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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「細」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

4月30日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(4月1日〜6日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月6日

有明コムギ(サイトからの投稿)
スコッチ島は何もない所だけれど、人々は島に残ることを選んだ。毎日畑を耕しては家畜に餌をやり、空き時間は子供に算数を教えた。夕飯時はテラスの椅子に腰掛けて、太陽の残光が細い線となって消えてゆくまで海を眺めた。地球は明日滅亡する。膝の上に座る子供の頭を撫でながら彼らは深く目を閉じた。

有明コムギ(サイトからの投稿)
お元気ですか。巻いてくれたマフラーの温かさ。片腕に食材をたんまり抱え、空いた手を繋いで帰った夕暮れ。「おやすみなさい」と明日の約束。そうだ、家の前の桜は今年も気持ち良さそうに咲きました。ぬくもりは少しずつ薄れていくけれど私は元気です。細々と、されど逞しく。私は今日も生きています。

椎井 慧 @she_satoshi
地面に穴を掘って、大きな声で穴に向かって叫ぶ。毎日毎日叫んでいたら、細い蔦のようなものが穴から生えてきたので怖くなって穴を埋めた。埋めたあとも蔦は成長して、桜色の花を一輪咲かせた。仕方がないので花を摘み取って窓辺に飾ると、それを見にきた天使がこれ頂戴と言うので私は泣いてしまった。

東方健太郎 @thethomas3
どこからか誰かの嗤う声がする。辺りは一面の漆黒の闇である。遠くから我が身を指差して笑い合う。金切り声をあげて叫ぶ者がいる。何物かを投げつけてくる者がいる。人々の悪意と憎悪は留まるところを知らない。目の前には、ただ道がある。その先には、一筋の光が射し、細く長い光の道を照らしている。

椎井 慧 @she_satoshi
細道を抜けると、踏切に行き当たる。カンカンカンカン。けたたましい音を聞きながら踏切のあちら側を眺めると、私を見つめる私が立っていた。「おーい」私が手を振るので、同じように手を振り返す。電車が通り過ぎ踏切が開くと私は私に駆け寄ってきた。二人の影が重なって、私はようやく安心したのだ。

椎井 慧 @she_satoshi
季節外れの細雪が桜の花びらを白く染める。君は「もう冬物のコートしまっちゃったんだよね」とはにかんで赤くかじかむ指先にハァ、と息を吐いた。その吐息が白い煙のように空へ昇り、鈍色の雲と混じり合ってまた雪を降らせる。それはまるで永久機関のようで、僕は降り続く雪がやむよう君の手を取った。

藤川 六十一(サイトからの投稿)
僕の初恋は、美しい従妹。血のつながりゆえに、許されぬ恋。彼女の結婚が急に決められて、式に招待されたが、行かなかった。結婚は、時には、法律が認めた強姦だ。その夜、彼女が今犯されていると想い、眠れず、外へ出た。「生まれ変わって、今度こそ一緒になりましょう」、星空から細い声が聞こえた。

右近金魚 @ukonkingyo
「蕎麦は途中で切らない」。それがわが家の約束だった。つるつると麺を啜るおかっぱ頭の私。湯気にむせ噛み切りたいけれど、ぐっと堪える。上手くいけば願いが叶うと信じている。子猫、初恋、家内安全と願いは移り変わっていった。今夜も眠る母の隣で蕎麦を啜る。微かに光る細い細い糸を手繰り寄せる。

4月5日

時見初名(サイトからの投稿)
細い路地を抜けたらそこに不思議な世界が広がっていないかいつも期待していた。いつかたどり着けたなら私はどうするだろうか。そう何度自分に問いかけたことだろう。答えなんてとうの昔に決まっているのに。だからもう目も向けない。帰る場所、君の待つ家を見つけた私にもうそんな世界は必要ないから。

MKS(サイトからの投稿)
俺は繊細すぎて、イヤらしい事を考える。けど自分に上手くいく可能性が無いのなら、せめてアイツが振られて欲しい。俺の自己肯定感を守るために!彼女の細い腰を妄想する度、置いてけぼりに喰い尽くされる。アイツだけは決して彼女に触れさせない。人の庭を荒らすな。先に好きになったのは、俺。

石動志晴(サイトからの投稿)
 お前は私に春を伝えに来たのではない。か細い足で窓外に植えた木の枝に掴まり、己を主張するためだけに鳴く。なんて自分勝手なんだ、と思う。思うが、ここまで言っておいて私はお前のことが嫌いではない。その生存の自分勝手さに、私はどこか、私には無い、命の終わりがある生き物の必死さを感じる。

御糀毬 @mi_koojimari
男はずるい。目が細くても「切れ長」と誉めそやされる。女の一重なんて土俵にすら上がらない。隣の席の田中くんにそう愚痴ってみたら、イケメン俳優を想像しながら話すのも良くないと思うし土俵は人の数だけあると思うよと注意を受けた。俺の土俵を教えてあげようかと挑戦的なことも言われたのは何故。

