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眞栄田郷敦の眼球、高橋文哉の跳躍(と挫折)

東京藝術大学合格を目指して、描いて描いて描きまくる受験生たち。

決してクリエイティブな仕事や学問に携わっていなくとも、努力を積み重ねるプロセスに共感する人も多いのではないでしょうか。

頑張ることは美しい。
格好悪いかもしれないけれど尊い。

おれも頑張ろう!と前を向ける、2024年を代表する青春映画でした。

「ブルーピリオド」
(監督:萩原健太郎、2024年)

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眞栄田郷敦の眼球

120分を通じて、眞栄田郷敦さんが演じる谷口八虎の強い目力に圧倒される作品でした。

ただ「強い」だけでなく、臆病さや冷笑など、様々な目線が演じ分けられていて。決して俳優としてキャリアが長いわけではないはずなのに、眼球と声質だけで観る者の心を掴んでしまう。才能といって差し支えないでしょう。

谷口の眼はいつだって真剣です。

だからこそ彼の眼を通じて、観客も目の前の本質と対峙する必要があります。

おれは何を描くべきなのか。

そんな問いを双方向で交わせるのも、ひとえに眞栄田さんの眼の力と言えるでしょう。

高橋文哉の跳躍(と挫折)

この作品の面白さは、ひとりとして同じ人物がいないことです。谷口の同級生である鮎川は、絵を愛し、自らの「好き」に真っ直ぐで、他人の評価を気にしない強さを持っています。

谷口が持っていないものを鮎川は持っている、といっても過言ではないでしょう。

ゆえに谷口の心理状態(前向きなとき、後ろ向きなとき)と、鮎川の心理状態はシンクロしません。鮎川が跳躍する姿を見て谷口は牽引されるし、鮎川が落ち込む姿を見て谷口は新しい気付きを得ることができます。

鮎川の跳躍と挫折が、決してシンクロはしないのだけれど、時間差で谷口にとっての良き体験へと昇華されていくのでした。

導いてくれる師の存在

本作には、薬師丸ひろ子さん演じる美術教師と、江口のりこさん演じる美術予備校講師のふたりが、谷口を藝大合格へと導いていきます。

「あなたにとっての価値は何か?」
「谷口は『縁』が糸のようだと本当に感じた?」
「一位じゃなくて、最高の絵を描け」

私はライターとして生計を立てているので、勝手にライターとしての自分へのメッセージへと変換していました。

「人間はひとりでは生きていけない」とよく言われますが、「ひとりからは一つの視点しか生まれない」というのが正確だと思います。複数の視点で、良き方向に導いてくれる師の存在。どんなときも客観的に評価し、導いてくれる人は必要だと感じました。

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「からかい上手の高木さん」で西片を演じた高橋文哉さんが、「ブルーピリオド」では鮎川を演じました。主人公の谷口を芸術へと向けた人物を、さりげなく、そして力強く演じていて、まるで「からかい〜」とは別人でした。(どちらが良かったとかではないのですが)

映画監督によって、俳優はいかようにも変わっていく。このふたつの作品を観るだけで、映像や演技の奥深さを感じることができます。

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