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そこに長期的視点はあるか?〜馬術日本代表経験者がW杯を見て思うこと〜

 こんにちは。りょーじです。今日お話ししたいことは「人馬の交流からの学び」といういつもお話ししているテーマとは違います。今日本中が大熱狂のW杯について話します!

 僕自身サッカー好きなこともあって大興奮です!でもサッカー詳しい人特有かもしれませんが「いやこれ冷静に考えたら巡り合わせや運の要素も強いよね」という声も自分の中にあります。

 今TwitterなどのSNSを見ていると、例えばサッカーの戦術分析系YouTuberのレオザさんがコメントを切り取られて批判されていたり、そんなネガティブなこと言って玄人ぶってんじゃねぇよ、的な意見があったりします。

 ここで僕は大きな疑問を投げかけたいのです。今この瞬間勝ったことを喜ぶことと、このままでいいのか?と疑問を投げかけることは両立しえないのでしょうか?つまり、テーマは「なぜ短期的・長期的視点は両立しないのか?」です!

 この2つはこれから日本サッカーが強くなっていく上で、いやすべての日本スポーツが発展していく上で必要なことだと僕は思うのです。

 正直に言ってこれは僕自身の経験してきた違和感でもあります。僕は馬術の日本代表(日本は世界的に見ると中堅国です)として東京五輪に挑むナショナルチームの一員として活動する中でそれを感じてきました。僕たち選手や監督、コーチはもちろん目の前の競技、状況でベストを尽くせるように戦うし、1年や五輪までの2,3年という短い期間での目標を持って調整していきます。その中で良い結果が出ることもあるでしょう。

 とはいえ、代表チームはそれだけで成り立っているわけではありません。連盟、協会などの人達が長期的な視点でチームの目標を定め、強化していくという基盤が必要なのです。「こんな在り方をしていたら日本代表チームは将来的に強くならない…」そんなことを感じることが正直選手として多かったです。

 こんな体験があって、今回のW杯、そしてその後に起きている意見の衝突を見て思うのです。

 「そこに長期的視点はあるか?」

本田さんのツイート

 さて、まさにこの短期的・長期的視点をよく表したことがありました。サッカー元日本代表の本田圭佑さんがこうツイートしたのです。

予選3試合を振り返って思うこと。
結果ほど日本サッカーの未来は楽観視できない。

 僕がこれから話したい両方の視点を持っている人もいましたが、主に意見は大きく2つに分かれた印象です。

①なんで水を差すようなこと言うんだ?今のチームは結果出してるじゃないか、だから批判するな!
②その通り!日本が勝ったのは運だけ、浮かれてる奴ら調子に乗るな!

 僕はこの本田さんのツイートをこの2つとは違う意見で、そしてすごく共感的に見ました。つまり、短期的・長期的視点の両方からこの起こっていることを冷静に見てるな、と思ったのです。

 そして、おそらく本田さん自身もご自身の代表経験の中で、サッカー連盟やその周りの人達がどのような長期的な視点でチームを強くしようとしているのか疑問を持ってきたのではないかな?と(邪推かもしれませんが)思ったのです。

 まず、前提として…本田さんがこのツイートをする、ことが「現状を喜んでいない」ことを意味しないことはハッキリさせたいと思っています。Abemaの実況を聞いていてそれは明らかだったと思います。めちゃくちゃ必死に応援していて、喜んでいましたよね。

 1人の元選手として、国民として、サッカーファンとして、今回の日本代表の躍動を心から喜んでいました。そして、クロアチア戦以降も同じ姿勢で応援するでしょう。つまり、今回のチームができるだけ上に行く(過去最高の順位へ!)という短期的目標の達成について両手をあげて喜んでいますし、そこに向けては全力で応援しています。

 では、あのツイートはなんだったのか?本田さんは長期的な視点で、究極の目標について考えて…「いや、どうかな?この結果でこの方向性を長期的に向かう方向性として良いのか?」と思うところがあったのでしょう。

 ここで、本田さんの過去の発言を遡ります。彼はハッキリと長期的な目標を明言しています。

「W杯の優勝」

 これです。選手として第一線を退いてからもそれを明言しています。選手としてではなくてもそこを達成していきたいと。

 つまり、改めて視点を将来的なW杯優勝という長期的目標に向けると「今のチーム作り、作戦、この勝利によって現状を延長することは問題があるのでは?」と疑問を投げかけているのです!

 これは僕個人としてですが、チームが勝って日本中が賞賛ムードの時にこれを言える本田さんカッケェェ(本田△というやつです)となっています!チームが負けた時点でこれを言うのは簡単なんですけどね。

今回のW杯で起こっていること

 ここで今回のW杯で起こっていることを振り返っていきましょう。今回日本チームが目指していることは「過去最高の順位=ベスト8」というところです。

 グループリーグにドイツ・スペインが群居した時点で、今回のチームメンバー、森保監督をはじめとする選手達は思ったはずです。「弱者の戦いをするしかない」と。

 そしてドイツ、スペイン相手に不利をひっくり返す、番狂せを行う準備だけをしてきたのでしょう。そしてそれは現実となりました。

 ここには心からの賞賛と、感動をありがとうの感謝しかありません。
 チーム一丸であの一瞬を狙った集中力。それ以外の時間耐え凌ぐ粘り強い守備。その両方を可能にする一体感。

 そこには本当に感動しました。そして、これは偶然だけで起こったわけではない、と思います。僕が馬と共に行うプログラムの中でいつも言っている「思考が現実化する」が体現された瞬間であると思います。

 では、ここからこの方向性がW杯優勝という長期的目標に向かう良い方向性でしょうか?

