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春の星々(140字小説コンテスト2024)応募作 part6

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

春の文字 「細」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「春の星々」の応募期間は4月30日をもって終了しました!
(part1~のリンクも文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(4月30日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

4月30日

クプ(サイトからの投稿)
生まれる前に戻ってしまった。ゆるゆると眠りながらも、細胞が沸々と泡立つ感覚があった。胎内にはもうひとりいて、同じように眠っていたけれど、私たちは時々笑い合った。この子にも何処かで生きてきた記憶があるのだろうか。思いながら、段々その記憶も羊水に溶けていった。

鈴木沙弥香(サイトからの投稿)
彼は穏やかな優しい顔をしている。誓いのキスを促され、私は彼を引き寄せて耳元に唇を近づけた。観衆は演出かと笑っているけれど、彼の顔が徐々に歪んでいく。そう、裏切られるのってそういう気持ちだよ。じゃあね。細く真っ直ぐ伸びたヴァージンロードを駆け出したのは、私も幸せが欲しかったから。

皐月墨華 @29holone
粉々に砕いた破片のひと粒ごとを細分化してもし足りない。好きの一言じゃ物足りない。隣で笑うきみの一部にすらなれない私のしたごころ。
きっとこの恋は一生付き合いの病。

ゆき @HoneyDippeR6324
屋根に矢が刺さった家の娘を国の為に贄とする。それがこの村が受けた王命だった。今年の贄は痩せ細った娘。貧相な贄では逆鱗に触れると、村長は国へと伝えれば世話役と贅沢な品々が届き、贄の日には絶世美女へ変わる。村長は謝りながら彼女を、王都へと見送る。王を陥落し、村を救ってくれと願いをこめ

【第3期星々大賞受賞者】
のび。
@meganesense1
夢を見た。襖から腕が伸びている。血の気の無い、細長い腕だ。その先の小さな手を握る。幼い頃、流行り病にかかった私は隔離され、家族も近づくことは許されなかった。病よりも一人で死ぬことが怖かった。誰か。真っ暗な部屋の天井に私は腕を伸ばした。あの時、確かに誰かが私の手を握ってくれた。

無限 @chan_mugen
放課後、階段下の湿ったスペースでじっと固まっている彼女を見つけた。目線の先に小さな蜘蛛が浮いている。「静かに」彼女の言葉で時が止まった。細い糸と埃だけが光を受けてチラチラと瞬く。蜘蛛はゆっくりと下降して、彼女の掌へと吸い込まれていった。今の僕と同じように自ら、何もわからないまま。

浅葱佑 @telra12
頑なに風景写真しか撮らない友達がいた。この間私と行った旅行の写真も細波の写真ばかり。あんな穏やかな海は見たことが無い、きらきら語る顔がとても狡い。辛うじて一枚だけ私の後ろ姿を確認できた。これは果たして意地悪になるだろうか。完璧主義で綺麗な彼がどうかこのブレた写真を消せませんよう。

海街るり子(サイトからの投稿)
毎夜、自分は花に近づくのだと彼女は言った。細胞が花びらに替わっていくらしい。君が花になっても愛しているよと言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。早く彼女が悪夢を見なくなりますように。翌朝、一輪の花が隣にあった。花は愛情を与えると早く咲くの。昔、彼女が言っていたのを思い出した。

芳ノごとう @1234letter
『骨式会社レジスタンス正社員募集』業務内容:一般英雄、契約期間:世界を救うまで、試用期間:なし、就業場所:本社(元東京)、就業時間・休憩時間・休日:応相談、時間外労働:あり(月平均20時間)、賃魂:年1人分、加入保険:蘇生保険、募集者:骨式会社レジスタンス、その他:委細面談

晴屋(サイトからの投稿)
私は博物館のアイドル。だからいつも警護されているの。私が片思いしている細眉の彼も守ってくれている。だけど時々、若くて綺麗な女が交代と称して邪魔をしてくるの。ほんと最悪。美しいあんたには絶対に負けないわ。でも、ほんの少しだけ、羨ましいな……。私は「うわ、ミイラだ!」この通りだから。

白花みのり @shirahana_m
満月の夜、月明かりに誘われて細い道を行けば、極稀に彼らの気まぐれで辿り着ける場所。朱塗りの社殿と静かに広がる庭園。夜空に桜が舞い、生垣に椿が咲く。池に映る紫陽花が波紋とともに広がり、夜風に竜胆が揺れる。花を愛で、月を肴に酒を愉しみ、雅楽を奏で、歌い踊る。そこは神さまたちの遊ぶ庭。

ささや @sasayakana11
新玉ねぎを細かく刻み続ける。まな板に包丁を打ち付けるようにして、わざと音を立てながら。「うるさいよ」遠くの部屋から声がした。そんなものは無視をして、とにかくダンダン、ダンダンとキッチンを騒音で満たす。そんなことをしたって、ボコボコに歪んだ鍋のような心が晴れることはないというのに。

祥寺真帆 @lily_aoi
「これじゃ同窓会というよりただのお茶だ」会うのは仲間の葬式以来だ。細く短く生きる。文集に同じ言葉を書いた二人が残るとは思わなかった。勉強ができたやつ、モテたやつ、仕事で成功したやつ、皆いなくなった。「お前の方が生きるよ」「いやお前こそ」別れ際、最後の一人のカードを押し付けあう。