虹風 想蒔 @i_nw_ao_rbdmges
ブラウスを買いに来た。試着しようとして、隣のジレに目が留まる。背が低いから、今まで見向きもしなかったのに。羽織ってみると、鏡には心なしか細長い自分。手持ちの服にも合いそう。パンツ、ブラウスももう1枚。新たな世界で生き抜いていくと決めた。相応しい戦闘服と普段着は、揃い始めたばかり。

行明天(サイトからの投稿)
子供の頃木登りが得意だった。小さな四肢で幹にしがみつき世界を見渡す感覚にとても心が躍った。だから今でも楽しめると意気込んだ。私はあの夏を再現するように枝に手を伸ばす。だが頭上にある次の支えは身を預けるには細くて脆すぎることを悟った。私はいつかの自分から大人になってしまっていた。

荒金史見 @af_viz0319
幾つかの嘘と幾つかの真実を混ぜたものだと言われて渡されたそれは、紛い物と本物の中間のような輝きを持った小さな石。女は言う。「決して暴かれない嘘がつける口が欲しければそれを海に捨てろ。真実を見抜く目と耳が欲しければそれを山に埋めろ」私は石を握りしめたまま、目を細め、そして、閉じる。

行明天(サイトからの投稿)
学校で人気者のあの子の話。彼女は神に愛された子だと思う。だって誰もが絶賛する細くてモデルみたいな容姿は天性のものなのよ。到底、私なんかは手も足も出ないくらい。だけどあの子も可哀そうな子。愛され続けるために「好き」も捨てて食事制限に勤しむ心の貧しい人。太っているくらいが幸せなのに。

4月4日

日々 @hibino_sousaku
私の家のお風呂が壊れた9歳のある日、クラスのおこりんぼな女の子に銭湯の露天風呂で出会した。逃げるように湯船から上がろうとする私に、彼女は夜空に煌めく星を指し、呟いたのだった。「いつもあの星があるの。誰かに言いたかった」
細い煙突を見ると、今でも彼女の抱え込んでしまった星を思い返す。

ユカミリク @yukamiriku
「はい、これが鍵です」
この季節に上京してきた人が決まって見せるように、まだ幼さが残る彼は心細い表情を浮かべて鍵を受け取った。
大丈夫?と声を掛けたくなったが、それは失礼な気がした。
部屋の扉が閉まる直前、背中の方で「よしっ!」という強い声が聞こえた。私は心の中でエールを送った。

才田リツ @ritsu_saida
君はガラスのハートを持っていたんだね。繊細な印象なんてなかったのに、尖った言葉で割れてしまった。夜明け前、君が床に落ちた破片を一生懸命に拾っていたから、僕も手伝った。こんなにキラキラしてたんだね。朝日が入ってきたら、もっと輝きそう。粉々だったから、素手で触れても怪我はしなかった。

狭霧織花 @orika_sagiri
黒髪が流れて、幾筋かの川が生まれる。陽光がちらちらと、ますます川面のように輝いて。
触れるのすら恐ろしく、それでも抗えないほどに美しく。紅い唇が、ゆっくりと、招くのだ。
呑まれることがわかっていて、この芽吹きのために、犠牲となっても厭わしくはない。
か細い命が、長きを得るために。

山沢みゆう(サイトからの投稿)
美容室で隣の席に座った、線の細い女のひとを、視界の端で見ていた。「え、じゃあ仕事辞めるんだ?」うるさい美容師さん。今はこの線の細い女のひとの美しさに浸っていたいんだ。私の髪がざくざくと切られていく間に、女のひとの長い黒髪は繊細に先を揃えられて無言。

でこぽんず @140ohanashi
…君からLINEが来た。「明日の古典の課題が謎です…和歌を訳して下さい!」私は我流の現代語訳を返す。「君に会える道はもうないんだね。私の君への心だけ細い道を行ったり来たりするだけ」すると「流石!受験する大学違うけどお互い頑張ろうぜ!」リマスターした乙女心に気づけ、鈍くて格好いい馬鹿!

camel @kaerutorakuda
詳細は追って連絡すると言われ一週間が経った。追ってこない。折り返すべきか。しかし、殺し屋から仕事を催促するのはいかがなものか。3ヶ月、半年と待ち続けて早3年。独自にターゲットを割り出し聞き取り調査を行い、セール期間を設けても連絡はない。キャンセルについて細かく書こうと心に決めた。

camel @kaerutorakuda
糸屑が目の前を舞っている。目薬を点すと糸屑は赤に染まった。怖くなって母に電話すると、落ち着いて深呼吸と言われた。深く吸って吐いてを繰り返すうちに糸屑は青に変わった。おぉ!と声を上げると黄色へ。目を擦ると、糸屑が細く伸びて一筆書きで「大丈夫?」と聞いてきた。お前に言われたくない。

camel @kaerutorakuda
細い紐が頭から生えた。つむじからにゅっと伸びて、引っ張ると痛い。ハサミで切ろうとすると、髪に絡まる。あまりに嫌がるので、仕方なくキャスケットを被り病院へと向かった。おでかけだと思った紐は一度蝶々結びになったが、病院を前にすると固結びになった。医者によると、紐は養うしかないらしい。

