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春の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part3

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「細」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

4月30日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(4月14日〜20日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月20日

若林明良(サイトからの投稿)
東大寺の四天王立像は筋骨逞しい武人が生きてそこにいる如き凄味ある塑像だ。だが一点違和感がある。胸の厚み、臀部の張りに比して腰が細すぎるのだ。これほど細腰で荒々しく邪鬼を踏んづけられるものか。これは少年漫画の闘う美青年キャラに通じる。天平の世にも二次元美形好きの仏師がいたのだろう。

通天閣盛男 @mori_cccccccccc
細田守は驚いた。目の前に宮崎駿が立っている。だがもっと驚いたのは、宮崎駿が縦に伸びている事だ。ぐんぐん伸びて長い長い宮崎駿が天井に届く頃、宮崎駿は膨らんだ。どんどん膨らんで部屋いっぱいになり細田守は宮崎駿を掻き分けてドアへ向かった。やっとの事でドアを開けると鈴木敏夫が立っていた。

猫とひまわり @orange_tomatoo
目は大きく、鼻は高く、唇はほどよく厚く。胸は大きく、ウエストは細く、お尻は小さく上がってた方がいい。脚は細く真っ直ぐで、髪の毛はサラサラストレート。すれ違うといい香りがして、品があって、嫌味がなくて、誰からも好かれている。そんな漫画に出てきそうな女の子を本気で目指して、何が悪い。

猫とひまわり @orange_tomatoo
『繊細さん』って言葉、誰がつけたんだろう。自分のことを知りたくて、でも探す言葉が見つけられなくて苦しかった、あの頃の私へ。『それはね、私の心が人より少し繊細なだけだよ』『大丈夫だよ』優しい言葉を自分にかけてあげられる。たくさん、否定してごめんね。私を受け止められる私になったよ。

JNNT(サイトからの投稿)
明るい彼女とマイペースな彼と一緒に、近道で通学した日々。家と家の間の細道に笑い声が響きわたっていた。今、耳を澄ませば3人の足音だけが響き渡る。最低な僕は彼女を好いてしまった。誰も悪くない理不尽な感情が3人の胸をえぐり取っていく。チャイムが鳴ったとき、もう隣には誰もいなかった。

nonpono @nonpono
西荻の改札から、大きな坂を登り、細い道をぐるぐる歩いて、また曲がって着くあなたの家。最後まで覚えられなかった。わたしに教えたくなくて変な道をわざと歩いたの?だけど、毎回、駅に迎えにきてくれるのが嬉しかったよ。確信犯だったのは、わたしかな。真相も恋も藪の中ね。

nonpono @nonpono
細くて抱きしめたら華奢な女になれたら、あなたはわたしに振り向いてくれると信じた、思った。わたしにたりないのは、それじゃないかと。あなたにふさわしい女になりたくて。だけど、違うんだよ。根本が。わたしはわたしだけを、わたしの中に作り上げたあなただけを見ていたね。

nonpono @nonpono
あの狭い東長崎のワンルームマンション。洗濯物はハンガーにかけていたね。目が覚めるとまず視界にあなたの細身のリーバイスのジーパンが飛び込むの。寝ぼけまなこで、毎回、戸惑って、毎回、苦笑いしたわたし。貴方の寝顔を横目に見ながら。あの息苦しいくらいの日々が遠いね。

まごまご @85phl
空へと伸びてゆく煙に、思わず目を細めた。煙がゆらりと形を変える。同時に柔らかなそよ風が、手に持つ桜色の便箋を優しく揺らした。とんだ置き土産を残してくれたものだ。最期の一文を君の声でなぞる。
——追伸。この便箋に見覚えはないかしら?
追憶の彼方で、差出人不明のラブレターが煌めき出した。

海街るり子(サイトからの投稿)
わたしは特別な女の子だった。小麦色に輝く肌も、まっすぐ伸びた髪のうつくしさも、村の誰にも負けなかった。夏の一番暑い日、あの子がやって来るまでは。白い頬には星が散らばり、腰の辺りでやさしい波が揺れている。その夜、わたしは髪を細かく編んで眠った。波打ち際で、あの子と笑い合う夢を見た。

海街るり子(サイトからの投稿)
赤い糸が見えるようになった。細すぎて切れないか心配ですとよく聞くラジオ番組に送ると、太くすればいいと言われた。後日私は糸を買い、繋いで太くした。適当に選んだ糸だったけれどなんとかなって、私はすっかり安心してラジオをつける。「続いてRN、突然小指に紅白の糸が巻きついた、さん」

イマイエイチ @imaieichi
『かぜ』と拙い文字で書いた名札を首から下げていた。
小さい彼は呼ぶとこちらへやってきた。名札の文字みたいな弱々しい風と共に。
舗道を一緒に歩いた。彼は時々小さな細い声で独り言を言うような、鼻歌を歌うようなことがある。
「何か言った?」
「あゝ風の音だろ」
他人事のように彼は答えた。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
鉄骨が一本、また一本と外されていく。あっちでは観覧車が、こっちでは跨線橋が解体されている。横たえられた鉄骨たちは草臥れ果てて眠っているように見えた。こんなに細かったんだねぇ、ぼくたちを支えていたものは。鉄骨たちが寝ているこの場所も、以前は電波塔が立っていた。空がどんどん広くなる。

夏原秋 @aki_veins
強きものと弱きものの間に細きものが居た。軋り挟まれ身が捩れても、盾となるべくそこに居続けた。
強きものは、邪魔なそれを自慢の腕力で倒そうとした。しかし細いのにどうにも折れず、叩いても殴っても壊れない。
ついに細きものが緊張を解いてたわむ。そして強きものを囲い、縛り上げるのであった。