鈴木沙弥香(サイトからの投稿)
君はよく怒る人だった。ご飯は三食べるんだよ。体調が悪いなら病院に行ってよ。お風呂は湯船に浸からないと。僕は朝食より寝る時間が欲しかったし、体調なんか寝ていれば治るし、男なんてシャワーで充分だ。だからこれからも続けるよ。君の細かくてうざったい言葉の数々をもう一度聞きたいと願うから。

tomodai @phototomop
狸森亭は深い森の奥で僕が細々と営んできた小さな珈琲屋。先日常連のたぬ吉がぼやいていた。「食糧を求めて町の畑まで降りたら罠にはまるとこだったよ」。人間も狸も生きる事に必死だ。狸も痩せ細っては蕎麦屋の店先にも立てない。僕も毎日必死だが、たぬ吉にはドングリケーキをサービスした。

あまがたかおる(サイトからの投稿)
誰かの声を聴きたいとき、寄木細工の小箱をそっと開ける。友人、知人から、俳優、アナウンサーまで、好きな声を集めて保管しているのだ。悲しい時には優しいはるちゃんのお喋り、疲れた時には落ち着いたアナウンサーのニュース、嬉しい時には俳優の弾んだ台詞。好きなだけ再生しては、また箱を閉じる。

月街夢子(サイトからの投稿)
わたし達は夜に出会った。笑うと細い三日月のような目になるあなた。星座のことを語りだすと夢中になり星屑のようにきらきら輝く目。あなたの青白い手がわたしの手をひく。暗闇にいるわたしを救ってくれた。真っ黒な服に身をつつみ夜が似合うあなたはまるで魔法使い。今宵はなにして楽しませてくれる?

浅葱佑 @telra12
細い月が西に浮かぶ日の帰り道は、例え給料日の帰りでも、必ず憂鬱な気分になる。まるで月に、今日は憂鬱な気分になる日だと命じられているよう。一体細い月が寂しいものだと誰が自分に刷り込んだのだろう。歌人? 昔の友人? 思い出せない、誰に小さな恨みを向けたらいいのか分からない。

祥寺真帆 @lily_aoi
来世は金魚と決めていた。飴細工の金魚は命を吹き込んでもらったと艶めいている。食べられても本望と潔い。水族館の金魚は優雅に泳いでいるが命を預けているのよと気だるげだ。絵の金魚にしますと言い終わる前に額縁に入れられた。直前、尾ひれから水滴が落ち待合室の子供が不思議そうに私を見上げる。

ゆき @HoneyDippeR6324
「御本人様はどうされました?」
常連の名で予約をし、チェックインをした見知らぬ男に私は声を掛けた。
聞けば常連本人は亡くなり、よく話をした私へ渡す遺品があり探していたと言う。
遺品のぬいぐるみは大きさ以外、以前見た常連の愛犬そのもの。そう、特注させたと自慢していた宝石細工の首輪も。

祥寺真帆 @lily_aoi
金色の折り紙を半分に折る。さらに縦に半分、また半分と折っていく。じゃばらを開き、細い短冊に切る。金の短冊たちは指の中でさらさら音を立てる。とっておきのものを失った痛みと、薄まったうしろめたさだ。向きを揃えそうっと箱にしまう。母親の足音がする。再び布団に入り風邪をひいたふりをする。

右近金魚 @ukonkingyo
下弦の月。お風呂の鏡に映る私の胸にぽっかり穴が空いていた。道理で心が虚ろなわけだ。試しに弦を張り爪弾いてみるとツァラン、と星の砕ける音がした。今の気分にしっくりくる。鉢植え相手に弾き語りするうち涙は止んだ。以来、空ろは満ち欠けこそすれ消えることはない。空ろを奏で細々と生きてみる。

一途彩士(サイトからの投稿)
「さようならあ」間延びした別れの挨拶に、私は思わず足を止めた。若い男が峠の向こうへ声を張り上げている。応える女の声はか細いものの十分な返しだった。二人はしばらく別れを惜しみ、やがて女の姿が消え、男も去った。この出来事は私に、春とは別れの季節でもあるのだと存分に思い知らせていった。

月街夢子(サイトからの投稿)
切手博物館を目指してあなたとあの細い坂道を駆けあがった日。雪の降るとても寒い日だった。白い道にさくさくとふたりで足跡をつけてちょうどたどり着いた時に閉館しちゃってふたりで笑いあったね。今思えばなんであんなに笑ってたんだろう。でも今でもその思い出は心の中であたたかく光放っているよ。

kikko @38kikko6
幼い頃に箪笥の奥から迷いこんだ異世界の言葉を、もう忘れてしまった。覚えるのに二年かけ、三年で忘れた。帰りたいと泣いていた小さな私を抱いてダーラと呼んでくれた人の声はまだ思い出せる。細い糸を辿るように唱えて眠るけど、きっとそのうちこれも忘れてしまって、ただ響きだけが残る。ダーラ。

阿部いろは(サイトからの投稿)
春は出会いのある素敵な季節だと思っていた。確かにその通りで、でも新しい友達ができた私は少しモヤっとした。春ってきっと、旧友との別れを思い出す心細い季節なんだ。あの頃が恋しい。そう感じ、休み時間だけど、ペンを持ってみた。受験生だからという理由で、周りの音をただの騒音と考えてみた。

【星々運営】
四葩ナヲコ @nawoko140
厚みのない友人に招待を受けた。厚みのない友人はぺらぺらの笑顔で待っていた。案内された家に奥ゆきがないのは予想どおり。幅もほとんど見当たらず、ドアノブだけに見える。友人は大きく深呼吸すると、きゅるきゅると音を立ててねじれて一本の細いこよりになり、鍵穴に吸いこまれていった。便利だね。

ノリック @subculnoric11
麺は細麺。実家の母が口にする。祖母も細麺好きで、その喉越し、食感は堪らない。家族の系統で受け継がれる、啜る麺のなんとも豊かな美味しさよ。日本蕎麦から教訓。細麺のように、私の家は、細く、長く生きるのよ。生きる。なんとも偉大なご先祖様。子どもたちにも受け継いでゆく。「麺は、細麺だ」