大賀ゆか(サイトからの投稿)
「ここはヴィランズ細菌達の悪の巣窟だ、なんか用か」「噂にきいたんですけど、ヴィランズ細菌達が一斉に無くなるって本当ですか?」「本当た!」「それダメ!絶対だめだからね、だってヴィランズさんたちいなくなったら、私達正義のヒーロー達は仕事なくなっちゃうんだから」「フン、勝手な奴らだ」

大賀ゆか(サイトからの投稿)
車椅子に座ったままじっと空を見つめている兄の後ろ姿に香は一抹の寂しさを感じた。「俺工場止める」「兄さん何言ってるの」「これ以上母さんに苦労させたくないんだ」「私、ずっと考えてたんだけど、うちの細絹素麺継ぐわ」「えっ?お前」「アパレルは若い子に任せて、唯一無二の細絹素麺つくるわ」

大賀ゆか(サイトからの投稿)
柔らかい潮風が私の頬をなでる。久しぶりの海岸はあの頃と全く変わっていない。軽く握りしめた左手を私の前に差し出して見せたのは、色とりどりの細螺だ。大きな父の手の中にいっぱいある。「うまいぞ」と父はほくそ笑んだ。食べ終わった細螺の貝殻で祖母とおはじきをして遊んだ思い出がよみがえる。

いちいおと @oto_ichii
ふたりきりで出かけた、真夜中の工場街。
暗がりに明るく浮かぶ鉄の建物は、手先の器用な小人たちが夜な夜な保守点検しているのだとあなたは云う。
穏やかな時間のなか、騒がしい鼓動をごまかしながら、いまにも消え入りそうに繊細なあなたと手をつないだ。
大切な言葉は、まだ伝えられない。

照山紅葉(サイトからの投稿)
僕たちは四人掛けのゆったりしたテーブル席に案内された。
混雑している時なら、小さな二人掛けだったろう。
目の前の彼女は貼り付けたような笑顔だ。どんなに目を細めてみても、僕には本音は見えなかった。

つぐい みこと @tsugui_micoto
消え入りそうな気配は夕闇の街に沈みゆく。
追う者としては焦りを抱きそうな瞬間ではあるが、彼に焦りはない。それどころか冷静に、そして冷淡に気配を追う。
幾らか細かろうと気配さえあるのなら、見失うことはないからだ。
在るものに手を伸ばす、それが彼の仕事だった。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
熊野に、渡り奉公の女が1人在った。夏の或る日、彼女は名細しき能書家の屋敷へ奉公に入る。主は善人であったが、何故か背を見せぬとの噂であった。「見たい」女は、主を誘惑した。そうして遂に其を見た時、「違う」と呟いた。刹那に大蛇に変化する女。蛇は背に鱗ある吾子を捜し乞い叫び涙し、消えた。

4月3日

高遠みかみ(サイトからの投稿)
身長189cm体重1kg、見たとおりの細身です。ほとんど紐なので、なにかに結び付けられることもありますが、なにぶん人間なのでうまくいきません。風にも飛ばされやすいです。それでも私たちの子どもを選んでくれるというのですね。ありがとう。見えにくいけれど、もうそこにいますよ。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
世界で唯一、風を細工する職人がいた。加工されたそよ風を受けたものは幼年期の失った記憶を取り戻した。それほどの名工である。某日、職人は人知れず太平洋へ向かった。数週間後、本土に台風が上陸した。風を浴びた瞬間、人々の体にはかつての細胞が蘇り、やがて世界中の人類が幼児になった。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
(細雪って知ってますか。谷崎の。中学のとき友人が読んでて、どんな話かって聞いて。そしたら細い雪が降るって。そのまんまですね。でもその友人、実は全然読んでなくて。で、おれも本読まないんで、おれにとっての細雪って、ずっとしずかに雪が降ってるだけの小説なんですよ。)手を繋ぎませんか?

糸遊羅船 @ark25BASALA
夢の国の春祭り。星の銀糸は生まれたての稚児のひよめきのごとき繊細さ。よりつなぎ、民の絆の証とし、ふわりふわりと揺蕩う蒲公英の綿っ子と宙を踊りゆく。ぽかりぽかりと陽光が包み、さらりとした木の葉の合唱と共にきらめく木洩れ日が大地を彩る。そよそよと微風が翔けて、とろりんと微睡む羊の刻。

瑠東睦果(サイトからの投稿)
土砂降りの日の下校時間は最高だった。ボク達は、“あれ”を見つけるために必死で足元を探すのだ。「いたよ」彼女が言う。覗いてみると雨に打たれてできた泡が小さな流れを作っている。これがボク達の探す“あわざかな”。きめ細かい泡のカラダで構成された魚は、その流れが続くまで泳ぎ続けていく。

雨琴 @ukin66
真夏の準決勝で擦りむいた膝の、土をはらってベンチに座る。コンクリートに落ちた涙。大きな染みも、一瞬で乾く陽射し。応援団長が手袋を外すと、汗がさらさらと流れ出た。キンキンに冷えたコーラを飲み干して、全身の細胞が息を吹き返す。この夏は死んだ。もう二度と来ない。当たり前のことを思った。

