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余韻が残る映画(映画「イニシェリン島の精霊」)

映画テキストサイト「osanai」で、マーティン・マクドナー監督作品「イニシェリン島の精霊」のテキストを公開した。

本作は、仲違いした主人公ふたり(コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソンが演じている)を描く作品だ。表面的にみたら「良い歳の大人ふたりが何やってるんだ」と思われるかもしれない。だが、劇中で時折アイルランド内戦のことが触れられている通り、物語そのものが内戦のメタファーとして機能していることが明白である。

ブレンダン・グリーソンが演じるコルムは終始、静かな怒りと憤りを携えている。トーンダウンしそうな局面もあるが、あえて自らに喝を入れる形で、怒りと憤りが持続していくから不思議なものだ。その「喝」とは、自傷行為だ。自らの身体を傷つけることによって、コリン・ファレル演じるパードリックを寄せつけまいとする。

プロバガンダに見られる通り、戦争や内戦を維持していくためには、国民の士気を上げ続けなければならない。コルムが見せた自傷行為に近いことが、国家レベルでも行なわれている。しかも、現在進行形で。

誰が、コルムの狂気を一笑に付すことができるだろうか。

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かくのごとく、「イニシェリンの精霊」という映画は、僕に暗い影を落とす作品だった。正直な話、観なければ良かったと思った。高く評価されている作品だが、僕には合わなかった。どこがアカデミー賞有力候補だ、と思ったものだった。

だけど、映画の余韻は今も続いている。

先日、3Dで「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を観た。物語はひどく凡庸だったけれど、やはり前作同様、いやそれ以上に映像美は圧巻だった。アバター続編4作の総製作費は10億ドルを超えるそうだ。

桁違いの予算を注ぎ込んだだけあって、クオリティは群を抜いていた。

だが、残念ながら(というべきか)、アバターの余韻はもう残っていない。鑑賞直後のいや〜〜〜〜〜な後味は消え、しっかり血肉となって僕の中に根を張っているような感覚がある。

なかなか言語化するのは難しいけれど、余韻が残る映画というのは確かに存在する。ただ、余韻が残らない映画が劣っているわけではない。映画「トップガン マーヴェリック」はそれほど余韻は残らなかったけれど、鑑賞時の圧倒的な映像体験は得難いものとして記憶に刻まれている。「あ〜、楽しかった!」という刹那の歓びであっても、素晴らしい映画体験であることに変わりないのである。

「イニシェリンの精霊」を、また映画館で観たいかといえば、あまり「Yes」とは言いづらい。コルムの自傷行為は見ていてつらかったし、それによってとことんまで傷つくパードリックも気の毒だ。

だが、折に触れて思い出すことだろう。
余韻の行方は、僕を良い方向に誘ってくれる予感さえする。

そんな「イニシェリンの精霊」、興味のある方はぜひ映画館でチェックしてほしい。

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