小鳥遊 @takanashi_25325
窓からの風を受け、外を見ていたら父が「引っ越してきて良かった。この桜並木は今はまだ細くて弱々しいけれど、何十年か経てば立派な桜並木になるよ。楽しみだね」と嬉しそうに言った。しかし、それから数年で父は亡くなってしまった。あれから30年、私は立派な桜並木を見つめ空に手紙を飛ばした。

小鳥遊 @takanashi_25325
母の細くて長い指が奏でるピアノの音を幼い頃から聴き育ち、時には力強く、時には繊細な音に魅了されていた。母は年老いてもピアノの練習を毎日して、テレワーク中の私はその音を聴きながら仕事をしている。今日もピアノが聴こえてきた。昔に比べると細くなったピアノの音に包まれて、私は幼子になる。

東方健太郎 @thethomas3
ざっくりとした月明かりに照らされて、その影法師を雑に伸ばしていた。小春の夜桜は、今夜が見納めになるのかもしれない。あと数日で、この浮きの世の中を離れることになる。それほど深刻にはなっていなかったし、無念を抱えているわけでもなかった。まぁ、細けぇことを気にするねぃ。我が身を慰めた。

鞍馬アリス @kurama_alice
細切れにした星を紅茶の中に入れる。紅茶は紅から透き通った青へと変わる。驚く客に、店員は星茶ですと笑う。ヒラヤマで僅かしか取れない貴重な流れ星を使っているらしい。客はメニューに時価と書かれていたのを思い出し青ざめる。店員は呆れたようにクスッと笑うと、容赦なく伝票に値段を書き入れた。

通天閣盛男 @mori_cccccccccc
この檻に監禁されてどのくらいだろう。すっかり俺は痩せてしまった。今日も夜が来た。俺の細くなった体は鉄格子を抜けて外へ出る事が出来る。日課の散歩へ。盗んだパンとハムでサンドウィッチを作り広場でピクニック。月光浴には癒されている。朝が来る前に檻へ帰る。翌日の散歩を楽しみにしながら。

小呆丸(サイトからの投稿)
彼の繊細な性格は周囲に知られ、常に他人の感情に寄り添い、細やかな配慮を示した。友人たちは彼の優しさを讃え、彼の言葉に耳を傾けた。職場でも彼の繊細さがチームの調和を深め、彼は変わることなく多くの人々の心の支えとなり、その存在はかけがえのないものとなった。

小呆丸(サイトからの投稿)
工場の狭い通路で、彼は黙々と作業に没頭していた。周りの笑い声とは対照的に、彼は一本の細い針金を取り、集中して形を作り出していた。作業の終わりには、彼の手から生まれたのは、見る者の心を打つ美しい花だった。

小呆丸(サイトからの投稿)
遠く、細い道を行く彼女の足取りは孤独だった。星空が輝き、足元の砂が静かに語りかける。ふと、遠くの泣き声が彼女の耳に届いた。それは、迷い込んだ子供の声。彼女は迷うことなくその声のもとへと駆け出し、子供を抱きしめた。その夜、二人の間には言葉では言い表せない絆が生まれた。

山尾 登 @noboru_yamao
父は病院と自宅を往復する晩年だった。病室で昼夜付き添う同居の姉を誰よりも頼りにしていたのだ。居心地悪い見舞いの最中、姉がトイレに立った。痰を詰まらせた父の口許に、咄嗟に吸引の細い管をあてがう僕。糊塗する邪念はなかった。鬼の形相で私の手を強く振り払った亡父。もう確執を消す術はない。

楓雲 @fuun_desu
「お前無い繊細な感性。俺は鮮彩で端正。今、優勝して起こす世界天変」。高らかに掲げられる腕。間欠泉のように、狭い箱が沸き立った。したり顔の男。今夜、最後の八小節を俺は始めた。「確かに無いな。けど無い物ねだりしない。俺は俺。流儀曲げない。地球儀回せ。出発点、ずっと地元から鳴らすぜ」。

4月19日

祐希(サイトからの投稿)
縁側に座ると、冷たい風が頬を撫でた。もうすぐ彼女がここへ来て一ヶ月になる。先月の新月にやってきた彼女は、僕の心を一瞬で掴んで離さないのに、次の新月には月に帰らなければならないらしい。帰らないで、なんて言えたら何か変わるのだろうか。糸のように細い月がやけに眩しくて、光が目に染みた。

かまどうま @nekozeyakinku
バイト先のコンビニで、アイスコーヒーの新商品が導入された。「専用ストローにこだわった!」がウリで、店で扱うストローがもう一種類増えることに。
結果、どうなったか。
「違う、細くない方のストローください」
「アイス用の太くないやつ、つけてね」
お客のこだわりまで増えた。

矢島らら(サイトからの投稿)
無人の空間で桜が舞っていた。
「ここはどこ?」
ふいに思い出す。受験に失敗した帰り道、地面の凹凸を埋める数多の花びらが作った、細く長い桃色の轍。車のクラクションとブレーキ音。
「お帰りなさい。花咲く日はきっと来るわ」
優しい声で目覚めると病室にいた。手首の点滴管が微かに揺れた。

まごまご @85phl
ペットを迎えることにした。出会いは一目惚れだったが、命あるものだ。そう簡単に決断してはいけない。この子のために何度も悩み、引っ越しもした。狭かったからね。万全の準備を整えて迎えたが、怯えているみたい。今はそれでもいいのだ。眺めているだけで幸せだから。「今日もかわいいね、細田さん」