雨琴 @ukin663
人一人が一生をかけて踏みしめた足跡をつないで、星座を作ろう。手をひかれて歩きはじめたはずなのに、気がついたら一人で歩いている。靴底に書いてある名前はすり減ってもう読めない。立ち止まるのも心細い。一生分の足跡なら、お月様くらい跨げないか。もし誰にも見てもらえなくても星座だけは残る。

鈴 叶望(サイトからの投稿)
「舞ちゃん痩せた?脚細くなったよね」「新学期だからダイエットがんばったの」「すご!あれ、結衣も痩せた?」「先輩に振られてから、食欲なくて...」「あ、ごめん」「ううん。てか桜ちゃんも痩せたよね?」「私は、春休み毎日バイトしてたら痩せた」「「一番羨ましい痩せ方だ」」

けろりん(サイトからの投稿)
僕の毎日は味の無い定型文。
いつもの時間に、いつもの電車
いつもの仕事に、いつも頭下げ
いつもの理不尽に、いつも笑顔
いくつものいつも。
それがいつもの僕らしさ。
夕日がビルに反射して僕は目を細めた。
思いつくまま遠回りで帰ろうか。
細い路地裏を通って冒険も悪くない。

雨琴 @ukin66
私はいつも尻尾でいい。たい焼きを半分こするなら、あんこの詰まった頭をあげる。ケーキの苺もあなたにあげる。食べれないお寿司は玉子と交換してあげる。あなたが喜ぶことと私のしてあげたいことは違うけど、知らない言葉じゃ語れないから。鏡の中で細い目をした私の顔は、お母さんにそっくりだった。

照山紅葉(サイトからの投稿)
京都のあちこちをレンタル着物で散策中。
私は体型のせいではちきれんばかりになっているけど、友人は魅惑の細腰美女だ。
「よくぞここまで化けたもんだわね」
と言うと、彼女はコンと鳴いた。

沢原海也(サイトからの投稿)
幼稚園生からの幼馴染とも今日でお別れだ。たくさん言いたいことはあるはずなのに、言葉が出てこない。ただ無言でお互いをそっと見つめているだけ。そんな時、細雨が降ってきた。そうか。私はバッグから折りたたみ傘を出して、行ってらっしゃいと彼に言った。そして彼は、小さくうんと頷いた。

照山紅葉(サイトからの投稿)
街の雑踏で、前方から来る人に目がいった。
恐ろしいほどバサバサで、櫛でとかしてもないような長い金髪。
そのせいなのか、妙にどす黒く見える細面。
これはリアルな幽霊かもしれない。

つぐい みこと @tsugui_micoto
心の何かが細くなった。
心細い訳では無い。ただ何かが痩せ細ってしまったような、そんな感覚。
己はこんな人間であったのか。愚かで、未熟で、救いようのない存在だった。それが〝わたし〟。
誰にも見せないように奥の奥に隠したら、心が耐えきれなくなったのだ。
〝わたし〟のみすぼらしさに。

雪帽子 @narazutomo
①彼のことは好きだったが、彼の描く絵は好きじゃなかった。
②彼のことは好きじゃなかったが彼の描く絵はすきだった。
細い線で描かれた人間と、情景と、色彩。
一見した彼からは想像できない絵を描く。だからその繊細さを私も好きでいたいと願う。そうすると光と影の明るい景色が目の前に広がった。

雪帽子 @narazutomo
学生の頃は細い腕がコンプレックスだった。「ガリガリで気持ち悪りぃ」運動部のアイツがそう言ってるのを聞いた。30代にもなると体が肥えてきて、今は中年太り。痩せてスタイルの良い妻と、未熟児の子と、3人で幸せに暮らしている。夕飯はスーパーの具材で作る鶏のてりマヨ炒め。料理はまだ苦手だ。

モサク @mosaku_kansui
残業せずに帰ると、まるで場違いなよそ者のような気分だ。少し先には両手に袋を下げた人が歩いている。魔法が使えたら、坂の上にある見晴らしのよい我が家まで一瞬で運んであげられるのに。凡人の僕は駆け足で追いつき袋を奪い取ることしかできない。彼女の細い体に繋がれた赤ん坊が、僕を見て笑った。

あまなす(サイトからの投稿)
ペンギンの異動先が決まってない
南極本社を望んでるけど水族館も悪くない
水族館は決まった時間にごはんにありつける
芸をマスターしないといけないのはめんどうだが
あれはあれでスキルアップになる
水族館ごと細々ルールが違うのはまいっちゃう
慣れちゃえばいい、慣れるまではちょっとね

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
細蟹姫は手ずから紡いだ五色の糸にて織り上げた反物を使い最も尊きお方の神御衣を拵えた。ややあって、天の河の煌めきを纏いたる女神が五色の糸を通じ人々の想いを聴き取り始める。この上なく清らかなその御姿に、姫は暫し言葉を忘れてしまう。あゝ。年に1度の逢瀬を想いながら、今宵も姫は星を織る。

