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市原隼人というギャップマシーン(「劇場版 おいしい給食 Final Battle」を観て)

全くノーマークだった、テレビ東京のドラマ「おいしい給食」。

仕事の箸休め的に鑑賞したが、思わず笑ってしまうシーン多数でハマってしまった。市原隼人さんの突き抜けた演技がいい。

現在、劇場版3作目も公開中ということで、うっかり観に行ってしまいそうな勢いである。

「劇場版 おいしい給食 Final Battle」
(監督:綾部真弥、2020年)


──

給食LOVEな、厳格な教師

市原さん演じる厳格な中学校教諭・甘利田あまりだは、生徒の前ではとかく厳しい。校門に立ち、服装の乱れや挨拶ができない生徒に対して厳しく注意をする。

いうことを聞かない生徒は、問答無用で叱りつけ、バケツを持って廊下に立たせる。現代では懲罰もののスパルタな教師である。

「おいしい給食」は、時代設定が1980年代だ。甘利田のような厳しいスタンスも許容されていた時代ということだろう。だが、その厳しさはあくまでコンプライアンスに関するリスクヘッジに過ぎず、作品でやりたかったのは「甘利田という人物のギャップづくり」だろう。

厳格な教師。
なのに、給食をこよなく愛している。

給食を食べるときの甘利田は、まるで童心に帰ったよう。表情は緩み、「いただきます」の前の校歌斉唱ではウキウキが止まらない。鯨の竜田揚げにかかっている「オーロラソース」なるものに、「オーロラちゃん」と名付けるチャーミングさもポイントだ。

給食を食べるとき、そうでないときのギャップの大きさ。それこそが「おいしい給食」の魅力のひとつだろう。

なんといっても、市原隼人

そんなチャーミングな甘利田を演じる市原隼人さんが、なんといっても役にハマっている。失礼ながら、こんなにもコメディに向いた俳優だとは思ってもいなかった。

佐藤大志さん演じる神野ゴウとの給食対決で、常に後塵を拝することになるわけだが、「給食LOVE」っぷりと、負けっぷりの両方を同時に、そして同じ熱量で演じ切る。そこに一切の手抜きはない。観客はいわゆる完パケの映像に触れるのみだが、撮影中は「どんな仕上がりになるのか」分からないまま演じているわけで。

これは劇場版第二弾のインタビュー映像だが、「カットがかかるたびに首を傾げていた。大丈夫かな、大丈夫かなと」と市原さんは語っている。

コメディだからといって手を抜くのでなく、むしろコメディだからこそ全力投球をする。職業人としての矜持を感じさせられる作品でもあるのだ。

でも結末は「うまそげ」とはいかなかった

コメディ要素が満載だが、本作の結論は「笑えない」部分が多かったように思う。

つまり甘利田にとっても、生徒役の神野にとっても、結末はハッピーエンドにはならなかったということ。これは現実に即している(「世の中は甘くない」的な)といえばその通りではあるのだが、あまりに救いのない展開に、正直なところ消化不良な感が否めない。

ふたりでカップラーメンをすするシーンは、双方の相互理解を示していたのだろうが、カップラーメンを食した後のふたりの行く末を案じざるを得なかった。あんまりじゃないか、と。

まあ、そこからテレビドラマのシーズン2に移行していくのだが、映画1本のみで鑑賞をやめる人もいるわけで。映画は、映画として完結するのが、つくり手としての“筋の通し方”ではないかと思うのだ。(その辺りの評判を受けて、続編となる劇場版第二弾では、それなりのハッピーエンドで完結している)

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市原隼人さんの代表作は様々あるが、広く認知を得た作品はテレビドラマ「ROOKIES(ルーキーズ)」だろう。

エースで四番の安仁屋を演じた市原さんは、ドキュメンタリー「情熱大陸」にも取り上げられ、ストイックな役づくりが話題を呼んだ(もう15年前のことだ)。

市原さんは小学5年生のときに演技を始めたそう。岩井俊二監督が2001年に映画化した「リリイ・シュシュのすべて」で主人公・蓮見を演じたのだが、あまりに脆くて繊細な役どころに、同年代ながら衝撃を憶えた。

25年以上の俳優人生。きっと様々な葛藤もあったのだろう。全く想像もつかないが、「俳優」として、様々なキャラクターを演じてこられたのだなと、「おいしい給食」を観て、改めて実感した。

まだ37歳。今後の活躍も楽しみである。

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