秋桜みりや @mrycs0219
細身の男を追っていた。身幅の合わないスーツで余裕がある。人通りはまばら。柱に隠れながら後を追う。飄々と歩く標的は前触れもなく路地を曲がる。我々も直後に続く。先も道だが、男はいない。凝視しても見当たらない。貴婦人や身幅の合わないスーツの太った紳士が、呆然とする我々を追い抜いていく。

秋桜みりや @mrycs0219
無意識で手が動いているという類の、細々と続く趣味がある。名声や金、誰かの共感等は不要。当時の自分以上に再現できる者など皆無だから。今日も花が綻ぶ様を、晴天の雲の軌跡を、新緑をそよぐ風を書き留める。数十年後だったとしても、私は閃光と共にこの一瞬の閃光を見る。それだけで十分であった。

kikko @38kikko6
幼馴染の魔女を脅迫して、目には見えないほど細い字を書くためのペン先を作らせた。自分でも読めないさら何を書いたか忘れてしまう。出す宛のない恋文にはうってつけ。だけど僕は知らない。この透明な文字達は真夜中、勝手に紙から旅立って魔女の部屋に滑りこみ、すべての秘密をつまびらかにしている。

流山青衣(サイトからの投稿)
飴細工だけど、本物みたいな金魚に目を奪われた。体が空気を閉じこめたように透き通っている。母がペットは飼えないと言っていたから、小遣いをはたいて買った。でも、やっぱり本物が欲しいから、妹に買ったと嘘をついた。妹は食べてしまって、僕は怒って取りあげた。金魚はもういなくなってしまった。

笹沼シュウスケ(サイトからの投稿)
遠ざかっていく。繋いだ糸は両端から引っ張られて、ぷちぷち千切れ始めた。細い繊維の断面が蛍光灯に照らされ、反射する。それをじっと見つめたまま、ちらつく光の生まれた意味を探していた。

古賀菜美子(サイトからの投稿)
いとこの声は細いから、とても近くに寄らないと話が聞こえない。いとこの声は絹糸みたいに滑らかだから、耳触りを楽しみたくなる。いとこの声は髪の毛みたいにしなやかだから、手繰って辿ってみてしまう。いとこの声は蜘蛛の糸。いつしかその細い網にとらわれて、離れられなくなっているんだ。

河音直歩(サイトからの投稿)
真夜中、眠りから覚めた花が、隣の花の名前を呼ぶ。一日でどちらも、大きく開いて、色が濃くなった。匂いが強くなった。もうこの世に怖いものなんてないもの、と赤いほうが、しなをつくる。紫のほうも、ふっくらと恋焦がれる眼で遠くを眺める。空を少しだけ切ったような細い月が、高くのぼっている。

とねりこ @tonerico14
ねぇ、君、こういうの好きでしょう?流れて来た記事をそっと捉えてソーシャルの海へとまた返す。それを素早くキャッチして、君は小さなハートを寄越す。ヤッタ!やっぱりね。それが最近の僕の細やかな楽しみ。
仮の名前しか知らない僕たちも、意外と深くなりました。

とねりこ @tonerico14
両手のフルートグラスを得意気にチリンと鳴らす。「原液と炭酸、分けて飲むのがいいんだ」「僕は半々に割った方が好きだなぁ」「私は丸い氷でロック」透き通った赤い液体がとぷり、注がれてゆく。苺の香が細く長く優雅にたなびいて、兎人たちは思わず月を仰ぐ。
思い思いの春の宵。

河音直歩(サイトからの投稿)
ロケットに乗りこむ子どもたちが、賑やかに長い列をつくっている。大きく眼を見開いて、針のような声で笑っている。あんな小さな子も乗るのよ、怖がらないで、と背中を押され、私と姉も列に加わる。空では白い星の明滅が止まない。私たちはお互いの細い小指を絡ませて、離さないで、じんじんと脈打つ。

藍沢 空 @sky_indigoblau
細いリボンが風にほどけて飛んでいく。あなたの巻き毛が広がって、まるで炎のようだった。「ねえ、どこまで飛んでいくと思う?」見送るような瞳とその顔の白さに狼狽えてしまい、私は何も言えなかった。その後すぐに時を止めたあなた。今どこにいるの?あのリボンにつかまって、帰ってくればいいのに。

八木寅 @yagitola
細かなパーツを組み立てていく作業。何でやってるのか、わからなくなっていた。人づきあい、仕事、家庭。一つ一つをどう組み立て色づけるか。プラモデルを作り始めてやっとわかった気がする。こうやって、楽しんで作っていけばいいのだと。一体、最期にはどんなものが完成しているのだろうか。

鷹村さいた(サイトからの投稿)
妻のか細い声は病室によく響いた。大切な人が死ぬとき、思い出すのは日常のことだったりする。買い物で買い忘れを思い出したときとか。一緒にお笑い番組を見て笑ったときとか。白ご飯が少し柔らかかったときとか。そうじゃなくて、今は彼女の細い指を握って、言うことがある。


「俺もだよ。」

狭霧織花 @orika_sagiri
寒い寒いと震えてばかりいたあのこは、細すぎる体をしていた。春になっても変わらないから、手を繋いで歩くことを提案したら、真っ赤な顔でうつむいていた。繋がれた手は、いつの間にか腕組みになり、そうして夏も秋もすぎて、やがて両腕の中には暖かいものが産まれた。もう寒くないわ、あのこが笑う。

若林明良(サイトからの投稿)
できるだけ細く舌を尖らせるのよ。ううん、もっと、……錐のように、細く。そう、上手ね……そのまま、やさしく。ときにすばやく、不意撃ちにして。突かれると水があふれて、やがてわたしの上からも熱い水があふれて、とぷんと。春の田水のなかでふるえるえびのようにりんかくがあいまいになってゆく。