有木珠乃(サイトからの投稿)
今年もあの丘に咲いているだろうか。
卒業してしまったから見ることができない母校の桜の木。
今はもう、母校のHPでしか見ることができない。それでも現在の姿は、記憶の中よりも幹が細い。
思わず、目頭が熱くなる。
もう一度あの丘で会おう、桜の咲く季節で。
そう約束したのにな。

沢原海也(サイトからの投稿)
彼とテレビを見ていたはずなのに、いつの間にか彼はソファーで寝てしまった。私はそんな彼の腕に優しく触れる。彼の腕は私の知っている人の中で飛び抜けて細い。少し悪く言うと見た目的には弱そうだ。だけど、私の知っている人の中で飛び抜けて私のことを思ってくれる太い心を持っているのは彼だ。

4月2日

夏目紬(サイトからの投稿)
林檎なんてつまらない、ただ甘いだけ。
わかってないな、あなたは言う。あれは酸っぱいじゃないか。
同じ実を齧ったはずなのに、みていたのはこんなにも違う色だった。
拗れた関係が一つの実に宿る。擽る匂いは細波のように脳裏へ広がり、締め出したいのに、心は裏腹にあなたを記憶している。

夏目紬(サイトからの投稿)
クリスマスは嫌いだ。男1人は惨めに見えるのか、勧誘する奴らにも避けられる始末、仕事帰りなのに肩身が狭い。
「そこのお兄さん、暇でしょ」
なんのオブラートもない言葉。やめろよ、今は些細な傷もひどく沁みる季節なんだから。こういう時反応したが最後、痛みを上塗りする羽目になる。

夏目紬(サイトからの投稿)
これははじまりの物語。凡てをここに置き、まっさらな細胞で創めよ。己のうちに総てがあることを知るだろう。
聖なる満月。まだ誰も目覚めぬ宵のうちに、窺う気配がする。息を殺し、肌に触れる空気の粒子を読むが如く。と唐突にサイレン。残響を破り走り出したそれは、獣の姿をしていた。

磐城 緩哉(いわき ゆるや)(サイトからの投稿)
妻と歩く空には長く細い雲が浮かんでいる。これから、娘の入学式。陽の当たる通学路はこれから娘が歩く道。路地に入ると細くなる。私は事故に合わないように気をつけなければと娘に警告する。すると、娘は恥ずかしそうに言う。「心配しないで、もう中学生よ。子供じゃないんだから」と。私は心細い。

磐城 緩哉(いわき ゆるや)(サイトからの投稿)
 小学生の息子と一緒に公園へ行くと、細いつくしが生えていた。昔を思い出し一緒に摘む。外で春風にあたり、植物に触れ合う。こういう遊びは今も昔もいい物だ。ゲームばかりしている子供達の体は細く、つくしのようだ。気持ちはわかるが、できれば花言葉のように向上心を大事にしてくれると嬉しい。

港屋 港(サイトからの投稿)
あたたかな銀糸の雨が降っている。あまりに雨粒が細かいものだから、音もほとんどたたずにいて、雨戸を開けるまで空模様に気がつかないほどだった。今朝の雨はまさしく慈雨であって、大地を愛おしみ、一切衆生を言祝ぐ恵みに違いなかった。あのひとがいない世界の、最初の朝は、こんなふうに始まった。

泥まんじゅう @doromanju_sub
「この道なに?」近所を祖父と歩いていて、不意に細い道を見つける。家々の間を通る土の道。道の奥にはやぶがあり先が見えない。祖父は私の手を引く。「ねぇ」「駄目だ」私は小道を振り返りながらも、祖父に引っ張られていく。すると後から誰か来る。誰かは道へ入っていく。「あの人」「呼ばれたんだ」

あしたてレナ @NAMIRI1109
「ペアリングって好きじゃない」と幼馴染が自身の細い指を物憂げに眺める。「でも指輪してるじゃない」「これは結婚指輪だからしかたなくね」彼女にとって指輪とは愛する人との絆や繋がりではないらしい。「どちらかというと枷に近いかな。ほら、外しても」日焼けした指には環状の跡が白く残っていた。

ねり @ren_m0301
お日様の代わりに出たのは猫の爪。皆を照らす月明かり。どんなにか細く、儚い姿に見えたとしても、確かに照らされている。私達の、色んな感情の入った心を。黒く邪の入った物さえも。それを照らすだけではない。それを、歩く度に後を追い、見守ってくれているのだ。

ちまこっぴ @risusaruZ
食が細い。食べろと言われてできるものではない。残った給食と一人教室に残される。年下の子達が教室を覗き見し「残されてるの可哀想」と心配する。年下の子に言われる私は本当に可哀想。惨めな気持ちで無理矢理口に運ぶ。今でもその状況は変わらない。一人身でいる私には可哀想という言葉が付き纏う。

