シッポの自己陶酔

ドラム缶の上に背筋をのばして座る黒猫
その顔つきは、とても恐ろしかった
いままでみたことのない野良猫の勇ましい表情
黄色く光るその目はまるで、感情を失くした兵隊のようにどこかへいってしまっていた

よくみると、そのかおには生えるはずのない場所から、放射線上にくろいひげがはえていた
しなやかな体には、とげのようにぴんとたった体毛が、敵を警戒するかのようだった
けれどもシッポがみあたらない
蛇のようにうねる尻尾は、猫にとって大切なものなのに

そんなことよりもぼくの心をひきつけたものがあった
するどいネコのめつきとは裏腹に、そのどたまの周りには丸くきいろい光りがみえた
いや、それをくっつけているかのように、ネコのどたまから離れない
一瞬、ぼくは澄ました恐ろしい顔の裏に、神様のように神聖な、穏やかな顔がちらと見えたような気がした

やがて黒猫がその場を去ると、ぼくはドラム缶の中を覗いた
そこにはくるっと丸まった黒い尻尾だけがはいっていたのである
そのシッポをみた瞬間、ぼくの心に暖かいものが吹き込んできたように感じた

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