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読書感想文『麦本三歩の好きなもの』住野よる

私はいま凄く落ち込んでいて、それをどうやって発散したり、若しくは忘れたりしたら良いのかと悩んでいます。

しかし、悩んでも仕方ないし、悩むなら悩み抜くのも良いのではと思えた作品です。

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この、住野よる『麦本三歩の好きなもの』は、住野よる作品の中ではじめて読んだ作品でした。住野よると言えば、『君の膵臓をたべたい』をはじめ、『か「」く「」し「」ご「」と「』、そして今話題の『青くて痛くて脆い』等がありますが、私の周囲では読者はいたものの(それこそ住野よるファンがいますが)私自身が興味をそそられたのは、本作品がはじめてでした。それは多分、自分と同じ社会人の同年代の主人公の私生活、仕事上の取り組みや人間関係、そして、悩みを持つ友人やそれに対する三歩の"'三歩らしさ"の詰まったものの見方考え方が、ものすごく今の私の心に響いたからなのだと思います。

三歩は、大学図書館勤務の、特別何かに秀でた訳でも、周りで特別な事件が起きるわけでもない、何でもない日常の中で過ごす、どこにでもいるひとり暮らしの女性として描かれています。

先輩から怒られてしまうどん臭さ、緊張したり心に余裕がなかったりすると噛んでしまう性格、更には仕事をサボってしまうといった小狡い反面、好きなことをしたり、好きなものを食べたりした時のうきうきした様子や、友人を大切にしている面、そして、サボった事に対して真剣に悩んでしまう素直さが、とても羨ましいと思います。

私はいま、体調が理由で仕事に行けない日があり、しかも、その体調不良の原因は、恐らく家族なのだと思っています。

本作品に出てくる三歩の友だちではないですが、ものすごく悩んでいます。この本を読んだ日の私も、ひとり暮らしの部屋で、静かに過ごしましたが、やはりひとり暮らしでも、心満たされるものがあるのと無いのとではやはり違い、どうしても悩み事をずっと頭の中で考えてしまい、悶々悶々と、ずっと悶々していました。

そんな中、温かいお茶を飲みながら、買って残っていたコンビニスイーツをつまみに、ゆっくりと三歩の視点で読んでいると、ささやかな幸せや、ささやかな悩み、そして文句や怒りが、とてもキラキラして、とても羨ましい、そして素晴らしいものに感じ、気持ちが明るくなったのです。そして、つい涙してしまいました。

恐らく、本作品自体はよくある謳い文句の【全米が泣いた】とか【感動の物語】なんていう類のものでは無いとは思いますが、今の私にとっては、それはそれは感動する作品でした。

あぁ、私の悩みは間違いじゃないのか、私の喜びはとても幸せなものなのか、それを望んでもいいのかと素直に思える、そんな作品でした。

それもきっと、麦本三歩というキャラクターと先輩たち、友人たちの、日常のなかにある些細なやり取りが、本当に私と何も変わらない、特別な才能がある訳でもなく、特別な人間なわけでもなく、ましてやスペシャルなストーリーがある訳でもない、ただ、毎日生きていて、好きなものがあって、別れや新たな発見や、そういった描かれていた"些細なやり取り"に、純粋に心打たれたからなのでしょう。

好きと嫌い、別れと出会い、生と死、または喜怒哀楽と、きっと私の人生も、実はそう悪いわけではなく、良いも悪いも全部ひっくるめて、とても愛おしいもので、そうやって三歩が三歩であるように、私も私でいいのだと、布団から起き上がって、大好きなカフェモカを飲んで、仕事がめんどくさい私でいいんだと、なんとなく許せた時間でした。

読書感想文の定型文に「主人公と友だちになりたいです」って言うのがありますが、いやもう、本当に、友だちになりたいです。

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