三谷 朱花 @TsukiNoYoru_lg
「コレ、コレ」

優が小さなダンボール箱を持ち上げる。ひょろりと細い腕に筋肉がうっすら浮き出た。

「爆竹を箱買いするって正気かよ」
「冗談じゃろ」

呆れる信介に、翔太も頷く。

「初盆やったら普通やろ」

もう一箱積むと、優が真顔で告げた。

長崎のお盆は、翔太の常識をまるっきり覆した。

ゆすら @64_yusura
「春はあけぼの?」
そうやって君が聞くから僕は続きを答える。何気ない日常の中に入り込んできた枕草子。それは先生が仕組んだ恋の邪魔者だった。やりとりの多くがその話題になってしまってもどかしい。でももう春も終わる。僕と君は向き合って笑顔で口をそろえた。
「雲の細くたなびきたる!」

春告紗雪 @PXyVA5QaxwP6hy9
青空を見ていつも思う。
あの空を自由に飛び回るように、なんでもできていた日々はどこへ行ってしまったのだろう。
私の脚についた枷は重く地べたに引き止める。
なのに、細い光の糸が私を空へと連れていく。
いつから、枷は外れていたの?

ゆすら @64_yusura
私はカラスだった。黒く装って周りの人の様子を窺いながら過ごしてきた。それでも目の敵にされたり、傷つけられたり。毎日がうんざりだった。
ある日、私は装うことをやめた。どうなってもいい。細々でもいい。自分らしく生きられるのなら、と。そう決意したとき、私は人間へと戻っていた。

三谷 朱花 @TsukiNoYoru_lg
「おはよう」
「あ、おはよう」
笑顔は、ぎこちなくなかっただろうか。
いつも通りの朝を迎えると、昨日決めたのに。

でも、私達の間には細い溝が刻まれてしまった。

「今日はどこかに食べに行こう」
「え。楽しみ」

私達の間には、細くて深い埋められない溝がある。

浮気を許すことは一生ない。

4月18日

おしかわ(サイトからの投稿)
桜の花びらが鼻先に落ちる。それを写真に収めようとしたら君が笑って飛び跳ねるものだから、すっかりシャッターチャンスを逃してしまった。憂鬱な大雨なんてなかったかのように水溜りに飛び込んで君は踊る。その眩しい笑顔と虹があまりにも映えるものだから、あぁ。絞りが細く動く前に逃してしまった。

ケムニマキコ @qeiV97pW0x5342
細い路地の奥……石造の鳥居をくぐると、境内を踏切が横切っている。その向こうが飛花の夜市だ。空っぽの水袋を受け取った僕に、店主は目を細めて言う。
"では、また来年"
ごおっ……と電車が走り抜け、桜吹雪が舞う。するともう誰もいない。水袋を灯に透かすと、石畳の上で金魚の影がゆらりと泳いだ。

琴平 @kotohira_koto
細い糸が垂れていた。引っ張ったら切れてしまいそうなそれに手を伸ばすと「待って待って!」と声がかかる。驚きに思わず腕を引くと絶叫が響いた。痛い痛いと聞こえる方を見上げるとそこには大きな大きな自分の顔が。「どうして?」「運命の糸で繋がってるからね、僕達」訳が分からないと唇を尖らせる。

唯はまち(サイトからの投稿)
悪魔と名乗る男に名前を売った。明細書には私の名前は〇で示されている。もう前の名前も思い出せないが、なかなか羽振りは良くなった。失ったものを数えてみても、友人はいないし、親もきょうだいもいない私には無用の心配と言えた。
ふと脳裏に誰かの顔が浮かぶ。いや、居たのか?私の近くに人達が。

ゆすら @64_yusura
私はカラスだった。黒く装って周りの人の様子を窺いながら過ごしてきた。それでも目の敵にされたり、傷つけられたり。毎日がうんざりだった。
ある日、私は装うことをやめた。どうなってもいい。細々でもいい。自分らしく生きられるのなら。そう決意した私の背中からは、白く雄大な翼が生えていた。

しろくま @ohanasi_tubu
細かく細かく。細かく細かく、骨を砕く。真砂のようになるまで丹念に砕く。骨の砂に手を差し込むと、仄かな温もりに包まれる。お父さん.....お母さん.....。未練を断ち切るように、そっと手を引き抜く。一瞬の逡巡の後、骨の砂を空へ撒く。月光を反射し瞬く様は、まるで星。私のことを見守っていてね。

福田渉太(サイトからの投稿)
おい、寝てんのか。目の細い僕は、いつもそうやってからかわれる。視力の良い僕は、きっと誰よりも目の前の景色を吸い込んでいる。隣のタロウは、いびきをかいて眠っていた。地面でくたびれている桜の花びらを拾って鼻に嗅がせてやると、僕の何倍も大きな瞳を広げた。白い顎にはニキビができていた。

ふくお・もりはら(サイトからの投稿)
春の風が草原をそっとなで花の香りが漂う
隣にはずっと会えなかった彼女が座っている
僕たちはピクニックバスケットからサンドイッチを取り出して食べた
「こんな日は、普通のサンドイッチも特別な味がするね」
彼女がそう言った瞬間、細い一枚の新緑の葉がサンドイッチの上に静かに舞い落ちた

和織(わおり)(サイトからの投稿)
コーヒーを淹れる役割を買って出るのは、香りに釣られた君が寄ってくるから。渡したカップに君の細い指が絡まり、さっきまでの眉間の皺が消えていくと、魔法をかけた気分になる。美味しい淹れ方を覚えたと言うと、嵌まっちゃいました?と君が笑った。頷いて、「だってコーヒーが羨ましかったから」。

