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故郷を捨てて、難民になることとは?(映画「ミッドナイト・トラベラー」を観て)

タリバン政権の怒りを買い、アフガニスタンで死刑宣告を受けた、映画監督のハッサン・ファジリさん。

安住の地を求めて、家族(妻と二人の娘)を連れて、ヨーロッパまで5600キロを駆け抜ける。ビザがあるわけもなく、不法入国を繰り返しながら難民申請を受ける。その様子は3台のスマートフォンで撮影された。

これがドキュメンタリー映画「ミッドナイト・トラベラー」の概要だ。

事実は小説よりも奇なり、とよく言われるが、このドキュメンタリーで描かれている切迫感は生々しい。追っ手に捕まりそうになって万事休す……というのではない。

例えばブルガリアでは、難民キャンプのそばで「難民は敵だ」「出て行け!今すぐ自分の国に帰れ!」「今すぐ強制送還だ、(移民を殴ったことによる)裁判の必要はない」といったブルガリア人の罵声を浴びる。実際に父親を殴られた娘は恐怖に震え、もはやブルガリアは安全でないと判断する。

400キロ先のセルビアへの道中、彼らは森の中を移動する。森の中で5日間野宿を強いられる。朝方娘のひとりは「足先が凍りそうに冷たい」と訴える。

恐怖や貧困からの逃亡。

生まれた国が違うだけで、ふつうに暮らしたいだけなのに、その「ふつう」を許されない人たちがいる。

基本的人権って何だっけ?と、しばし考え込んでしまう。

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冒頭で引用された言葉「人は曲がりくねった地獄の道を行く、それは自分の中にもある(The road of life winds through hell. And also : Hell is within me.)」が胸に刺さる。

アフガニスタンを捨てて、「難民」と認定されるまで3年の月日を要したファジリ一家。改めて映像冒頭を見直すと、まだ6歳だった次女・ザフラさんが、大きく成長したことを実感する。6〜9歳という、人生において最も感性豊かな時期を、友達とも過ごすことができなかった事実は、やはり重い。

せめてもの救いは、ファジリ一家のすべてが笑顔を絶やしていなかったこと。映画の途中では涙を流す場面もあるけれど、いつも家族が手を取り合って難局を乗り越えようとしていた。

家族愛のハッピー・エンディングで片付けるにはいかない話だけど、明るさや希望がなければ、苦しみに囚われたままになってしまう。

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「難民」をめぐり、様々な社会問題が勃発している。難民の一部が犯罪に手を染めるケースもあり、差別や排斥につながっている事実もあるだろう。

だが「ミッドナイト・トラベラー」は、難民側の立場で社会を見つめた作品だ。故郷を捨ててまで、難民を目指さなければならなかった理由は何だろうか。彼らを受け入れない社会と、その意思決定は妥当なのだろうか。そもそももっと根深く、はびこっている真因は何なのだろう。

色々なことを考えさせられる作品だ。配信は2/10(木)まで、興味のある方はぜひ視聴しておいてほしい。

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(シネマ映画.comで2/10(木)まで観ることができます)

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