弱いからこそ、できることがある。(映画「前科者」を観て)
「弱者に寄り添う」というテーマはありがちだけど、登場人物の描写がいずれも丁寧な作品です。ドラマシリーズからの劇場作品ですが、ドラマを観ていなくても問題ありません。
「前科者」
(監督:岸善幸、2022年)
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保護司とは、「非常勤の国家公務員」という立場ながら無報酬で、地域の自営業者や元教師、主婦などの民間人が担っている職業だ。
本作でも、保護司の阿川佳代(演:有村架純)はコンビニでアルバイトをすることで生計を立てている。順調に更生に向かう前科者だけではないため、仕事も非常にハード。優しく寄り添うだけでなく、仕事に定着できない若者に対して阿川が「あなたは崖っぷちにいます!」と叱責する。(アパートの窓を割りながら……)
本作は義父によって母親を殺害され、劣悪な保護施設で幼少期を過ごした工藤兄弟を軸に話が進んでいく。兄の誠は職場での壮絶ないじめの末に、相手を刺殺。刑期を終えようとしている保護観察期間の中で、真面目に更生しようと奮闘する……、中で起きてしまうトラブルに阿川が孤軍奮闘するという物語だ。
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本作では、主人公の脇を固める登場人物たちから、映画のメッセージを様々に受け取ることができる。
例えばマキタスポーツさん演じる刑事。「どうせ死刑なんだから更生もクソもないだろう」というあまりに粗野な発言を堂々としてしまう。(これは世間の本音というか、罪を犯した人に対する偏見を代表するような発言として描かれているのだろう)
だが彼も、ただただ偏見にまみれた人物というわけではない。「なぜこんな事件が起こってしまったのか」の背景をじっくり探り、実はそのおおもとに同僚の不祥事があったと知ると、同僚にプレッシャーをかけながら真実を追求する。そのやり方こそ強引ではあるが、実に正義感がある中年刑事といえるだろう。
「世の中には本当の悪者はいない」
「悪者として糾弾されている人物も、致し方ない何らかの原因を抱えている」
前科者には、そういった視点が常に提示されている。罪を犯した人間は、たまたま罪を犯してしまう状況にあっただけ。平穏に生きている僕たちも、たったひとつの転落によって犯罪者になる可能性はあるのではないか。
とすると、「罪を裁く」「犯罪者の更生を目指す」ことの意味や意義も、全く変わっていくのではないだろうか。(そしてこのことは、ひいては死刑制度の是非についても問うてくる)
前科者のひとり、斉藤みどり(演:石橋静河)は阿川に告白する。「私はあんただから信頼したんだ。あんたは弱い。私より弱いから、頼れると思ったんだ」と。自己責任が蔓延する社会で、競争に勝つこと、他人よりも強いことで生き抜いていける。でも、必ずしも人としての「強さ」だけで価値が測れるわけではない。
ともすれば忘れてしまいがちな真実を、本作は静かに語りかけてくる。
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多くのレビューでも語られていますが、前科者として本作のキーパーソンだった森田剛さんの演技は白眉でした。
1995年に結成したV6は、同年に「MUSIC FOR THE PEOPLE」、翌年に「MADE IN JAPAN」をリリース、翌々年にはTBSで「学校へ行こう!」が始まりました。
当時僕も小学生で、V6初期のばりばりアイドル時代を共有しています。だからこそ森田さんが、「こんな演技もできるんだなあ」と驚きました。(冒頭に彼が登場したシーンは、「これって本当に森田剛?」と思ってしまうほど)
キャスティングを実現したスタッフのチャレンジにも拍手を送りたいです。キャスティングを担当したのは、おおずさわこさん。現在上映中の「正欲」、待機作「市子」のキャスティングも手掛けています。
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