和織(わおり)(サイトからの投稿)
空っぽの椅子を毎日眺めて、それを空想で満たす作業を続けている。そうする以外に方法はなくて、そうすればする程、不在に削られた心が、先細って鋭利になる。けれど空想の中の真実が、現実を抉るように飛び出す。『その絶望って、愛より深くないと思う』、私を満たした君が、呆れ顔でそう叱った。

和織(わおり)(サイトからの投稿)
「男女の友情は成立するか?」その古い質問は、僕みたいな人間には多分、生まれたときから疎外的な問いかけで、だから人生から恋を排除している友人の反応を見ようと、ジョークとして口にした。でもその友人は目を細め、こう答えた。「どういう種類であれ、そもそも愛情とは成立させるものではない」

4月17日

笹沼シュウスケ(サイトからの投稿)
薄情な子。後ろ指をさしたがる声が、幾らか耳に届いていた。だが顔も名前も知らない人間のため、小細工の涙は流すまい。火葬場は黒づくめの人影で埋まっていた。空気は抜け殻なのに肩が重かった。僕は彼女に愛されている。僕は彼女を愛している。それは過去になりえないことだから、悲しまない。

уσ-нєу! @yo_hey_GK1
満開の桜は手を振り、花の絨毯を歩いていると春を彩った木に花を支えた萼を見つけた。
満開の花の前では目立ちはしないが、か細い萼はよく見ると趣のある赤い色をしていて可愛く見えなくもない。

目立ちはしないが誰かを支え、
いつか誰かの目に留まる。

手にした萼を誇らしく感じた、ある春の日。

永津わか @nagatsu21_26
CMとは即ちアピールとPR。故によく見る『詳細はこちら』の文字が、説明会に参加する社員や就活生の背について回っていても何もおかしくはない、のだろうか。触れたら何が分かるのか。長所に特徴? 個人情報なんてことは、まさか。立ち尽くした身体が背後からトンと押される。振り返ると誰かの手が

大宮 慄(サイトからの投稿)
僕の妹が、こう言うんだ。
「ブランコまで、連れてって」
「変な鳥の声、聞こえるね」
「これ、にんじんでしょ」「いや、さつまいもだよ」僕は、くすくすしながら教えた。どっちも細いから、分からないよね。
「てかさ、」「うん」妹が言ったんだ。「お兄ちゃん、かっこいいね」
笑っちゃうよね。

御糀毬 @mi_koojimari
彼女を見つけたのは、きんと冷えた冬の寒い日だった。にゃ、と心許なさげに鳴く声。茂みの陰でぶるぶる震えていた彼女の白い身体を咄嗟に手持ちのハンドタオルで包み込む。その顔に粉が舞い落ち、すうっと消えた。ちらちらと控えめに降り出した細雪。ささめ、と新たな家族の名前が私の口からは溢れた。

泉ふく @fuku_izumi
公園のベンチに座り、目の前にある大木に沿って顔を上に向ける。格子状に組まれた木の桁に無数の細いつるが絡まり垂れていた。今はまだ眠っている。この蕾が、鮮やかな青紫色の花を咲き誇らせて、この視界を覆う時、君はやっと帰ってくる。その時に、この指輪を渡して誓うんだ。もう決して離れないと。

藍葉詩依 @aihashii_mokyu
細かな雨は止まることを知らずに降り注ぎ、用意した傘は次々と壊された。
いつしか、傘を差さずに濡れて歩くことに慣れて、同時に泣くことを忘れた。

そんな私に、君は傘を差し出した。「泣いてもいいんだよ」と。

細雨はこれからも降り注ぐ。
だけど、この傘があればもう少しだけ、歩けそうだ。

物部木絹子 @yuko_momen
給食の時間に細川さんをグループに入れてと先生に言われた。二人に伝えると、入れるならもう私とは仲良くしない、とのこと。不意に瑞穂ちゃんが彼女のことを骨川さんと言った。「ウケる、ガリガリだしね」それを聞いて爆笑してる愛ちゃんの歯に付いた刻み海苔見て、私はジャイアンになろうと決心した。

ななせハチミツ @nanasehoney
突然未来が見えるようになった。卒業までの辛抱と思っていじめに耐えていたのに、僕は来週「余命半年」と宣告される。明るい未来などないと知り、唯一優しくしてくれたクラスメイトを監禁することにした。貯金をはたいて地下の密室を借り、食料を買い込む。来月起きる細菌テロ、君だけは守りたいから。

ふくお・もりはら(サイトからの投稿)
公園のベンチで、老夫婦がそれぞれプリンを食べていた
妻が笑いながら言う「若い頃はあんなに甘いものが苦手だったのにね」
夫は妻の細い手を握りながら幸せそうに答えた「君の笑顔と一緒なら、何でも好きになれるよ」
甘いプリンは、二人の愛をさらに彩った

須藤純貴 @junki_poem
「同性愛者が一番まずいんだよ」
大好きな祖母がテレビを見て放った一言。
私…僕は、祖母にとって一番まずい人だった。
夫である祖父を亡くし、生きる意思を持てずどんどん痩せ細っていく祖母にとどめを刺すようで、結局最期まで打ち明けられなかった。
毎朝仏壇に線香をあげて祈る。
「僕を許して」

チアントレン @chianthrene
窓側から回ってきた紙切れには極細のパステルピンクでみっちり紋様が引かれている。鐘が鳴った時点の持ち主は呪われるルールが余白を埋めるように書き込んである、なんだかめりはりのない紙面を汗ばんだ首筋に当てがう。滲んだオフダを業間休みに呪い手の女子へ突き返す時、吸血鬼がどうのと叫ばれた。