あしたてレナ @NAMIRI1109
菜の花が薫る。アリが歩く。落ち葉が山になる。雪が舞う。そんな些細なことに気づいては、ころころと笑い、嬉しそうに言葉を紡ぐ。いつの間にか通り過ぎ、見失ってしまっていた美しさ。「ねぇママ」つぶらな瞳が弧を描く。「なあに?」--きみの小さな発見は、そのすべてがわたしには大きな忘れもの。

鞍馬アリス @kurama_alice
友達がペットと散歩しているのに出会った。犬だと思ったが、何だか変だ。耳や足など細かいパーツは犬なのだが、全体でみるとチグハグで、犬らしくない。この子はと尋ねると、強いて言えば犬らしきものかなと言われた。彼女の答えに賛同するかのように、ペットが明らかに犬ではない声でワンと鳴いた。

跡部佐知(サイトからの投稿)
校則に縛られていた細い束髪は今朝解かれた。つま先は白い運動靴から黒いローファーに。制服はセーラーからブレザーになった。期待に膨らんだ胸と、胸元まで伸び広がった黒髪は、風と歩調に弾んでいる。窓ガラスが映す私は昨晩までの私より大人に見えた気がした。細く息を吸って教室の扉に手をかけた。

小崎アキ @aki_20240130
『またやってしまった』
激細ピグマの潰れたペン先を見つめ、売れない漫画家ミコ子は泣きそうになる。力んで潰したピグマは今月に入って三本目。やっとこぎつけた連載も三回で打ち切りを宣告された。SNSでバズって商業誌の世界に入ったが現実は甘くない。現状の自分と潰れたペン先が重なり虚無る。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
その細瓮の中には『真ん中』が入っていた。いわゆる『地球の真ん中』である。或る日、好奇心の強い乙女が細瓮の中をそうっと覗くと、次の瞬間その体はマントのようにヒラリと薄くなり極光の1部となった。以来、極光の乙女は遥かな大地を見下ろし事毎に呟くようになる。「神の国は私達の間に在ったの」

廃路(サイトからの投稿)
「日々の生活に細やかな幸せを見出だすことさえできればそれで満足だ」なんて言葉を吐けるのは自分が相当恵まれた環境で生きてきたことに気づいてないだけだ、と空しさ混じりのイラつきを噛みしめながら瞼に意識を溶かす。
俺は恵まれてない人間なんだ。夢でぐらい豪遊したってバチは当らんだろう。

こんにちわ @ken12261638
夜というものは恐ろしい。団地の階段の踊り場で見ればわかる。どこかで細々と歌声がする。誰かに見つかったかのようにその声はやむ。ごくたまに通るバイクは静かに暴走する。近くの棟から明かりが見える。憑りつかれる様に、何かを食べていたり何かを書いていたり。これだから,,,

あしたてレナ @NAMIRI1109
まるでふわりと花びらが舞うように、細やかな星が降る。いったいどんな願いが叶うというのだろう。いったいどれだけの人が乞い、祈りを捧げるというのだろう。いつかは。やがて。そう思っていた時がやってきた。瞼を伏せれば世界はいつもと変わらず回っていると思えてしまうほど、終末は静かに訪れる。

摂津いの @settsuino08
夜明けが近い時、なぜか朝だと思い目が覚めた。まだ暗闇に支配された空なのはカーテン越しからもわかるのに。途端に言いようの無い不安が胸を襲い、心細く感じた。断ち切るためにカーテンを僅かに開けるとまだ細々と都会を照らす星々が見えた。そして地平からは入れ替わるために一筋の光が細く伸びる。

4月1日

泥まんじゅう @doromanju_sub
父はいつも明け方にミルクをいれる。いつものカップに黒いコーヒー。そこへミルクをゆっくり回し入れる。カップの黒い水面では、か細い白い線が渦を巻いて、徐々に全体の色を明るく染める。父がミルクを注ぎおえる頃には、なぜかいつも夜があけて白い陽がにじみ始めている。父はこの日課を仕事と呼ぶ。

ともろ @gotogohan555
わたし、いつの間にか、あなたのこと、好きになっていたの。知らぬ間に。
怖かったから、具体的なことは言えなくて、曖昧な言葉しか投げかけられなかった。
満月は日を追うごとに細い三日月となり、次第に夜空へ溶け込む。
わたしの気持ちも、伝えられなかった後悔も、夜空に溶け込んで消えてしまえ。

兎野しっぽ @sippo_usagino
「彼女ができた」
非モテ仲間を脅かしてやろうと嘘をつく。悔しがると思った相手は真顔だった。
「おまえの妹と付き合ってる」
「えっ」
「子どももデキた」
「嘘だろ?」
「うん」
脅かすつもりが脅かされてしまった。繊細な俺には嘘は向かない。
母から父親不詳の妊娠を告げられたのは翌週のことだ。

笹慎 @s_makoto_panda
感染すると嘘がつけなくなる細菌が発見され、僕は空気感染するようにそれを遺伝子操作して街にバラまいた。世界が平和になりますようにと願いを込めて。
でも、今まで以上に戦争が起きて、和平はちっともまとまらないし、夫婦は離婚、親子は絶縁。みな友を失った。
「嘘も方便」
神様は僕の肩を叩く。

