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「負け犬」の描かれ方(映画「ザ・エージェント」を観て)

20代の頃にキャメロン・クロウ監督の作品に夢中だった。

特にハマったのが「エリザベスタウン」。オーランド・ブルームさんとキルスティン・ダンストさんが主演を務め、「挫折からの立ち直り」というテーマのもと、軽やかなエモーションが作品を彩っていた。

「あまりに出来過ぎでは?」と思わなくはないけれど、起業に挫折し、結果として転職活動に苦労した経験を持っていた自分とも重なり、何度となく元気をもらった。

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理由もなく、名作の呼び声高い「ザ・エージェント」はずっと観ていなかったのだけど、たまたま前職で人事の仕事をするようになって、本作に巡り会う。

転職エージェント(人材会社)の仕事が分かりやすいので悪意なく例に出してみる。彼らの仕事がどうやって利益を上げるかというと、

・有望な求職者を集める
・求職者を企業に紹介する
・マッチングすると紹介フィーが入ってくる

というビジネスモデルだ。有望な求職者の数が増えれば増えるほど商売の機会は増える。マッチングまでの期間が短ければビジネス効率が高くなる。紹介フィーが高ければ高いほど転職エージェントにお金が入ってくる。

企業もビジネスのことを考えなければならないので、求職者に「寄り添う」にも限度がある。なるべく短いスパンで回して回して回しまくることでノルマを達成できる。求職者の信頼は得ることは大前提だが、どうしても仕事をこなしていくうちに、「寄り添う」よりも「効率」が重視されていくようになるわけだ。

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その流れに抗ったのが、トム・クルーズさん演じるジェリー・マグワイアだ。

スポーツ選手の敏腕エージェントとして実績を誇るが、ひょんなことがきっかけで「一人一人と寄り添う仕事をしないか」とボスに提案する。残念ながらそのままクビになってしまうが、独立後に唯一取引が継続した、冴えないアメフト選手、ロッド・ティドウェルと共に成功を勝ち取っていくという話だ。

ただ成功への道のりは長かった。

ジェリー・マグワイアが何度も苦難に立たされ、そのたび「負け犬」という言葉を浴びせられる。

恋人に言われたり、自らを卑下したり。かつて敏腕エージェントとして振る舞っていた彼がなかなか上手く立ち振る舞えない。部下と恋愛関係になり、やがて結婚もしてしまうのだが、夫婦生活も思い通りにはいかない。「負け犬」は、人間的にも不完全であることを否応なく自覚していく。

この描き方が、キャメロン・クロウ監督の素晴らしさだ。

ただただ「負け」たのでなく、自己否定や自己批判をする中で「俺は不完全だ」と気付いていく。その気付きはネガティブなままで終わるのでなく、きちんと消化され、ポジティブに移っていく。

要は「負け犬」の意地を見せ、「負け犬」なりの戦い方をしていく。

最終的に「勝つ」かは分からないが、負け犬だからこそ言えること、気付くこと、見せられることがある。

そういった意味で、表面的な部分での負け犬は、どこかでちゃんと成功する理由を持てているわけだ。何と心強いメッセージだろう。

トム・クルーズさんとレネー・ゼルウィガーさん。まあ非現実なカップルだなあと思うけれど、そこに批判の目を向けると本質を見誤ってしまう。

監督の人生観や、仕事におけるスタンスをじっくり拾ってみてほしい。希望がある。現代において映画を作る意味を、キャメロン・クロウ監督は深く理解しているのだと僕は思うのだ。

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