チアントレン @chianthrene
まぼろしのように終えた人生は、掬っても掬っても思い出から零れ落ちてついにはなくなってしまった。次だってこんなもんだぞ、と天使と呼びたい姿の係員が言う。いい加減人生はしょうもないと覚れるくらいには繰り返してるんだぞ。呆れ顔へたぶんいつも通りに答える。一言だけ、委細承知の上です、と。

三谷 朱花 @TsukiNoYoru_lg
鮮やかなエンジンの音が、夜を切り裂いてくる。
「もう会わないって言ったのに」

ベランダに出ると、細い月が菜の花と指輪を淡く光らせた。

訪れた静寂に抗って、手すりを握りしめる。
だけど、バイクの横に立つシルエットに、涙が滲む。

「もう、いいのかな」
もうすぐ三回忌。
指輪に問いかける。

4月16日

уσ-нєу! @yo_hey_GK1
俺の母は、細い目をした優しい人だ。
春になれば、庭の桜をいつもニコニコして見ていた。
「その細い目で桜が見えるのかよ?」
「見えるさ、綺麗だねぇ…」
春になればお馴染みのやり取り。

それが出来なくなって初めての春が来た。

今日も庭の桜は綺麗だが、やけに滲んで見える時が増えた気がする。

冨原睦菜 @kachirinfactory
いらない細々したものを「持ってけ箱」と呼んでいる部屋の片隅に置いた段ボール箱に入れておくと、翌朝消えている。その代わりにどんぐりや小枝がちょこんと入っているので、祖父の形見の大きな酢酸瓶に入れて貯めている。ふうわり香る森のポプリ。本当は何を知りたいんだい?寝てるん?ささっと笑う。

見坂卓郎(サイトからの投稿)
糸のように細い月が隠れる瞬間、カチッと音がする。「こまめなOFF!」一匹が言う。「サステナブル!」もう一匹が応える。二匹は仲良くならんで暗い空を見上げる。そこには黒くて大きな穴がある。「吸い込まれそう」二匹は長い耳を立ててじっとしている。かつて青く輝いていた星を、思い出している。

時見初名(サイトからの投稿)
本を開いて銀色の栞に触れる。豊かな森の香りが心に広がる。その瞬間がたまらなく愛おしくて右手に抱えた本を手放せない。この栞に閉じ込められた深い森は、作り出された世界に囲まれてようやく顔を出すから。薄くて細い銀色に秘められた世界に気づいているのは私だけであってほしい。そう願いながら。

愛繕夢久 @dream18house
心細いビニール傘は春の嵐に翻弄されて右や左に振られまくり、ちっとも傘の役目を果たさない。だが、彼女と一緒に傘の中にいることは、僕にとっては至上の喜びだ。心細いビニール傘よ、お前は良くやっている。二人で傘の柄を持ち、歩く帰り道。降りかかる雨にキャーキャー騒ぐ彼女の笑顔が眩し過ぎる。

ゆめとのぞみ @yume_to_deer
昔、気になっていた人がいる。商工会議所の珠算検定の時に会う中年で、繊細な感じの眼鏡をかけた先生。検算をし終えた時、先生は側で見守っていた。その足元を見ると、水色の女児用シューズを履いているのだった。靴紐がわりのマジックテープがオパールのように正午の光を反射し私の算盤は音を立てた。

ばーぐまん(サイトからの投稿)
家を出ると、正面は石の小路だ。家に対して平行であり、とても細く、人が一人通れるほどの巾しかない。すぐ向かいには、レンガの廃屋がある。その扉は蔓がはびこって、開かずの扉となっている。曇った窓ガラス。苔むした石の細小路。叢生する雑草。わたしは表に出る度に、息が詰まる感じがする。

狭霧織花 @orika_sagiri
細雪だわ。
貴女が言うから、空を見上げてみる。
ちらちらと、春先に降るには弱々しすぎて、積もることもなく消えてしまうのだろう。手のひらで俄に溶ける、透明な六弁の花。
まるで、と二人の道のりになぞらえて思う。
薄らと残る水滴が、陽光を弾いて光った。彼女の頬にもまた、似た光がひとつ。

けんたろ @kentaro135512
「春寒の社頭に鶴を夢みけり…
二百里の春を貫いて、顫えつつ窓を開けば依稀たる細雨は…だったかな」
さすが文学部。誰の?
「夏目漱石」
漱石なら理系の僕も読んだなあ。『明暗』。
「ふふ。既婚の主人公と、昔恋した女性との逢瀬の物語ね」
漱石の絶筆作。
さて、僕たちにはどんな結末が語られる?

飛馬 光 @AsumaHikaru
今夜のお月さま、とっても細くて消えそうだよ!と君からの電話。慌てて空を見上げたけど山の陰にいるのか見つけられなくて。しばらくすると消え入りそうな細いお月さまが薄暗くなった空に現れた。同じ星の上、同じ空を見てる。ちょっぴり距離は遠いけど、なんだかそれだけで心の奥底が暖かくなったよ。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
彼の国には言語がない。代わりに人々は弦楽器を介して意思疎通を図っている。と聞けば美しい音楽を想像するかも知れないがさにあらず。細い弦上で巧みに指先を躍らせて饒舌な者もいれば、思ったとおりのメロディを発せない気の毒な者もいる。多勢が集まるとそこに調和は無く、意味も価値も雑音と化す。

藍葉詩依 @aihashii_mokyu
かたんと音を立てて、砂時計をひっくり返せば、直ぐに流れ落ちるのは微細な粒。
微細な粒は月の光を纏って、私に夢を見せる。
今から過去の時間。
今から未来の時間。
私が望む時間は、ここでは無いどこかで、今日もまた探してる。