れん(サイトからの投稿)
細い裏道の途中にあるバーに吸い込まれる。宙に浮かぶグラス。どす黒いジンの入ったそれを掴んで飲む。支払いは箱の中に吐く日常の怒り。何度か通うと怒りもジンの黒色も次第に薄まり、そのうち全てが透明になった。俺は姿なき声に黒いジンの作り方を教わり、箱を洗い、無色の店員として次の客を待つ。

さつきのみそか(サイトからの投稿)
こんなに細かく切ってどうするの、という母の呆れ声に、小さめにって言ったじゃない、と口が尖る。
「みじん切りはやりすぎでしょ。カレーなのに」
さっきまで星屑のように見えていたオレンジが、今はゴミ屑のようだ。
「じゃあ、キーマカレーにしよう」
と言って笑った弟は、リサイクルの達人か。

最芦 博多(サイトからの投稿)
誰かの記憶に残る事を人生というのなら。彼は確かにここで生きていた。
半分の余白を残したベッドから起き上がり、カーテンの隙間から細く漏れる月光に目を細める。随分と寝ていたらしい。幸せな夢を見ていた気がする。左側だけ少し高い温度も今はもう、ない。
私の記憶には確かにいつも彼がいた。

最芦 博多(サイトからの投稿)
桜のような人生だった。
あたたかいその時を待って開いた花びらは淡く、それでもたしかに色づき。風に吹かれて、彷徨い。静かに、散る。
あと何度、桜を見れるだろう。あと何度、細い月を見れるだろう。
あと何度、眠れない夜を過ごせばいい。
あと、何度。
彼女は花びらのようにこの世を去った。

南城里奈(サイトからの投稿)
何かを探していたはずだった。どこかに向かっていたはずだ。けれど、いつの間にか知らないところまで来てしまった。進めもしない、戻れもしない。ただ帰りたかった。ふと上を見たら、細い糸が垂れ下がっていた。誰かがこちらに、手を振っている気がした。

南城里奈(サイトからの投稿)
細々と続けて参りました。それでも、幸せだった。貴方と私、小さな家で、色褪せたソファに二人座って語らって。春には家の前にヒアシンスが咲いていて。けれど全てが変わりました。時代も、生活も貴方自身も。けれど、私は幸せだったんです。貴方がいたから。この隙間風はどうしたら埋まるのでしょう?

鶏林書笈 @kourairou
川沿いの柳の並木を歩きながら、ふと故友のことを思い出した。柳のような細腰の彼女は、佳人薄命の言葉通り、若くして世を去った。運命の女神は嫉妬深いのだろう。故に自分より美しい者には寿命を与えなかったようだ。
大木のようなウェストの自分は女神の目を逃れ今もしぶとく俗世に留まっている。

せらひかり @hswelt
細々と糸を編む。月明かりに照らされて、編み目にはきらきらと夜露が見える。これを求めて蝶が訪れる。ひきかえに、未来や過去のことを教えるよう言うと、蝶は二、三度、周りを飛び回り、周囲に景色を映し出す。幻が終わったらすぐさま編み物を差し出す。蝶はそれを羽織り、美しい天女となって消える。

神室宗介 @s2kamuro
別れて、離れて、隔たって、形を変える。一つの時間はあっという間で、増える鏡合わせ。でも、それすらもただの幕間。繋いだ手を離した君は違う何かになっていて、僕にもまた神様の設計図が記した運命が待ち受けている。ごめんね。

そして生まれる一つの生命。
ーー細胞分裂。

元気な、女の子です。

七月夕日 @twilight_7moon
「枯れ木に花を咲かせましょ!」
細断された紙片を枯れ木に向かって放る。瞬間、風にふわりと広がる白の欠片。桜の散りぎわの儚い美しさ。解ける、魔法。次に見えたのは、代わり映えしないはげた木と、地面に散らばった紙屑だ。……片付け、考えたくない。
「いじわるなおじいさんのほうなのかあ…」

吉川ひとみ(サイトからの投稿)
その細い光の糸は、掴め掴めと揺れていた。
掴んでみようかな。
掴んだ途端、すごいスピードで押し出され
苦しくて、大きく息を吐いていた。
「おぎゃー、おぎゃー」

伊古野わらび @ico_0712
「不細工な仏像やね」仲間たちからそう嗤われるほど自分の彫る像は確かに無骨で荒々しかった。観音様のつもりなのに不動明王のような表情と体つき。自分の内面の表れかと自省し無心で彫った。何年も何十年も彫り続けると嗤う者はいなくなり、気付けば自分の彫った像を熱心に拝む信者に囲まれていた。

@sarakouMT
空に流れた細い光。
小さな流れ星だ。
「友達がほしい」
気がついたら叫んでいた。
誰にも好かれないまま
死んでいくのは悲しくて
涙が溢れてくる。
目線を上げて息が止まった。
ふわっと浮かぶ少女と
目があった。
彼女は笑って、手を差し出した。
「いいよ、トモダチになろう」
それが出会いだった。

やならいや @yanaliar
7つ離れた姉は50過ぎの私に、月に一度日曜日に電話をしてくる。離婚して独り身の私を案じての事だ。喋るだけ喋って、身体に気をつけてよと勝手に切る。その姉が癌を患った。ガイ骨のように細く小さくなった姉の手を握り、手を繋ぐのは小学生の時以来だなと考えていた。今はもう日曜日に電話は鳴らない

泉ふく @fuku_izumi
春も終わるねぇ。あっサツキの誕生日近々じゃん。「5月末だから、まだ1ヶ月ある」
サツキは細かいねぇ「それより先にアヤメでしょ?誕生日」あぁ嫌だ~。あと5日で20歳だよ?まだ10代を謳歌したいんです~。「1歳でそんなに変わるかなぁ」変わるよ!あぁ……10代ブランド……「アヤメも細かいじゃん」

