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012 | 丹生都比売・椿宿の辺りに・ピスタチオ

梨木香歩さんの本を続けて読んだので、3冊まとめて感想を書こうと思う。

1.『丹生都比売』

梨木香歩さんの本はこれまで『西の魔女が死んだ』しか読んだことがなかった。そのためこの短編集を読んで、いい意味で度肝を抜かれたというか、こういう系統も書くんだ…!!という驚き。タイトルにもなっている『丹生都比売』は、実在する天皇やその皇子の物語になっていて、日本史に疎い私はどこから創作でどこまで史実なのかわからなかったけれど、不思議な雰囲気に魅了された。
短編集だが、ショートショートといってもいいくらい短いものもある。読んでいて、小説というより、散文詩を読んでいるような気持ちになったものも。
不思議なんだけど、どこかあたたかさも感じる、そんな短編集だった。

2.『椿宿の辺りに』

『丹生都比売』のつぎにこの本を読んで、あれ、もしかして梨木香歩さんってこういうのが本領なのか…?と思った。
創作を加えた日本神話をベースに、主人公の“痛み”の原因を祖先まで遡って探っていく…という話。そもそも“痛み”の原因が主人公の祖先の実家、とみる「仮縫鍼灸院」は一見怪しく見える。けれどもなんだか不思議とどんどん先へ進みたくなり、読む手が止まらない。主人公の一家の過去に、えっまさかそんな、という驚き。
でも、今回の“痛み”は肉体的なものだったから、過去に遡るのが不思議だっただけで、もし心の“痛み”であれば、過去に遡って原因を探るのは普通に思われる。そう考えれば、今回に関してもあながち怪しいとはいえない、のかもしれない…?
そして、この「椿宿」というのが主人公の実家のあたりなのだが、このあたりは暴れ川があって治水が困難であった。そして、まさに「治水」こそがこの痛みの原因であった。先祖は「治水」を次の世代へと先送りにしていて、そのつけが主人公まで来ていた、というわけである。
丹生都比売の次にこれを読んで、なんだか古事記など日本神話や日本史に急に興味が湧いてきた。(単純)

3.『ピスタチオ』

『椿宿の辺りに』を読んだ後この本を読んだのは、運命的といっても過言ではないかもしれない(いや、過言だろう笑)。図書館の支所で借りたのだが、隣にあったのは偶然なのか必然なのか。そう感じざるを得ない本だった。
この本は『椿宿の辺りに』と一変して、舞台はアフリカ、ウガンダである。たびたび出てくるのはアフリカの呪術師と、アフリカの民話。
主人公は日本人で、何かに導かれるように仕事でウガンダへ行き、ライターとしての仕事をしつつ、傍らで立て続けに亡くなった知人たちについて呪術師に聞き込みにいく…という話である。
主人公がウガンダへ行くのもおそらく精霊ジンナジュが仕向けたものであり、ある呪術師のもとへ行くのも、現地人ガイドについているジンナジュが仕向けたものであり、こういった超常現象はこれまで2冊読んできて、梨木香歩さんらしいといえばらしいのかもしれない。
なぜ私が冒頭に運命的なとか必然とか書いたかというと、この本で出てくるアフリカの民話もまた、洪水、治水に関する話なのである。
ライターである主人公は、最後に死者のための物語として、「ピスタチオ」という短編を残している。この短編は『ピスタチオ』にでてくる要素を全てつぎ込んだというような、凝縮された話であった。

今は同じ梨木香歩さんの『雪と珊瑚』を読んでいる。こちらはどちらかというと『西の魔女が死んだ』に雰囲気が似てるかな、と思いながら読んでいる。
梨木香歩さん、不思議な魅力があってはまりそう。

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