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敵失を期待するだけでは、勝てない。

このnoteでは名古屋市長の河村さんの問題点を指摘しつつ、彼がなぜ名古屋市長選で勝てたのか、その後どういったアクションが取り得るのかについて書いています。
予めことわっておくと、僕は、河村さんがリーダーとして不適任だということを前提にしています。この前提の置き方はやや乱暴だと自覚しています。なぜ不適任なのかという前提を詳述していないからです。巡り巡ってキャンセルカルチャーへの安易な加担を容認してしまうので危険なのですが、本筋から外れてしまうので最低限の記載に留めておくことをご容赦ください。
(※そもそも河村さんの件は、現在の言動であり、その影響力の大きさや酷さから、キャンセルカルチャーの文脈で語りたくないというのが本音です)

あまりにも常軌を逸した事件であり、低めに見積もっても犯罪行為に抵触している名古屋市長・河村さんの蛮行。

アスリートへの敬意が微塵もなく、感染拡大に対する配慮もない。己が「目立ちたい」という欲望が露見された。「醜悪」という強い言葉で表現するのが妥当だ。

彼のことを「気持ち悪い」と生理的な拒否反応が示されるのは、ある意味当然のことだ。しかしこの件が全国規模での非難になっていくにつれ、やや事の重大さが矮小化されているのではないかと危惧している。「河村さんじゃなくてキムタクやディカプリオだったら嫌じゃないだろう」というイケメン神話まで持ち出される始末。

そこじゃない。

ただ、もしかしたら僕が思っている以上に、この問題の本質は見えていないのかもしれない。僕自身も、それなりに長いテキストで思考を整理し、問題の本質へと丁寧に辿っていくことが大切だと考えた。

金メダルを噛むという醜悪な姿に、未だに拒否反応を起こす人も多いだろう。だが、この事件を風化させないためにも、いち個人としての所感を明記しておきたい。

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矢部万紀子さんのコラムに背中を押された

編集者の矢部万紀子さんが執筆した記事には、以下のようなことが書かれている。

表敬訪問の際、市長は後藤選手に「でかいな、でかいな」と繰り返したり、「恋愛は禁止なのか」と聞いたりしたという。そのことを指摘し、「何を言っても許されるおごりとか緩みはなかったか」と聞いていたのは、女性の声だった。4日の夜のコメント「愛情表現のつもりだった」についての違和感を口にし、「傷に塩を塗られたと感じると思わなかったのか」と聞いていたのも、女性の声だった。
「あなたのしたことは、問題ではなかったか」と聞いているのが、すべて女性(同じ人かもしれない)だったのだ。
男性記者たちは、「どういうつもりだったか」ということを繰り返し聞いていた。意図を確認するのも大切だ。だが、取材相手から嫌われるリスクを冒してまで、相手の問題点を指摘するのが女性記者だったというのは象徴的だと思う。ジェンダーギャップ指数120位の国で、問題のありかに敏感なのはやはり女性だ。その目がないと、問題は温存されてしまう。

女性であれ、男性であれ、過度な一般化は避けるべきだ。

なので「相手の問題点を指摘するのが女性記者だった」というのは、やや誤解を招く表現ではなかろうかと思う。

しかしどういった事情であれ、その場にいた男性記者が、河村さんに対して出禁覚悟の質問ができなかったというのは揺るぎない事実であり。

身内に嫌われることも含めて、勇気あるメッセージを発信した矢部さんに背中を押されて、このnoteを書くことにした。

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何を批判すべきなのか

僕は、3つの点を批判すべきだと思っている。

1点目は、河村さんがリーダーとして適任でないことだ。東洋経済の記事にある通り、河村さんは典型的なポピュリズムによるリーダーだ。自らと異なる政策を持つ勢力を仮想敵とみなし対立構造を煽ってきた。積極的に分断に加担していった政治姿勢は誉められるものではない。そして今回の蛮行はコロナ禍に起きたものだ。コロナ禍うんぬんの話ではないが、コロナ禍のリーダーとして1年半近く公務にあたってきたリーダーの態度とは到底思えない。

2点目は、権力者によるハラスメントの問題だ。金メダルを噛む前後、河村さんは後藤さんとの間に「名古屋市のトップと、表敬訪問してきたアスリート」という上下関係を作った。アウェイな場で、ただでさえ緊張する状況において、グイグイと距離を詰める態度にはモラルの欠如があったと言わざるを得ない。