@sarakouMT
春は出会いの季節。
あなたとこんな季節に
巡り会ったの。
あなたからもらった手紙。
あなたの細い文字をそっと
指でなぞっては
心であなたを呼んでみる。
あなたと出会って4年。
まだまだ、細い繋がりだけど
これからも一緒がいい。
今日もあなたに
手紙を書こうと思うの。
あなたに届くといいな。

無限 @chan_mugen
掃除中、階段下の湿ったスペースで、じっと動かない脇田さんを見つけた。視線の先には小さな蜘蛛が浮いている。「静かに」脇田さんの口角がにいと吊り上がる。か細い糸と埃が時折チラチラと光る。蜘蛛は当然のように脇田さんの掌へと吸い込まれていった。今の僕と同じように自ら、何もわからないまま。

千景虹(サイトからの投稿)
向かいのホタルは死んだ。禁煙区域になったのだ。昨夜まで疲れ果てた互いを励ますようポツポツ灯っていた赤い光は、一つも残っていない。口の中に広がる苦味はタールだけではないだろう。夜の寒さが今日は嫌に身に染みる。これが最後の一本だ。細く吐き出した煙は夜風に攫われ消えていった。

千景虹(サイトからの投稿)
細く角ばった文字は夫そのものだった。長年の勤めを思わせる止めはねがはっきりしたインクの線は、最後に近づくにつれぎゅうぎゅうに詰まっていく。角の小さな桜の上で咲いた愛の文字は他より少し太い。静かな家の中で今日もあの人の愛をなぞる。疲れ果てた心臓もこの時ばかりは真っ赤に輝くのだ。

佐和桜介(サイトからの投稿)
積もった桜の花びらを両手で掴んで空に投げた。
東から風がぴゅるりと吹いて、花びらは一枚一枚宙を舞った。
何枚か彼女の頭についたので、僕はこっそり写真を撮った。
その時の彼女の顔とか空の匂いとか風の心地は何というか細かくは言い表せないんだけど、その時確かに幸せだなって思った。

本田教之(サイトからの投稿)
父は、相撲取りだった。腕相撲が好きで、子供の頃からいつも俺に勝負を挑んできては、その膂力で負かせ、呵々と笑ったものだった。ある日、父が俺に負けた。六十も末のことだった。父は一瞬だけ驚いた顔をして、目を細め、笑った。「強くなったな」。父の死から十年。未だにあの言葉を思い出す。

織部ゆい @yui_oribe
僕らは幸せなぬいぐるみ。あの子達が大切にしてくれて、すごく嬉しいな。名前まで付けてくれた。
僕は牛だからもーた、うさぎはうたたんって名前だよ。しかも、もーたとうたたんは結婚してるんだって。細い赤い糸で結ばれて、なんだか照れちゃうな。あの子達の指にもきっと…僕はうたたんが大好きだ。

千景虹(サイトからの投稿)
目は二つと言われたので残り五つは潰しました。口は一つのようなのでそれっぽい穴を開けました。手と足は二つずつらしいので素敵なものを拵えました。これでいいかと思ったけれど、やっぱり細い筒を向けられました。
まったく。この生き物たちにとって、いったいどこからが「同族」なのでしょうか。

吉良 荒紀(サイトからの投稿)
大樹に背中をもたれさせ、咥えた煙草に火をつける。仕事の後の一服はうまい。正面には撃ちあった相手がうつぶせに倒れており、中心から血が広がっている。震える指で煙草を持ち、吐いた煙はとても細い。腹を触って濡れた手に、煙草を移してそのまま握る。腹も熱くて手も熱い。これで火事の心配はない。

佐和桜介(サイトからの投稿)
玉ねぎは細かく刻めば刻むほど美味しくなるんよ
母さんはカレーを作る時いつもそう言っていた
葬式が終わり、実家の台所を見ているとどうしてもカレーを作りたくなった
母さんにもっと料理教えて貰えば良かったな
玉ねぎは細かく細かく
前が見えないよ母さん
きっと玉ねぎのせいだ、きっと

佐和桜介(サイトからの投稿)
お昼休みが終わる五分前、いつも隣のお手洗いから同じ声の嗚咽が聞こえる。
彼女も私と同じなのだろうか。
憧れた甘酸っぱい青春を送るためには、細く美しくいなければならない。
誰かに握られるはずの小さな手を今日も口の中にねじ込んだ。
私たちの青春は少しだけ酸味が強い。

彩葉 @sih_irodoruha
天上から舞い落ちるのは地図なのか未来への伝言なのか。神様が破いているのは間違ったものか、叶わなかった今か。手のひらで受けようと一生懸命になればなるほどそれは細かくなっていく。破かれないものは今もきっと神様の手のなかにある。私たちは決して知ることのないいつかの日のこと。

彩葉 @sih_irodoruha
蔵のなかを片付けていたら文のようなものがあった。紙はざらざらとした手触り。細かい文字でぎっしり書かれている。恋文か友への文かと思いながら明るいところへ移動して読みはじめたが、どこかの場所を伝えたいようだった。まだだれも知らない美しい海岸の場所を子孫に伝えたかったのだ。

吉良 荒紀(サイトからの投稿)
殺人事件の被害者が、刻んだ芋を握っていた。規則正しく等間隔で、細く切られたジャガイモだった。容疑者候補の一人には、「細芋千造」という男。しかし最も問題なのは、眉間を撃たれた被害者が、どうして芋をもっており、千切りできたかということだ。芋に事情を聞こうとしたら、先輩に口を塞がれた。

