごくごく稀に小さな蝶が飛んでいきます。

山口絢子 @sorapoky 
すっかり細くなった友は、和柄のワンピースを着ていた。これ、母の着物だったの。覚えている。彼女のお母さんは参観日、必ず着物で、あやちゃん、と私に微笑んだ。彼女はお母さん似の笑顔で、器用に林檎を剥く。あら、何の音かしら。豆腐屋のラッパの音だ。彼女は素足のまんま、月夜へ駆けてゆく。

祥寺真帆 @lily_aoi 
「これじゃ同窓会というよりただのお茶だ」会うのは仲間の葬式以来だ。細く短く生きる。文集に同じ言葉を書いた二人が残るとは思わなかった。勉強ができたやつ、モテたやつ、仕事で成功したやつ、皆いなくなった。「お前の方が生きるよ」「いやお前こそ」別れ際、最後の一人のカードを押し付けあう。

part1 part2 part3 part4 part5 part6 予選通過作 結果発表

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