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ぼんやり待っていても 「いつか」は絶対に来ない(菅付雅信の編集スパルタ塾を終えて)

1年間、駆け抜けた。

燃え尽きる暇もなく、次のプロジェクトが待っている日々だけど、「次」があることはとても幸せなことだ。

昨年の今頃、自分自身に迷いがあって歩みが止まってしまっていた。大袈裟な話でなく、「次」への原動力を得られたのは「菅付雅信の編集スパルタ塾(以下「編集スパルタ塾」)」のおかげだ。

あくまで僕の備忘録のためだが、「これから受講しようか迷っている」という方にとって参考になれればと思っている。(4/8現在、第9期申込受付中です)

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編集スパルタ塾とは

講師を務めるのは、編集者の菅付雅信さん。雑誌や書籍、写真集などの編集を手掛ける他、クライアントの要望に応じたブランディングや街づくりなど、編集の領域を自ら拡大し続けている方だ。

「日本で一番辛く、日本で一番身に付く編集塾」という触れ込みの通り、一年間を通じて、様々な領域の「編集」について学べる塾である。

しかしその中身はアウトプット中心。菅付さんからの講義もあるが、開催回のうち3/4は、ゲスト講師が出す課題に対して受講生が答えを捻り出し、菅付さんとゲスト講師の前でプレゼンテーションをするというものだ。

スパルタ、という名前がついている理由は3つ。

・受講生のうち10名程度(全体の1/4)しかプレゼンができない
・プレゼンに対する容赦のないフィードバック(全否定ということも)
・10名の中からゲスト賞が1名だけ選ばれる(≒それ以外の受講生は敗者同然)

あるゲスト講師の方から「こんなフィードバックを会社で言ったら、下手したらパワハラで訴えられるかもね(でもスパルタ塾だから厳しく言っているんだよ)」と笑ってエクスキューズされることがあった。

受講生が課題に対して本気で向き合い、受講生の中から選ばれるゲスト賞を本気で獲りにいく。だからゲスト講師も本気でフィードバックをする。2〜3時間があっという間に過ぎる。その濃密な時間は「お勉強」と表現するのは適切でない。

意欲と熱意がある受講生、そして第一線で活躍するゲスト講師たちと対峙する「真剣勝負」

M-1グランプリで他コンビのネタ中に、「すべれ!すべれ!」と口角泡を飛ばしていたお笑い芸人の気持ちがようやく分かった。選ばれたい、認められたいと強く欲求した日々は、あまりに必死だった。「選ばれない」ことへの不安で胃が痛くなり、下北沢B&Bへの道すがら蹲ることもあった。安寧とした日々を過ごしたい人にはお薦めしない。

受講の動機

僕の受講動機は極めて不純なものだった。

ゲスト講師として、尊敬する人が2名も挙げられていたからだ。

プロダクトデザイナーの深澤直人さん、そして実業家の遠山正道さんだ。

編集スパルタ塾には、様々なバックグラウンドの受講生が参加する。広告プランナー、デザイナー、書籍編集者、自由人、Webディレクター、etc……

僕の現在の肩書きは人事ディレクターで、わりと珍しい存在だったかもしれない。だけど菅付さんが定義する編集は「企画を立て、人を集め、モノをつくる」

採用や企業広報にも通ずるし、何なら全ての仕事に当てはまることだ。

ただ小賢しい目標・目的は置かなかったのが本音だ。数回の講義を終えたときの僕は、ただただゲスト賞を獲得し、年間MVPになることを目指した。1年かけて編集スパルタ塾を駆け抜けたとき、きっと何かを「感じる」ことができる予感はあったのだ。

実際に通ってどうだったのか

真剣勝負としての「戦績」は、以下の通り。

・15回中12回、プレゼンの機会を得た
・ゲスト賞は獲得できなかった
・前半は全受講生のうち1位だったが、最終的には4位に終わった

……実にイマイチな結果となった。それでも拙いながら、全ての課題を提出したのは最低限の「戦果」として誇りたい。時に向き合うことすら憚られるようなテーマと向き合うこともあった。あらゆる課題を「自分事」として捉えることができたが、僕にとって多少の成長を実感できたことでもある。

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どんなフィードバックを受けたのか。

編集スパルタ塾の受講生のみ通ずるコンテキストもあり、無用な誤解を招いてしまうのは本望ではない。だが僕の心を強く揺さぶり、今も心に留めている言葉もあり。フィードバックこそが編集スパルタ塾の本質だと思うので、幾つか紹介したい。

▼「いいね」を集めてもお金を出してもらえない(西田善太さん)

初回のゲスト講師は、ブルータスの編集長を務める西田善太さん。様々な企画(らしきもの)が並ぶ中で、「企画になっていない」と喝破していく。「誰が雑誌に出ているか」で売るのでなく、「企画が面白いか」で売るのだというプライド。SNS時代で「いいね」に価値を見出される時代に、「どんな企画ならお金を出してもらえるか」を考えさせられた。西田さんには「〜〜だと思う」という言い回しは殆どない。強烈な洗礼だった。

▼おかず、おみそしる、ごはん(菅野薫さん)

コロナ禍における都市計画についての課題。該当区域の住民にヒアリングも行ない、自信満々でプレゼンしたものの「PR手法はありきたり。○○にはどんな固有のストーリーがあるのかを提示すべき」とフィードバックを受けた。「幕の内弁当」のように何でも食べられることに安心するのでなく、「何がお皿にあると強く刺さるのか」を考えるべきと。企画というものの本質を突きつけられた瞬間だった。

▼まずは自分でゴミを拾え(遠山正道さん)