お化け猫(サイトからの投稿)
 3月のある日私の目の前に細い糸が降りていた。
 それを引っ張った。暖かくなった。
 さらに引っ張った。桜が咲てきた。 
 そうやってどんどん引っ張ったら糸が切れた。
 そして糸は桜が落ちている地面に落ちた。

彩葉 @sih_irodoruha
喜怒哀楽のスケジュールが細かく送られてくる。泣きたい気持ちに着ぐるみを着せて与えられた感情に見せかける。スケジュールどおりの感情にこたえるように着ぐるみを用意しなければならない。どの着ぐるみも出番は同じようにまわってくる。いつでもどれでも着られるように清潔にして準備は万端だ。

吉良 荒紀(サイトからの投稿)
香味野菜の香りが立ったチャーハンが目の前にある。おれは、「チャーシューメン 細麵」と印字してある食券の切れ端を持っている。黄色い米の山の上を、紅生姜の一団が占拠している。崩したいけどレンゲがない。セットの中華スープもない。ゆっくりしている時間もないが、懐にハンドガンがある。

はむ @monokaki_Hamu
「随分とお痩せになられましたな」
昔一緒に働いた男と再会すると、当時の恰幅の良さは何処へやら、蛇のような細い体になっていた。
「実は彼女が出来まして」
「なるほど。愛の力でダイエットですか」
「そうなんです。前の体型では、彼女の家の屋根裏に出入りするには腹がつっかえてしまうものでね」

森貴史 @vanpireroad
自分が住む街が謎の奇病に襲われた。研究者の彼はずっと顕微鏡を覗いている。
「恐らく細菌兵器が原因だ。私が何とかしてやる」
数年後、奇病の患者はいなくなった。ただの流行り病だった。
しかし彼はまだ顕微鏡を覗いていた。
「最近は平気でもまだ油断ならない。しかし大丈夫、私が何とかするから」

ミツ(サイトからの投稿)
ただでさえ細い目をさらに細くして、君は批判的に僕を見つめるのだね。僕は悪くなかったと言うつもりはない。ただ君の冷たい視線を耐えるだけなのだ。今更いくら僕が弁解したところでどうしようもないことは君も理解しているだろう。君の冷蔵庫のプリンは僕の胃袋で消化されようとしているのだから。

織作リウ(サイトからの投稿)
〈起きろー遅刻だぞ〉〈急げ急げ、電車が来る〉〈早く食べないと麺が伸びちゃう〉〈もうすぐ日付が変わるよ。5、4、3、2〉「はいはい、分かってるってば。あなたって本当に細かいわね」〈細かくなきゃ務まらないのさ。君がこの世に生まれた瞬間から、僕はずっと君の伴走者を任されているんだ〉

無限 @chan_mugen
小さい頃、熱を出すと天井に月が現れた。霞む視界に揺れる月を、私はもう随分見ていない。「電気消さないの」久々の発熱で看病に来てくれた彼に問う。「熱あるときに暗いと気が滅入るでしょ」「そうかなあ…あ」そうだ、母も同じことを言っていた。細長い月の形をした飛蚊が、天井で嬉しそうに揺れた。

藍沢 空 @sky_indigoblau
子どもの頃、図書館に住みたいと思うほど本が好きだった。壁一面の背表紙を眺めながら、全部読み尽くすまでどれくらいかかるか不遜な計算をしたこともあった。時を経て、細かい字が見づらくなっても、ずしっとくる重みを感じるとワクワクする。次はどんな世界に行けるのか。扉を開くように頁をめくる。

織作リウ(サイトからの投稿)
近所の小路で、並んで散歩をする三匹の柴犬とすれ違った。真ん中の一匹だけが振り返り、目を細めて私を見る。「今ではないよ」落ち着いた声が頭をよぎる。柴犬は前を向き、再び歩き出した。「今ではない」――。失望とも希望とも取れる言葉をそっと胸に刻む。私はもう少しだけ頑張ってみることにした。

【2023年度年間グランプリ受賞者】
石森みさお
@330_ishimori
その怪獣が倒れて動かなくなって久しい。地に投げ出されたまま硬直した長い尾に、燕が巣をかけるのは僕が知る限りではこれで七度目だ。怪獣が破壊した街で住人は細々と営みを再開している。怪獣の背は苔むし、鳥の運んだ種が芽吹き、まるで雄大な自然の一部にも見える。怪獣はいつ起きるかわからない。

晴屋(サイトからの投稿)
『一曲お相手願えますか?』と私に手を差し出す鬼。その後ろでは複数の男女が踊っている。鬼に魂を抜かれたもぬけの殻だ。意思を持ったマネキンが動いているかのようでおぞましい。『貴方のきめ細かく美しい肌を傷つけるつもりはございません。ですが、どうなされますか?』まだ、私の夜は明けない。

織作リウ(サイトからの投稿)
雨熊の群れが、ようやく帰り支度を始めた。地下の倉庫でその知らせを聞いた僕は、大急ぎで工場長を呼びに行った。徹夜で仕上げた製品を見てもらうためだ。「紫が細すぎだね。不採用」採用されたのは、今回もベテラン工員の製品だった。この街の空に、いつか僕の仕事が架かる日はやって来るのだろうか。

七壺寛 @ryoi44
草葺きの屋根下に響く祭りの後の、静かな斜面でぽこぽこ音が上っていた。甘菓子の匂いが斜めで咲くたんぽぽから、近づける耳に鳴る冷たい草、痛みの下で柔らかさがくすぐる。たんぽぽが笛のように細く伸びて鳴き、いつしか飛ぶ、屋根下で見つからなかった画と、その先も、春、ひらひらとまっている。

