三叉路
勢いを持って駆けてきた彼は、
立ち止まる。
分かれ道のどれを選ぶか?
彼は振り向くだろうか?
勿論、踵を返し戻る道もあるのだろう。
時の中なら、どうか?
前に進むしかない。
振り向くのは、自分を広げ改めて見る行為だ。
哀愁に包まれた朝霧のように、そこは愛しい。
また、鮮明な輪郭を残す哀しみもある。
まだ見ぬ先は、絶えず肩肘を張り彼の横顔を強張らせるだろう。
時に、足元で軽快なリズムなど刻み、揚々と胸躍る瞬間もきっとある。
三叉路は冬の真ん中のように、
冷えた手を擦りながら、彼を立ち止まらせている。
これからは光がヒカリを増しながら、
時に舞う。
『怖れてしまわないで』
真冬の薔薇が一輪、いつまでも朽ちずに
そう言った。
薔薇は、春が近づくにつれて大地の色を自らに映しとり、
溶けてしまうその時を知りながら、
深紅をそっと纏っていた。
決して、分かれ道を選ぶことはないのだけれど、
立ち止まる旅人の爪先を、優しい眼差しで見ていた。
星(☆
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?