おおとのごもり猫之介 @ponkotsu_mt
退院するとて迎える者もなく、私は独り細雨の中を傘も持たずに歩いたのです。知らぬ間に桜も散ってしまっており、世界は色彩を失ったようでした。
アパートはあの日のまま、原因不明の腹痛に悶え救急搬送された時のままでした。
汚れた食器に黴が、しかし私には美しく尊いお花畑のように思えたのです。

ふくお・もりはら(サイトからの投稿)
子供達にとってはただの古い滑り台
だがある老人にとっては青春の象徴
彼は若い頃ここで愛する人と出会った
数十年が経ちその人はもういない
公園は変わらず子供達の笑い声で賑わう
老人はゆっくり階段を登り滑り台を滑っていく
滑り終わる瞬間、彼の前には若かった頃の彼女の細い背中が見えた

久保田毒虫 @dokumu44
「ねえ、羊さんと空を飛んでみない? 羊さんのふわふわの毛は雲みたいに空に浮かぶことができるんだ」羊飼いのシツジさんに促され、僕は半信半疑で羊さんの背中に乗った。繊細な僕の身体は空に浮かんだ。そしてアルタイルの星を取りに行くんだ。待っててね。君が笑ってくれればそれでいいんだ。

怪夜 @kaiyo0813
女の細い項には、桜色した小さな痣があった。時に薄く時に濃く、それはまるで女の心の現れのように色を変えた。私は見る度に一喜一憂し、ある晩ついに女に尋ねることにした。女は痣などないと言いつつも「仮にそれが見えているのだとしたら、色は兎も角今がきっと見頃なんです」と私の胸に顔を埋めた。

紅林紅羽(サイトからの投稿)
見ました。105号室の未亡人が201号室の未亡人に回覧板を手渡し降参の色を浮かべて告げた。春の宵に2階の未亡人が細い首の鳥とキャラメル色の細長い生き物が仏語に似た言葉を交わすのを見たのである。1階の未亡人は密やかに露語かもしれないと囁いた。ほら、深夜のラジオがたまに拾うと囁いた。

紅林紅羽(サイトからの投稿)
黄昏ゆく西の空にねこの爪に似た細い月を見つけた。見つめつつ何の疑いもなしに細貝先生だと思った。目を閉じた猫そっくりの細い釣目のふくよかなお琴の先生。十年通っても一向に上達しない不器用な生徒を邪険にしない懐の広さ。だってあなた、お琴お好きなんだもの。細い月に思いをはせる通夜への道。

紅林紅羽(サイトからの投稿)
この細道に覚えがある。夢で見る細道。悲しい時に現れる細道の先に楽しい通りがあることも知っている。夢で会う人物は全員知らない。言葉を交わすこともない。だけど受け入れてくれる。細道の前に立ち「ああ」と息が漏れる。そうそう此処。そんな感じで。安らぎの裏にある悲哀を暫し忘れられる入り口。

En10◯ @warawanaiouji_k
若い頃はふくよかな身体の魅力が分からなかった。胸は大きくも腰はしまり細いのが理想だと感じていた。しかし結婚し、歳を重ねていく妻と体を重ねていると、ギリシャ神話の女神のようになった妻の身体はとても魅力的に感じる。
神をも虜にしそうな妻に飽きられぬよう、私は今日も筋トレに余念がない。

En10◯ @warawanaiouji_k
細かい雨が降り注いでいる。新歓も兼ねた花見は中止になるだろうか。雲は薄く、すぐに止みそうでもあるけれど、予報は終日小雨だ。
スマホが震えた。
「場所取りお疲れ。こっちは晴れてきた」
見上げると、遠くに雲のない空。
会いたい気持ちをぐっと堪える。
「お互い、どうせなら晴れて欲しいよね」

En10◯ @warawanaiouji_k
遠い昔に宝物を埋めた記憶がふいに蘇る。なにを埋めたかは思い出せない。
ただ、昼間に縁側の下に潜り込んだのに、いつの間にか辺りは真っ暗で、頼りは板と板の隙間から細く差し込む夕陽だけになっていた。
祖母の家は取り壊され、今はもうない。
小高い丘に登る。街全体が、セピア色に染まっていた。

野田莉帆 @nodariho
口の細い花瓶を覗くと、カーネーションの花畑があった。花瓶に生けた花の記憶、かもしれない。柔らかな光のなかで、一匹の犬が寝そべっている。「トラン!」思わず、私は彼の名前を呼んだ。もう何年も口にしていない名前だった。アトランタオリンピックが開かれる年の春に生まれた彼が、こちらを見る。

4月15日

けんたろ @kentaro135512
中学校の同窓会は、多忙なふりで欠席した。
上京してからまったく帰郷していない。
日没間近、ふと見上げたビルの隙間に
糸のような細い月は繊月、二日月。
生まれて間もなく地平線に沈むその月は、
ようやく帯びた光を喜ぶ若い月。
目立たぬ幼馴染に、恋を抱いた僕の月。
君はどうしているだろう。

大宮 慄(サイトからの投稿)
 ベランダから、夕日を見る。連なる家を見る。道路を見る。手を繋いで歩くカップルを見る。笑顔で帰る男子小学生を見る。子供と会話しながら歩く夫婦を見る。犬を散歩した、綺麗で身体つきの細い美人を見る。自分の右腕を見る。瞼の裏側を見る。吊るされたロープを見る。ぼやけた夕焼け空を見る。

波璃飛鳥 @asukahuka
発光種である友人は、新月の夜になると体が光る。泥酔した友を背負って居酒屋を出た。友の淡い光が街灯のない夜道を照らしてくれる。まるで月を独り占めしているようだ。いっそこのまま自分のものになればいいのに。「好きだよ」と都合の良い幻聴が聞こえたから、「俺もだよ」とか細い声で返した。