Shy-da(シャイダ) @Shyda_ss_7
「君を守れるようになるから」──。そう囁いた彼は、転校初日にいじめられた私と共に、辛い高校生活を送った。放っておいて。大丈夫……。でも彼は頑なに離れなかった。あれから10年。私の転校で離れた2人は、再び巡り逢った。細かった彼の腕も今は逞しく、星空と桜の木の下で力強く私を抱き締める。

予里野里子(サイトからの投稿)
私は細いものが怖いのです。まず赤ちゃんの首。こちらが容易く生死を握れてしまう不安。そして少女の腰。恋人に抱き締められれば折れちゃいそうな娘の多いこと。それから文学青年の手首。あんなの万年筆を持てば根元からぽっきりですよ。そう言って、私は震える指先でカクテルグラスの脚を持ち上げた。

予里野里子(サイトからの投稿)
目覚めた途端、手のひらに微かな温みを感じた。なんだろう。細い金色の糸を握ろうと右手を開閉しつつ、瞼を持ち上げ視線で辿る。輝く細い糸は、閉め切りの甘いカーテンの隙間からゆるゆると伸びていた。花柄のカーテンを気だるく開けると、黄砂に曇るガラス窓の向こうには金の毛糸玉。ああ、春の光だ。

予里野里子(サイトからの投稿)
飾り窓の向こうに佇むマネキンの腰は、いつだって細い。多様性っていうんだったら、もっとふくよかなマネキンがあってもいいんじゃないの。細いウエストばっかりもてはやして、そんなのルッキズムだよ。いくら愚痴ったって軽やかなワンピースは春風にそよがないし、私のため息で揺れもしないのだった。

笹慎 @s_makoto_panda
駅の階段を上り切ると肩を叩かれた。
振り返ると知らないおばさん。
「あなた、スーツの上着、しつけ糸がつけっぱなしよ」
おばさんは口元に手を当てて嬉しそうに笑う。
断捨離中、そんな入社式の恥ずかしい事件を思い出した。試しに袖を通す。細身のスーツは腕も腹もボンレスハムになった。捨てます。

もぎうめの(サイトからの投稿)
天突きから圧出された、細糸状のところてん。抗えぬ力は固から個を生み、それはきたる夏を無力に待つのみ。大学中退のこの春は、私を否応なしに独立させた。一己としてただこのまま一生を社会に消費される、それを心得たうえで背に深くもたれ掛ける私は、結局ところてんとなんら変わらない。

天海楓(サイトからの投稿)
 細く長く続けるのがいいらしい。数年振りの同窓生と食事をする。金か異性か健康の話ばかり。彼は体型が細いのによく食べる。遊びに行くと決めるまでが長い。いざ行ってしまえば、思ったより楽しい。「トイレ行ってくるわ」その言葉を最後に、彼は帰って来なかった。太く短い関係がいいかもしれない。

天海楓(サイトからの投稿)
 か細い声で挨拶する。ご近所付き合いは細い。揖保乃糸くらい細い。何かが起きたら折れるほど頼りない。だから何も起きないでくれ。願いは虚しく、地面が踊る。谷深いこの街と、外界を繋ぐ唯一の道路。臍の緒のように細い二車線の道路は、土砂崩れで寸断された。僕は越してきたばかり。どう生きよう。

天海楓(サイトからの投稿)
 きみが目を細めた。流星のように流れる目尻。流星は地球に海をつくる。海から生物が生まれたらしい。海の子孫・人間は台所で、シジミの砂抜き。塩水の中で砂を吐く貝は、その一瞬だけ流星に似ている。細いもの。僕の食、きみとの生命の営み、きみの余命。僕は味噌汁をつくった。きみが目を細めた。

赤木青緑 @akakiaomidori
春は心細い。春の陽気がわたくしの憂鬱を際立てるのです。周りが浮かれていると空怖ろしいものを感じます。地に足を着けなければみな風船のように天高く飛んでいってしまうよ。蒼穹へ吸い込まれ帰ってこれなくなるよ。危ういのです。春は怖ろしい。不安が先立つ。春を越えれば本当の春がやってくる。

赤木青緑 @akakiaomidori
今年の春は細い。みな細いなあと驚嘆している。テレビニュースでも今年は特に細いといっている。細さに気をつけて下さいと。だからみな細さに気をつけるようになった。でもこんなに細い春は初めてでみなどうしたらいいのか分からない。国も指示を出してくれない。みな春の細さに大混乱している。

赤木青緑 @akakiaomidori
細い魚を見た。見たことのない魚だった。細さが際立っており細いという特徴がダイレクトにきた。細い魚としかいいようがなかった。よおく見ると魚ではなかった。細い紙だった。紙を細長く折り畳んだものだった。魚とは似ても似つかなかった。なぜ魚だと思ったのだろう。おそらく細かったせいだろう。