3点目は、反省するのができないという点だ。リコールの問題でも「自分は違法行為に直接加担していない」と各方面からの批判から逃げ続けたが、それなりのけじめをつけるためには、誠心誠意、説明責任を果たすべきだったと僕は思う。この辺りの言動からも、河村さんは「反省することができない」「自分を客観視できない」「何が問題だったのかを正しく捉えることができない」人物だと想像できる。

「最大の愛情表現だった。迷惑を掛けているのであればごめんなさい」というのが彼の本音だ。僕も深く自戒しているが、人間はなかなか変われない。選んだリーダーは「いつか変わる」と期待するかどうか、名古屋市民は冷静に判断すべき局面にきている。

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河村さんの選挙の強さ

そんな河村さんだが、名古屋市長選挙では勝ち続けている。

2021年4月に行なわれた直近の選挙では、愛知県知事の大村さんへのリコールに関する不祥事があった。野党が対立候補を一本化して包囲網を敷いたにも関わらず、4選を果たしている。

全体の結果をみると4万票差という辛勝だ。

しかし結果を詳しく見ると、河村さんの強さが伺える。

①年代に関わりなく支持を受けている
中日新聞による投票当日の出口調査によると、10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代以上というそれぞれの世代において、河村さんが最も票を集めている。

②区に関わりなく支持を受けている
また区ごとの得票数についても、全16区の中で15区は河村さんの得票が多い。(対立候補の横井さんの票が多かったのは南区のみ。アメリカ大統領選挙のようなシステムであれば、河村さんが「圧勝」だったというわけだ)

③男女の違いはなく、コアファンを味方にしている
男女別の投票先についてはデータがなかった。性別による投票率は、男性が41.26%、女性が42.95%だった。
初回の選挙を除き、毎回得票数は約40〜45万票を集めている。この辺はいわゆる河村さんのコアファンと言えるのではないか。

ちなみに今回を除き、全ての名古屋市長選で、河村さんは70%弱の得票率を集めている。「選挙モンスター」の異名は伊達ではない。

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きっと、すぐに忘れられてしまう

僕はそもそも炎上というのが嫌いだ。このnoteにも言及しているが、炎上という現象は、全ての物事を一緒くたにして片付けてしまう。そしてあらゆる情報と共に、やがて忘れ去られてしまうという欠点・欠陥も持っている。

河村さんの件も、少しずつ報道は減っている。

ほとぼりが冷める頃には、また「元気な」河村さんが戻ってくるのは想像に難くない。

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名古屋市民が本気で怒っているのであれば

河村さんをリコールするという手段がある。

解職請求はそれなりに要件が厳しく、現実的ではないかもしれない。

第八十一条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
② 第七十四条第五項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第六項の規定は前項の代表者について、同条第七項から第九項まで及び第七十四条の二から第七十四条の四までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第七十六条第二項及び第三項の規定は前項の請求について準用する。
(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)より引用、施行日: 令和三年二月十三日(令和三年法律第五号による改正))

ただ実際のところ、名古屋市民が、今の「怒り」を正式に表明する手段はリコールしかない。(法人の立場であればトヨタ自動車の「抗議」に見られるようなアクションもできる。しかしそれができる&影響力を及ぼせる企業は限定的だろう)

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前述の通り、人間は、怒りをすぐに忘れてしまう。

もしもこの問題に対して、本当に何とかしたいと思う名古屋市民がいるのであれば、声を挙げてリコールに挑んでほしい。

有権者の1/3を集めるのは相当難しい。だが、その行動は無駄にはならない。河村さんにとって一番怖いのは、トヨタでも名古屋グランパスでもない、有権者一人ひとりだからだ。

国民に、市民にそっぽを向かれたリーダーは、何もすることができない。リーダーを無力化することで短期的に痛みは伴うかもしれない。その良し悪しを決めるのは、そこに住む人たちの意思しかない。

積極的な意思を示さず、4年後の選挙まで様子を見ることもできる。彼が再選を狙うかは分からないが、ひとつだけ言えるのは、敵失を期待するだけでは理想な未来を獲得することはできないということだ。

選挙直前に不適切な言動があれば、多少、選挙結果の影響は出るだろう。しかし、そんな情けない敵頼みの戦略で理想の未来を作れることはできるのだろうか。

勝つか負けるかは分からない。

しかし、やがて祭りは終わるだろう。永遠に続くカオスに終止符を打つなら、今しかない。

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