長尾たぐい @zzznap3
二十センチ四方の細密画の中、薔薇に囲まれ男がひとり寛いでいる。ある時代の南方の王だと云う。細やかな線と鮮やかな色彩で描かれた庭園の生気に惹かれて近寄ると、男がじ、とこちらを見咎めた。その視線は鋭く、思わず画に背を向ける。と、か細い花の香が鼻腔に届いた。王の気紛れにフ、と頬が緩む。

kikko @38kikko6
出張で訪れた寂れた町に菜の花畑の迷路があり、気まぐれに入ってみた。大人の背丈ほどある菜の花の間の細い道を進むと、行き止まりにぶつかった。他の客達はみんな正解の道に進んだのか誰も現れない。このまま静かに、誰にも気づかれずにここにいればいずれ菜の花になるのかもしれない。立ち尽くす。

此糸桜樺 @Konoito_Ouka
真っ赤なヒレが金魚鉢の水面でゆらゆらと揺れている。遊泳しなくなってはや二日。カンカンと鉢をつついても、ごとりと鉢を揺らしても、金魚はちっとも微動だにしない。僕はしびれを切らして、勢いよく水中に手を突っ込んだ。痩せ細り、ぬるりとした感触に少しぞっとした。
案の定、金魚は死んでいた。

品田あいにく @dgkrJV1JAw57158
食べることが大好きなきみは、けれど病気で枯れるみたいに細くなり、死んで焼かれて今では骨だ。こんなに細くなってしまったね、と私は長い箸できみのどこかの骨をつまむ。まあ、細くなったぶんはまた食べて取り返せばいいよ。夕飯はきみの大好きな唐揚げにして、いつも通りきみのほうに多くよそるよ。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
腕が細くなり、手の甲に骨が浮き出て、耳も遠くなって。月日と共に字も歪んでいった。それでもその字を読む自信はあった。最近の写真もわざわざコンビニで印刷してきたところだったのに。机の上の新しいレターセットは封も開けられていない。行く先を失った便箋がただ静かに、寂しそうに、佇んでいる。

品田あいにく @dgkrJV1JAw57158
針金のような女だった。細く鋭い彼女の性格が好きだった。数年ぶりに彼女を渋谷で見つけた。スマホ相手に何度も頭を下げ続ける彼女の顔には、ペンチで強引に整えたような笑みが浮かんでいた。溜息をついてベンチに腰を下ろし、咥えられた煙草は歪められていない、最後の針金の切っ先であるようだった。

希野 海 @umi_mareno_
──胸の内にある宝石を、分け与えられるひとになりなさい。
そう小さな頃に教えられたから。周りで悲しみ、怒り、震えるひとたちへ、幾度となく削った宝石は細やかな粒となり煌めいて散った。
病床でその光景を思い返す私の口元から、一粒の美しい宝石が零れ落ちる。私は微笑みと共に永く瞼を閉じた。

俄樂大(サイトからの投稿)
少女の祈りは美しかったが、時季は折悪しく春だった。元来人間には無関心な神々だが、春ともなれば尚更だった。神々の午睡の夢の中に人影は見当たらなかった。しかしそれゆえに少女の祈りは純粋と言えた。無垢な祈りは神聖を超えた高みにあり、有象無象を翔けた。細声の祈りは閑吟に似ていた。

俄樂大(サイトからの投稿)
鏡に映る「私」は、寸分も違わずに私の形容をなぞりながら、一挙手一投足を真似ていた。不意に私は、戯れに死んでみる事を思いついた。「私が屍体になっても、亡骸となって真面目に鏡の中に留まり続けるのかね」私が目を細めて微笑むよりも、蝶の羽ばたき一つ分だけ素速く、鏡の中の「私」が微笑んだ。

【星々運営】
四葩ナヲコ
@nawoko140
彼はいつも先の丸い鉛筆でごりごりと、ひどく細かい迷路を描いていた。机に覆いかぶさるように肘を張り、囲いこんだ彼だけの世界で。知ってるよって最後まで言えなかった。僕もそこに行ったことがあるんだよ。今でも迷路の夢を見る。入り組んだ道を歩き回り、壁にそっと触れる。彼の息づかいを感じる。

結城熊雄(サイトからの投稿)
髪の毛程の細さのそれはぷつりと切れ、男は真っ逆さまに地獄へ落ちた。「なぜ糸を切ったのです?男は仲間と共に救われようとしていたのに」蜘蛛が言うとお釈迦様は答えた。「これは新作の蜘蛛の糸地獄だよ」お釈迦様は高らかに笑い立ち去った。残された蜘蛛を橙色の光が包む。極楽はもう、夕暮れ時だ。

きり。 @kotonohanooto_
初恋の人が亡くなったそうだ。まだ若いのにどうして、と思ったが、それを教えてくれた旧友も詳細は知らないらしい。奇妙な虚脱感と、甘やかな記憶が同時に押し寄せる。思い出の中のあの人は今も笑っているのに、もう存在していない。そうやっていつかすべてが思い出になる。口にした珈琲はやけに苦い。

ちかち @UncleRemusBrer
「じいちゃんに誕生日プレゼントあるのに、ばあちゃんにあげないと」と電話で母に言われた。なんとなく、父と母に誕生日プレゼントを渡していない。じいちゃんの家には、私の取ったUFOキャッチャーの景品が飾ってある。もう20年前のものだろうか。今年の私の誕生日、母からのお祝いは細くなった。

如月恵 @kisaragi14kei
雨の休日はベッドで本を読む。程なく本は閉じられ、頭は枕に落ちる。気配に瞼を開ければ、猫が私の顔を覗きこんでいる。半月の形の瞳孔によく知っている私の顔より細長い私が映っている。刻々と月は細くなり、猫の目の透明なビー玉の中で私は消えてしまう。雨が家を叩く音はいつ途絶えたのだろうか。