尾崎ちょこれーと @shimaenaga311
【何故、わたしの目に似たのかしら】と母はわたしの髪をとかすたび、鏡の前で嘆いています。しかし、だからこそ幸せになれるとドキドキします。あんなに素敵な王子様みたいなパパが、母の目よりわたしの目より細い目になって【大好きだよ】って毎日笑うんだもの。素敵な二人の贈り物。

尾崎ちょこれーと @shimaenaga311
細くて綺麗な目!もう恋をするのには十分な理由だ!とはしゃいだら、アスパラとゴボウが恨めしそうにこちらを見ている。【紅色の唇もたまらない!!】叫ぶわたしに白い目。構いはしない。【食べられるからには妥協はしたくないの】かくいう彼らは、同属で色白大根だからわたしを好きだというのに。

春音優月 @yuzuki_harune
違う色の木を組み合わせて作られた寄木細工の箱の中に入れた思い出。何かある度に未練がましく開けていたのに、今はもうどこにも存在しない。思い出は全部捨ててしまったから。
私はたくさんのものを失ったけれど、悲しくはなかった。私の隣にはあなたがいる。

野田莉帆 @nodariho
運命の赤い糸が切れた。あんなに痛かった小指が、嘘のように軽い。赤い糸をたぐる。糸は切れた先へ向かって、細くなっていた。糸の先に何もないから、上手に顔が思い出せない。捨てられなくて、裁縫箱の底に糸を隠した。そのまま何年も経った。その赤い糸で、私は娘が幼稚園で使う巾着袋を縫っている。

東方健太郎 @thethomas3
そういえば、雨の日には、体調がわるくなることが少ないと思う。気圧のせいなのか、雨粒の粒子による世界との断絶のせいなのか。それとも、水滴のカーテンによる電磁波の遮断のせいなのか。細かな神経には、そのひとつひとつが、そのどれもが原因であるような気がする。細切れの雨音が、慰めてくれる。

安戸 染 @yasu_some_
畑番になりたい福田さんは描いている。猫界で畑番になるには螺鈿に雷を蓄え細かくしたものを鼻に蕾で留めておかなければならないのだけれどこの町でそれをしようとするとやれ異獣だ、やれ瘤猫だなどといわれてしまう。だからあれこれと思慮をめぐらせた福田さんは錨で苗をたくさん描くことにしたのだ。

安戸 染 @yasu_some_
この細い糸の一本一本がどれほどの旅をして来たのだろう。精錬を終えた絹糸を前に
失敗できないと気を引き締める。日本茜から頂く赤は太陽の色、祈りの色。流れてきた多くの時間と生命を想う。「あぁ…いらっしゃったのですね 」静謐を乱してしまうのをおそれ私は息を止めたまま綛を澄んだ染液に浸す。

安戸 染 @yasu_some_
食が細くなった。最近の外食ではご飯少なめでお願いをする。食が命の根源という説には概ね賛成で確かに生物としてのピークを過ぎた感はある。しかし悪いものではない。心身から脂や水やあくが抜けゆっくり枯れていくのはむしろ心地良さを覚える。人生の後半、幸せとは何かを理解し始めている気がする。

摂津いの @settsuino08
暖かな陽気に誘われて、外にでた。心の赴くままに街中を歩いていると、人集りと行き会った。彼ら彼女らは一体どこから現れたのだろうか。気になって、人集りと逆方向に歩いた。ああ、もう細枝に薄ピンクの花が咲いていた。写真を撮ろう、と空を見上げるといつの間にか花時雨が、細々と降り始めたのか。

見坂卓郎(サイトからの投稿)
彼はたこ焼き名人だ。細いキリを操って、手品みたいにくるりと回す。大阪人ならみんなできるで。そんな彼は野球が始まると目にキリを当ててくるりと回す。目玉が黒と黄色のトラ色になる。大阪人ならみんなできるで。贔屓のチームはサヨナラ負け。彼は黄目をむいて倒れたが、たこ焼きはとてもおいしい。

非常口ドット(サイトからの投稿)
大陸クジラは繊細で誰かの視線に捕まるのを厭がる。だから大陸クジラを見た人は居ない。亜細亜大陸よりも大きいのに誰も居ない。細波は大陸クジラが海の中にじゃぽんと沈む時に出来た波の末裔だ。細雨は大陸クジラがしゅぱんばぁと吹いた潮の成れの果てだ。大陸クジラは今日も蒼い硝子細工の夢を見る。

非常口ドット(サイトからの投稿)
黒塗りの車が小さくなるまで私たちは最敬礼で送る。娘さんが「施設で介護をしてくれなかったら、私も母も地獄のような生活のままでした。ありがとうございました。」と言った。悲しみと嬉しさがマーブル模様になり感情が溢れ出る。泣き腫らした自分の顔はとてもとても不細工で思わず笑ってしまった。

非常口ドット(サイトからの投稿)
刃物を持った男が目の前にいる。助けを呼ぼうにも他には誰もいない。私は覚悟を決めてグッと身構える。数秒後、慣れた手つきで頭から皮を剥がされ、身体を細かく切り刻まれた。男は何故だか泣いている。コンソメの海に落とされて薄れゆく意識の中で、せめてこの身が美味しいスープになるように祈った。

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