兎野しっぽ @sippo_usagino
次の記念日に彼女にプロポーズしよう。指輪代を稼ぐために副業を増やし、その日にふさわしいレストランも探した。サプライズ好きな彼女のために花束も用意して、スーツも新調して。あとは当日を待つばかり。
家に帰ると、彼女の姿はなかった。細く脆い糸を先に断ち切ったのは、どちらだったのだろう。

楽霞 @milchesh
「ささら」だと言った。街灯の下私の掌に指で『細』と書く。綺麗な名だと思った。私は細に色んな事を話した。優しい気持ちも悔しくて悲しくてひとりぼっちで泣いた事も私が知っている感情全てを細に話した。細が傍で聞いてくれる。いつも「また会おうね」と言って別れた。私は新月の夜を心待ちにする。

明桜生(サイトからの投稿)
風の強い日で、桜が踊ってた。いつも通り散歩がてら公園の桜並木を歩いた。一番細い桜の前のベンチに、いつも通り知らない人が腰掛けていた。「もう、散ってしまいますね」「ええ、やっと」いつもか細い声が、桜吹雪よりも大きく強く聞こえて、その人は消えていた。細い木には、もう葉桜が咲いていた。

いなばなるみ(サイトからの投稿)
身体が細くて、細かい作業が得意で、繊細な性格で、些細な出来事も忘れない記憶力をもっている糸田くん。そんな糸田くん実は....。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
和紙の層に刃を入れます。「小口」と名を得たその断面は鋭く整い、しかし、ふんわり空気を含んでいます。しばし見惚れた後は切り離された紙片の中でとりわけ細い――糸のように細いものを――つまみ上げ「ふ」と息を吹き掛けます。すると、ごく偶に青葉が舞います。ごくごく稀に小さな蝶が飛んでいきます。

泉野帳 @watage_0804
姉は気配りが細やかな人だった。飲み会でグラスが空くと、すぐにお酒を注文してくれるような人。
それに器量よしだったからさ、早くに神様にあの世に連れていかれちゃった。
でもやっぱ姉は気配り上手だからさ、私が飲み物を飲み終わると、代わりの水を入れてくれる。
水? 多分水だよ。透明だもの。

泉野帳 @watage_0804
霧雨にも満たない細い雨が降り続いている。ここ一年ずっとだ。太陽は気まぐれに顔を出すが、すぐに雲に隠れる。偉い学者はこのまま雨が降り続けば、『夏』はなくなると宣言した。
クソ暑い夏がなくなって幸運だと思っていたのに、年が経つごとに、あの頃の海で日焼けした背中のひりつきが恋しくなる。

泉野帳 @watage_0804
華やかな舞踏会が催された。鮮やかなドレスの裾が翻り、磨かれた革靴が情熱的なステップを踏む。
「あの……私と踊ってくれませんか」
私のか細い声は、オーケストラの演奏にかき消される。
会場の紳士淑女らは、私の存在を気にも留めていない。
だって……私は生きていて、彼らは死んでいるから

陰時計 @mtg315dana
たとえば、「赤い糸」なんてものが目に見えるモノならば、君と僕を繋ぐ糸はとてもとても細いんだろうな。
声にはだしていないはず。
そのはずなのに。
君は何もかも見透かしたような顔をして、
「少し見えづらいほうがキレイだよね」
そう言って隣に座る。
多分、いま見上げている月の話だと思う。

唯はまち(サイトからの投稿)
某コーヒーチェーンにて紙ストローを落とした。包装されていたため特に損害は生じていない。しかし、何か失った感がある。何だか、プラスチック製の方が良かったな、なんてことを今更思う。次の日の帰りにコンビニに寄った。あの細いストローから、ちゅうちゅう吸われてくコーヒーの味が、胃にしみる。

4月14日

おしかわ(サイトからの投稿)
パチンッ!切った爪が遠くに跳んだ。ピザやコーラはないし、映画を見る為のタブレットもない。二人してバカやったなぁ。床は冷たいし、食欲をなくす臭いでいっぱいだ。春に見た桜が恋しいよ。二人で作ったバリケードは破れそうだし、細い隙間から死人が覗き込んでくる。ね、これで良かったと思うかい?

馬鈴薯(サイトからの投稿)
僕が生まれたときから降り続けている雨はあらゆる文明を破壊した。凍えるほど寒く、怯えるほど暗い世界が嫌で僕は科学者になった。たった一度、生涯で一度きりでもいいから晴れ間がみたくて努力したのに、現れた日差しはやせ細った土地には少し過酷すぎるようだった。

馬鈴薯(サイトからの投稿)
細道は泣いていた。お前は狭すぎると責められるから。腕も足も指も細ければ喜ばれるのに
自分だけは違った。必要な機能は備えているのに自分だけは違った。泣けばなくほど、悲しめば悲しんだほど、道は狭まり、ある日突然消えてしまった。周りの人から自身をまもるように。

猫とひまわり @orange_tomatoo
「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」松尾芭蕉の奥の細道を私は読んだことがない。著者も作品名も詠んだ俳句も学校で習ったのに。テストに出ることだけ勉強していたら、中身のない知識でいっぱいになってしまった。

川上正晴(サイトからの投稿)
小さく細い声で私を呼んでいる声。
「どうしたの?」
声をかけながら抱き上げると、私を呼ぶ声はやんだ。
「寂しかった?」
返答はなかったけど貴方を抱きしめてると私も幸せになれた。
歳月が流れ
「母さん、大丈夫?」
大きく太くなった声を聞く度、私の人生は幸せだったとそう感じる。