かまどうま @nekozeyakinku
「最近、食が細くなって」って返信だったけど。彼は元気そうだった。
「ゴメン、急に寄って。ほい、ビールね」
「ありがと。軽く何か作るわ」
今夜は何かな?彼の腕を信じている僕は、台所を見て目を疑った。
ラーメン。うどん。蕎麦。パスタ。
雑多な麺が並ぶ光景はお店顔負けだ。
そっちだったか。

須藤純貴 @junki_poem
春になり、飼っているカメちゃんが冬眠から目覚めて騒がしくなった。
お腹空いたよね。何ヶ月も食べずによく生きてるなぁと感心しながら細い棒状のエサをやる。
もう27年の付き合いだ。
親が逃がそうとするのを何度も阻止してきた、僕のことは好きかな?切なげな眼差しは何を物語っているのだろう…

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
花の香りでぼんやりと目が覚める。庭を眺めてその主がハクモクレンだと気づき、微かな雨音に耳を澄ますと何かの気配を感じた。誰だったろうか。ひどく、懐かしい気がする。次第に陽が射して細雨をスクリーンに朝が七色に輝く。その気配の輪郭は捉えどころがないけれど、ずっと見つめていたいと思った。

はむ @monokaki_Hamu
「細かい命令は出来なかったんだ」
男は申し訳無さそうに言った。
「だとしても、何故こんなことになる」
スーツ姿の男は呆れている。
「わからない。ただ俺は良い結果になると思って『地球を綺麗にしろ』と」
男と、男の作ったロボットは銀河警察に連行された。
「その結果が、地球人の皆殺しとはな」

シンドウ(サイトからの投稿)
もう少し楽にしたら? 疲れない?
そう言われ続けて20年。嫌なことの方が多かったけど、今では自分の性格を誇りに思っている。
入念な下調べと脳内シミュレーション。そして手術当日とその後。今まで一度もヒヤリ・ハットを起こしていない。
人の命を預かる身としてこれからも細かく生きる。

シンドウ(サイトからの投稿)
寄木細工。
小学校の遠足で箱根に行った時に一目で気に入った伝統工芸。塗料に頼らずに木の種類を色々組み替えて様々な模様を創り出す技術だ。
幼い時は「個性を大事にしよう」って言われてたのに、歳を重ねていくにつれて変な人扱いされる。
寄木細工みたいに色んな人がいても良いはずなのにね。

シンドウ(サイトからの投稿)
また春が来た。
真新しい制服に包まれて、俺達3年よりも身体が細く、そして幼く見える新入生を観察する。すると、色々な表情が見えた。
慣れない制服を気にしてたり、高校生活に不安がってたり、腹を押さえて顔を赤くしてたり、ぼけーっとしてたり。
泣いても笑ってもあと1年。楽しんでいこう。

甲突ろくろ @yFgvzRdE8zsUjSr
牛みたいな女になりたい。大らかに草を喰んでいたい。そう言うと、農家で育った父は「牛はけっこう繊細なんだぞ」と真面目だった。知り合ったばかりの未来の夫には「もう割と牛じゃん」と言われて喧嘩になった。そして一昨年生まれた息子は母の繰り言などに耳を貸さず、黙々とトラの絵を描いている。

甲突ろくろ @yFgvzRdE8zsUjSr
桜が散ったころに山を走るのはおそろしい。冬にはやせ細り仏頂面だったものが、肉がつき汗をしたたらせ、青臭い息を吐きかけてくるからだ。馴れ馴れしいくせに飽きっぽく、すぐ誰かのところへ行ってしまう。向かい風をかき分け逃げ帰ると、ヘルメットにびっしり、花びらのキスマークがついていた。

甲突ろくろ @yFgvzRdE8zsUjSr
6歳の息子がヨーグルトストライキに突入した。乳酸菌がかわいそう! との主張に妻は、ジャムを添えるという懐柔策を打ち出したらしい。味がキライなだけなのよねと、まな板に湯をかけて細菌を殺している。俺も納豆ストライキしようかなと言うと、「ジャムのせるわよ」と目が笑っていない。

吉川 千(サイトからの投稿)
給与明細を開いて「ああ、こんなもんか…」とため息をついた。不景気だから、ボーナスが低いのも仕方ないだろう。給与明細のとなりに置かれた通帳を無造作にリュックに押し込んだ。来月はもっと頑張らなければ、と思いながらそのリュックを背負った。早く外へ出よう。そろそろ家主が帰って来る時間だ。

万年青二三歳 @aomannen1108
晴天で良かった。昨晩の喧嘩を引きずったまま出かけた僕達は顰めっ面をしているが、眩しいからに見えるだろう。三ヶ月前から予約した温泉は君のリクエストだったのに、到着しても機嫌は直らない。細められた目が僕を素通りするのをいつまで耐えればいいのだろう。「ねぇ、好きだよ」これでもダメかな?

万年青二三歳 @aomannen1108
「豚肉の細切れみたいに愛されたい」失恋して泣きじゃくる君は真剣だけど、僕は吹き出してしまった。視線だけで抗議する君を抱き寄せ、痩せ細った体を温める。「美味しくなれるおまじないをしてあげる」僕を信じて目を閉じる君は残酷だ。少しは意識してよね。細やかな願いを込めて額に唇を押し当てた。

鉄生裕(サイトからの投稿)
「細マッチョ?あんまり好きじゃないかも」「それなら、どんなタイプが好きなの?」その瞬間、クラスの男共が一斉に聞き耳を立てた。「がっしりしている人が良いかな。例えば・・・」彼女の口から出たのは、細マッチョイケメンアイドルの名前だった。男共は頭を抱えた。そもそも細マッチョって何なん?

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