 確かに、チーム全体が一丸となって一瞬を狙う集中力、不利になった時間に相手の猛攻を耐え凌ぐ粘り強さ。これはW杯優勝にとって不可欠でしょう。強国であるはずのスペインやドイツが今回敗れたのも、ここに綻びがあったからであると思います。

 これを生み出したのは選手達、そして森保監督をはじめとするスタッフですのでこれは伝統として引き継ぐべき点だと思います。

 それ以外の点はどうでしょうか?例えば、ゲームを支配する力はどうだったでしょうか?チャンスを作る数は?試合の数字を冷静に見た時に、日本が勝つ確率はとても低かったと言わざるを得ません(具体的な数字を並べるのは割愛しますがボール支配率、シュート数などです)。

 サッカーはあくまで運が良かったり悪かったりするスポーツですが、確率論的にはチャンスを多く作り、シュートを多く打った方が勝つ確率が高いです。

 つまり、グループリーグのドイツ戦・スペイン戦は勝つ確率が高いゲームを遂行できていたか、というとそうではありません。

W杯優勝のために

 ここで、改めて本田さんが「日本サッカーの未来は楽観視できない」と言ったことについて考えてみましょう。

 W杯優勝という長期的目標のために、この方向性はマズいんじゃないの?ということです。つまり、多くのピンチを忍耐力で耐え凌ぎ、少ないチャンスをモノにする集中力、それを可能にする一体感こそが強み、という方向性は限界があるのでは?ということです。

 W杯優勝にはグループリーグで最低1勝、トーナメントからは4戦全勝(PK含む)しなくてはいけません。そうなると7試合で5勝しなくてはならないわけです。つまり、勝つ確率を高める戦術なくして、到達できる道ではないのです。

 今回の日本代表が勝つ確率が高い数字を出すことができたのがコスタリカ戦です。そこで敗戦をしてしまいました。逆にドイツ戦やスペイン戦では勝つことが難しいスタッツで勝ちました。まさに確率論を覆す結果を出したわけです。

 本田さんが警鐘を鳴らすのは、この結果に対して「確率論など意味がない、相手の攻撃を耐え凌ぎ、高い集中力で一気果敢に攻めることこそが結果を出す道だ」という意見が今後の日本代表運用の中で出ることではないでしょうか。それでは高い集中力でグループリーグ突破ができるかもしれないが、何度も連続で勝たなければいけない決勝トーナメントでは勝ち進めないのではないでしょうか?

 チームの現状、つまり選手の質、戦術を考えると今の方法が勝つ確率が高かったのかもしれません。しかし、長期的な視点で見ると選手も育てることはできるし、戦術を深めることはできます。そんな長期的視点で物事を見ていくべきサッカー協会や監督が「これで良かったのだ、私達は前進している」と見るのは危険な思考ではないでしょうか?

 今回のW杯で起きていることはここまでですでに素晴らしいことで、この先もこれまで見せてくれた集中力、忍耐力、一体感があれば勝ち進めるかもしれません。僕は全力で応援しますし勝利を祈ります。

 しかし、ひとたびW杯が終了したら、長期的な目標のために正しい道を歩んでいるか自問する視点は捨ててはいけないと思います。勝つ確率を高めることのできた試合はどれだけあったのか?再現性はあるのか?という視点で見る必要があるのです。

 「どんな相手にも勝つ確率が高いサッカーを展開し、勝利する」そんな方向性を目指さずしてW杯優勝はないです。1990年から過去8大会W杯優勝国はドイツ、ブラジル、フランス、スペイン、イタリアです。この5チームは過去8大会で15度3位以内に入っています(つまり15/24はこの5カ国の優勝国)。このようにW杯優勝には高い再現性と勝つ確率を高める強さが必要なのです。

 日本代表はそんな方向性を向いて走っているでしょうか?最後の最後で阿部選手をボランチにして守備的な作戦を取った南アフリカW杯。現実的に耐え凌ぐサッカーで少ないチャンスを勝ち取ったカタールW杯。弱者の、現実的な、予選でやってきたこととは違うサッカーを繰り広げていないでしょうか?そんなことの繰り返しでは、選手のレベルとかではなく、いつまで経っても日本代表は「弱者のまま」なのではあって当たり前ではないでしょうか?

 だからこそ、クロアチア戦を目の前にして、全力で応援する反面、この雰囲気に飲まれて未来を楽観視してはいけないということを思うのです(そんな声をはねのけるくらい内容でも上回る戦いをしてくれることを望みますが)。この後数年間で体感的に大きな後戻りを経験することになってしまうと感じるからです。

 目の前で起こっている潮目を全力で喜びながら、これではまずいと将来を憂うことができること。これからの社会について、僕達の生き方についても同じことが言えそうだな、と自戒を込めつつ、将来日本サッカーを背負うであろう本田さんがこの視点をお待ちでありそうなことに、将来への期待を募らせています。


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