鞍馬アリス @kurama_alice
夜中にベランダへ出ると細長い紫煙が上がっている。気持ちよさそうに煙を吐き出す音もする。見えない先客がいるのだ。俺は紫煙から少し離れた場所に立つ。煙草を取り、紫煙に向かって煙草の先端を突き出す。相手の気分がよければ、火が貰える。奴のつけた煙草は、自分でつけたものより、なぜか美味い。

ニシダ @nishida_1982
細い枝ほど満開の桜は密集した。上の太い枝にはピンクしか見えなかった。午後になるにしたがい、風が強く吹くのだった。枝たちが揺らぎはじめるとうっすらに細いあでやかな腰の女のような匂いがした。かぐわしさに惑わされてコーヒーカップが震える。黒い水面に花びらが落ちて笹舟のように浮かんでいた

ニシダ @nishida_1982
1mgのタバコでも生きて行けた。しどけない夜には細巻のメンソールが沁みる。目を閉じて、胸いっぱいに悲しみを吸い込んだ。か細い肺胞の悲鳴はさしあたり無視をした。こんな深夜に散歩をしたい。どれだけ希望に裏切り続ければ生まれる欲なのだろう。あなたの優しさより缶コーヒーのぬくみが心に沁みる

浅倉あける @akeru_asakura
お前はこの滝を登れ、と彼は言った。頭も見目も優れている自負はある。けれど細布で編まれた錦が恐怖でひらりと震えた。だって過酷だろ。耳元でごぼごぼ泡立つ轟音。雲まで届く断崖絶壁。これにてっぺんまで逆らえと言うのか、お前は!「俺は、まな板の上に行く」…ごめん、お前の方がもっと酷だった。

如月恵 @kisaragi14kei
「花細(ぐは)し 桜の愛で」と日本書紀の和歌を口ずさむ君がふと僕を見下し「鼻が汚れている」と慌てる。桜の花咲く頃は気温の変化が激しく、僕は風邪をひいたのか、くしゃみを連発していた。ティシュペーパーを湯で湿らせ優しく拭ってくれながら「鼻黒(ぐろ)し 猫の愛で」と君は花のように笑う。

せらひかり @hswelt
細い月が入ってきた。玄関の隙間から。この間、ゴミの日に捨てたのに。可燃ゴミの日だから、と月は言った。石は違うって言われて、追い返されたんです。貴方が作ったのにと、恨めしげに言うけれど、お前は小学生の図工の過ち、忘れたい過去。要らないと言うと泣くので棚に座らせ、翌朝箱に詰めて隠す。

たなも(サイトからの投稿)
あと一つ。私の性格に何が足りないんだ。細かな気配りと、明るい笑顔、真面目な態度と勇気のある行動、それでも何かが足りない。あの人が持ってて私にはないもの。私もあの人の真似をしてみよう。そうすれば、細かいピースをつなげて私はやっと完璧な人間になれるんだ。誰からも好かれる完璧な人間に。

たなも(サイトからの投稿)
細々と思い描いていた夢が実現した。雲がかかったような毎日から解放されたと、そう思っていた。だが実現した今、私は不安な毎日を過ごしている。暗くて細い道のりは私の生き様を表しているようだ。それでも広々とした空には点々とした光が私の道を照らしてくれている。応援してくれているように。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
細く尖った月に刺さるもの。古代ロケット、異星人のミイラ、宇宙服の襤褸……それを回収するのが私の仕事。地上に持ち帰ったら湖でよく洗って、博物館に展示する。「お月さま、あんまり変なモノ釣らないでくださいよぅ」と、私はお決まりの文句を言う。明晩、上弦の月から暫しの休暇。さて何処に行く?

Haruna.s @milkacidenemy
長距離バスターミナルは旅人で溢れ返っていた。
つるつるの床、電光掲示板、キャリーケースを押す人々。誰かが発つたび風が細やかに吹き抜ける。
多分あと七日ぐらいで私も旅に出るね。
繫いだ君の左手を強く握り直す。
汗だくで恰好悪く駆け抜けた夏を、車窓の流星群に見とれる間も忘れないために。

@AoinoHanataba
小さい頃、遊び疲れた時に、爺ちゃんにおんぶされる事が大好きだった。全体重預けても倒れない背中に、僕は安心していた。

数年後、僕の背中に小さい身体の爺ちゃんが乗った。力を入れれば折れてしまいそうなほど、爺ちゃんの背中は細かった。
「大きくなったねぇ、健」
爺ちゃん、俺の名前は陸だよ。

モサク @mosaku_kansui
路地を歩いて看板に惹かれた建物に入る。言われるまま材料費を支払った。「おにぎりが美味しいのは手で握るからです」ビニール手袋をはめた先生の笑顔がまぶしい。「食べる人を思い浮かべてくださいね」そうか。だから母のおにぎりは心細さまで満たしたのだ。初めて作った私のおにぎりは少し塩っぱい。

白花みのり @shirahana_m
大きな失敗をしたわけでも酷く悲しいことがあったわけでもない。なんだかうまくいかないことが続いて鬱々とする雨上がり。雲間から光が差す。濡れた窓ガラス。雨化粧をした草花。湿った地面と水たまり。辺りに散った細かい雨粒がきらめく。澄んだ空気としだいに広がる青空。少しだけ足取りが軽くなる。

両角 典彦(サイトからの投稿)
 秘密箱なる寄木細工を、昔祖母から貰ったことがあった。これな、江戸時代から伝わる秘密の箱なんよ、と言いながら祖母は二十一回仕掛けの木箱を器用に開けていたっけ。押入れで蹲っていたそれを手に取って強引に開ければ、「無」だけが入っていた。そうか、あなたは、埃を被らなかったのか。

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