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結末が予想できたとしても、涙することがある。(映画「クレイジー・リッチ!」を観て)

一部ジャンルの作品を除き、ほとんどのエンターテイメント作品はハッピーエンディングを迎える。それがフィクションの当然の帰結、あるいは宿命といえるほどに。

当然そこに至るまでのストーリーは多岐にわたる。だが結局は、山あり谷ありを通じて、どのように主人公をハッピーエンディングに到達せしむかが作品の面白さを決定づける。

ワンパターン?いやいや、そんなことはない。

「イン・ザ・ハイツ」などを手掛けたジョン・M・チュウ監督による「クレイジー・リッチ!」は、ハッピーエンディングの名手だ。大小の演出に長け、観るものをワクワクさせてくれる。

「クレイジー・リッチ!」で期待される結末

物語は、経済学が専門の大学教授・レイチェルと、シンガポールの大富豪の御曹司であるニックを軸に展開される。ふたりは既に恋人同士、ニックの親友の結婚式に出席するため、ふたりはシンガポールに向かう。レイチェルにとっては初めてのシンガポールであり、ニックの親族に初めて挨拶する機会だった。が、ニックはレイチェルの想像を大きく上回る大富豪の御曹司であり、それゆえ「女は、家族第一で生きるもの」と考えるニックの母親と激突してしまう……

というのが、大まかな話の筋だ。

実際に映画は、きらびやかな美術と、コメディタッチの演出で小気味良く始まっていく。そもそも「クレイジー・リッチ!」というタイトルからして、シリアスな要素は皆無──というか、どんなにシリアスな出来事があっても、それがフリになって最終的にハッピーエンディングに向かうということを初っ端から予想(期待)できるという感じになっている。

さらには、レイチェルと義母の対峙について。義母はとことん「嫌なやつ」として描かれているのだが、こちらも最終的には和解するであろうとことが示唆されている。

レイチェルとニックは恋人以上の関係になる。しかもレイチェルは義母と和解できる。

さすがに「イン・ザ・ハイツ」でも、ここまで分かりやすい結末は示唆されていなかった。ただこれはジョン・M・チュウ監督の意図通りであり、徹頭徹尾分かりやすく、ハッピーな映画を作るんだというアティチュードだろうなと僕は推察している。

結婚が規定する(可能性のある)もの

独身女性(女性に限る話ではないだろうが)にとって、結婚というのは一大イベントのひとつだ。もちろん多様な夫婦のスタイルはあるが、結婚を経て出産を間近に控えると、途端に自分自身の仕事や幸せについて「既定路線」を辿る可能性が高くなってしまう。

レイチェルにとって、ニックとの結婚は「仕事を諦める」ことを意味していた。シンガポールに来たことで、そのプレッシャーを大きく感じるわけだが、それは「大富豪のヤン家だから」という理由だけではないだろう。

多かれ少なかれ、多くの独身女性が、結婚というイベントを意識することで将来について考えることになる。考えてみれば、早ければ10代で自分の生き方が規定される(可能性がある)なんて、なかなかクレイジーなことだ。

コメディタッチな映画とはいえ、そういった現在進行形な問いが混じっていなければ「2時間」はもたない。非現実な設定にもかかわらず、さりげなく社会問題を紛れ込ませているのは上手いなと思わざるを得ない。

強くなっていくレイチェル

繰り返しになるが、本作は、レイチェルと義母との対峙が見どころのひとつだ。フランツ・カフカ『城」かと思うほど、レイチェルと義母との出会いはじらされるのだが、会ってからの怒涛の交錯にはハラハラしてしまう。

どう考えても、常に義母の方が優位な立場で。「なんで嫌われているんだろう」「和解できる余地なんてなさそうだ」

冷たくあしらわれていたレイチェルは、どんどん希望を失っていく。だが、冷たくあしらわれていたからこそ、レイチェルは「強く」なることができた。

終盤で、レイチェルが義母に対して物申すシーンは、観ていて胸がすくほど気持ちが良かった。

……といいつつ。

最後の「和解」を象徴するシーンは、思わず涙がほろり。良いハッピーエンディングな作品だったと思います。

──

食事、パーティ、衣装など、終始カラフルな演出も、この作品の良さを形作っている。

映画館で観たとしたら、美術の華やかさに息を呑んでいただろう。

という意味で、サブスクリプションサービスなどで鑑賞する場合も、なるべく大きなスクリーンで観ることをお薦めします。

(Amazon Prime Videoで観ました)

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