多くのゲスト講師がクリエイティブ業界の方である中で、実業家の遠山さんの課題は「○○において、あなたが実現したいことを発表せよ」というもの。受講生の企画を「足下が覚束ない」と切り捨てる。受講生が考えた「ごみ問題を解決する」という企画に対して「まずは自分でゴミを拾ったら?」と突き放した。究極の自分事である。「リアルに1/1を突き詰めない限り、耳障りの良い話にしかならない」というメッセージ。あまりに本質だ。

▼王道で勝負しなさい(深澤直人さん)

編集スパルタ塾では「30分くらいのブレストでは出てこないような企画を考えるべき」ということが言われている。プロとして、普遍性と意外性が高いジャンプした企画を考えることが求められるのは当然のこと。しかし深澤さんは「奇を衒う」ことを良しとしない。何が課題なのか、なるべく正面から課題に向き合うことが大事だと示す。デザインという手法を通じて世の中の最適解を常に模索する深澤さんの、仕事への姿勢を思い知らされた。

そんな中、8期でMVPを獲得したのは、あおきゆりさん。

何を得たのか(最後の最後で絞り出した「想い」について)

先に挙げた戦績の通り、結果として「選ばれる」ことは叶わなかった。

それでも前半と後半のインプットを比べてみたとき、後半は(選ばれないこともあったけれど)何とかジャンプしようともがいた軌跡は確認できる。もちろん評価されないと意味がないのだが、アウトプットに至るまでのプロセスは再現性もあるから、今後は場を変えて「選ばれる」ための努力を続けていかなければならない。

編集スパルタ塾は、そのシステム上止むを得ないのだが、選ばれないことが続くと、心が折れて「脱落」してしまう。だけどそんなスパルタを食らう中でも、課題を出し続けた何人かの受講生は、戦いを共にした友人であり同志だ。彼らと共に戦い、結果的に今後仕事をしていく中で、繋がりを持てたことは大きな財産になった。

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最終回の課題は「この1年間の編集スパルタ塾を通して得た、あなたが考える『編集とは何か?』を定義し、その編集力を使って、あなたが世の中に何を貢献できるかを提示せよ」というもの。(毎年、最終回の課題はコレらしい)

「あなたが世の中に何を貢献できるのか」。究極の自分事だ。アウトプットを考えながら、僕は久しく、この問いから逃げ続けてきたことを思い知らされた。

提出まで残り4時間半。資料の大半が完成していたタイミングで、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を視聴した。映画監督・庵野秀明さんの密着取材だ。

放送を終えたとき、僕の中で、1つの答えが生まれた。

そしてスライドを全て塗り潰し、僕の率直な想いを載せた。

3時間しかなかったので、結果的に「ひどく粗い」資料になってしまった。

だけど今までになかった清々しさがあった。スライドにはこんなことを書いている。

いつか機会が来てくれるだろうと、漠然と考えていました。(だけど)ぼんやりと待っていても「いつか」は絶対に来ないと気付きました。七転八倒、自らもがき、自ら機会を手繰り寄せ、恐れずにアウトプットしていかないといけません。

恥ずかしくも、僕の中に秘めていた / 無意識で隠していた「甘え」だった。それをカミングアウトし、具体的に何をやりたいのかを吐き出すことができた。(何を書いたのかは、追ってnoteに書きたいと思う)

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プレゼンは、上々だった。

やりたいこと(世の中に貢献したいこと)はとっ散らかっていたけれど、今の、僕なりの答えだった。それが伝わったような感覚があった。

講義を終えて、走り書いたノートにはこう記されている。

菅付さんから「堀さんは覚悟がある」と言っていただけた。
嶋さんから「ちゃんと答えを出してきてくれた」と褒めてもらった。

覚悟なんて、ない。
だけど不思議なことに「覚悟がある」と言われた。自分に最も足りないことで、そして今、最も必要なことが「覚悟」だったということだろう。

もちろん「覚悟」とは、無謀であることと同じ意味ではない。

勝算のない計画は、ただ愚かなだけだ。「若気の至り」で済ませられるほど安易な意思決定は命取りになる。僕には幸せにしたい家族がいるのだ。

それでも、情熱を注いで実現したいことが複数あって。

それを考えている時間はとても幸福だ。

不思議なことに、家族や友人、先輩たちから酷評されても嬉しいと思える。ちょっと凹んでも、次に向かうエネルギーが湧いてくる。

このマインドこそ、僕が編集スパルタ塾で得た、無形の財産だと確信している。

参考までに

ここまで駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

僕が受講に際して参考にしたnoteは以下だ。僕の長文駄文よりも整理されているので参考にしてほしい。

とりわけ野村隆文さんの「いま何に向くかで、今まで何に向いてきたかさえ変わる」という言葉は、読み返してみると、強い実感がある。

例えばアイデア力を高めるためのTipsは、ネットサーフィンすれば山のように出てくる。しかし、そこに意志がなければ、Tipsは単なる読み物でしかない。

意志を込めるというのは、プロとして生きると覚悟を決めることだ。

僕らはともすれば、「与えられた」仕事をこなすことで生計を立てられる。先進国・日本で生きることの有り難さ。とても優れた社会システムだ。

だけど、それで本当に満足なのか、胸に手を置いて考えてみてほしい。

僕の答えは「No」だった。
明確に「No」だった。

このnoteを読んでいる方で、今の生活に満足しているのであれば、編集スパルタ塾はあまりにスパルタだ。お勧めしない。

だけど、何かしら不満があったり、言語化できないモヤモヤを抱えている人は、編集スパルタ塾の門を叩いてみると良いかもしれない。

あなたのスパルタすぎる挑戦を、心から、期待しています。

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@horisou

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