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正しい方へ、導くということ。(映画「奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜」を観て)

「映画」は、きっと僕が思っているよりもずっと、様々なことを表現できるメディアだ。

Amazon Prime Videoで配信終了が告知されていた映画「奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜」は、突出した表現技法や、エンタメとしての真新しさがあるわけではない。

淡々と物語は進む。分かりやすく、観る者の心を動かすような導線が用意されているわけではない。

中には拒否反応を起こす人もいるだろう。物語には「アウシュビッツ」という、暗く、全ての人類が憂うべき惨劇に触れなくてはならないからだ。

でも結果的に、観て良かったと心から思った。このような映画が、もっと広く伝わるべきだとも。Amazon Prime Videoでは配信終了になってしまったが、別の手段でぜひ観てほしい。子どもの親、教育者でなくとも、心を動かすものが何かしらあるはずだから。

(ちなみに本作は、実話に基づくフィクションです)

*

描かれた意図がある

物語の主人公は、フランスで歴史と地理を教えるアンヌ・ゲゲン。

彼女が受け持つクラスは、いわゆる落ちこぼれ。まともに授業を聞く生徒はおらず、また異なる人種同士でのいがみ合いなど、小さな分断が至るところで起こっていた。

授業でゲゲンは、キリスト教を下敷きにした一枚の絵を見せる。宗教画だ。

そこでは天国と地獄が描かれていて、地獄側に「これは、一説ではムハンマドだと言われている」と告げる。イスラム教を信仰している生徒は憤慨する。

ゲゲンは努めて冷静に諭す。「なぜ、この絵は描かれたのか?」と。

時代背景や、当時の勢力図などに触れながら、キリスト教とイスラム教の対立があったことを告げる。「どんな絵にも、描かれた意図がある。この宗教画はプロパガンダなんだ」と。

歴史を点でなく、線的に、面的に見ることの大切さを、生徒に告げる。「生徒に告げる」というシーンが映画に描かれていることによって、観る者にも同じような言葉が告げられているような感覚を得られるのだ。

教師・ゲゲンの言葉

ゲゲンは映画の中で、以下のような言葉を生徒に投げ掛けている。

・節度を守りなさい
・文句ばかり言うのは、笑われるのが怖いから。自分に自信がなくて落ちこぼれを装っている
・あなたたちを信じるのは私だけ?みんなならこのテーマ(アウシュビッツ)のことを語れるはず
・喧嘩よりも情報交換の方が有意義よ
・若者として、素直に自分の意見を言えば良いのよ

共通しているのは、教師として、優しさと厳しさが同居しているゲゲンの人間性だ。

生徒を脅すことはしない。毅然とした態度をとり、言うべきことをきちんと言う。至って「ふつう」のこととして、ゲゲンはきちんと言葉にしている。

それは、他の教師たちが「(問題行動を)君たちのことを報告します」と言い、その場での対処を放棄するのとは対照的な態度だった。

言葉は、生徒を脅すこともできれば、生徒を導くことにつながるもの。

教師としての素晴らしさを超越して、人と人が接する上で、人間としてゲゲンのような姿で在りたいと強く思った。

歴史は理解するもの

ゲゲンと協力して、生徒を導くのは図書館司書のイヴェットだ。

「アウシュビッツ」という、高校生には手に負えないようなテーマも、イヴェットの導きによって、適切な資料などが生徒の手に渡っていく。

生徒は最初、「ノートはとるべきなのか?」という質問をする。

それに対して「その必要はない。歴史は理解するものよ」と告げた。金言だと思う。

生徒は、「アウシュビッツ」にまつわる情報をインプットしていく。そこに色々な数字、当事者の名前、因果関係など詳しくメモをとっていく様子が描かれている。

ただ、これらは丸暗記するようなものではない。

感覚として、理解することが大事なのだ。

*

成人していない生徒たち。彼らは将来に向けての準備段階を高校で過ごしている。

正しい方へ行くことも、誤った道を行くことも、この準備段階で決まるといって過言ではない。

そんなとき、教師をはじめ、大人の役割はとても大事なものだ。過干渉するわけではない。正しい方へ導くために、何ができるのか。その答えはなかなかハッキリと言えないけれど、この作品には、そのヒントがある。

正しい方へ導くこと。その努力を怠ってはいけない。

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(Amazon Prime Videoで観ました※2022/4/24(日)に配信終了しました)

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