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Pause for thought. 立ち止まって考える

隔月刊のデザイン誌「AXIS」の最新号のテーマは「Pause for thought(立ち止まって考える)」でした。

「智力と言葉でつむぐ、デザインのニューノーマル」という副題の通り、昨今のコロナ禍を意識した誌面で、建築家のレム・コールハースさん、イノベーション経営論のロベルト・ベルガンティさん、グルメ番組「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」のディレクターを手掛けた上出遼平さんなど、幅広い分野で人選が組まれ、各記事を興味深く読むことができます。

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僕が最も印象に残ったのは、編集者の松岡正剛さんとデザインワークを手掛けるwe+(安藤北斗さん、林登志也さん)の対談記事でした。「知の巨人」と言われる松岡さんが、二人の取り組みに対して開口一番こんなことを言います。

目のつけどころが鋭いだけに、ひじょうにもったいない感じがする。というのも、せっかくの発想が「課題解決」や「プロダクトデザイン」という枠組みのなかに、お行儀の良いかたちで収まっているという印象を受けるから。そうではなく、もっと根底的なところからデザインという概念そのものを捉え直すことだってできるんじゃないのかな。
(AXIS Magazine vol.206、P75より引用。太字は私)

松岡さん自身はコロナ禍以前も、ご自宅で仕事をされていたようで、あまり暮らし向きが変わったという印象は持たれていないようです。

ですが「同調圧力のもと、半ば強制的に」自粛が行なわれている状況に対して懸念を示しています。世の中があらゆる領域で変化する中で表層的な対応や従来の形態 / 機能への執着(例:ZOOMやSlackなどコミュニケーションツールが変わるといったこと)に止まらず、経験知を「象徴や概念のレベルで磨き上げられる」ことを松岡さんは期待しています。

例えば、傘の構造には、ほとんど変化がありません。傘というものを、もう一度デザインするとしたら、どんな形があり得るだろうか。深澤直人さんは「Without Thought」という概念を提示して、玄関スペースに1本の細い溝を設けると、それが「傘立て」として機能することを発見しました
(AXIS Magazine vol.206、P75より引用。太字は私)

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対談相手が松岡正剛さんというのは、想像するだけで胃がキリキリすることでしょう。熟慮していない論考は通用しない相手です。

冒頭で述べたように、松岡さんは対談の中で、デザインに限らずあらゆる仕事が、課題解決に向けられている状況に対して「もっと広い視野で考えるべきでは?」と投げ掛けています。

日常において、つい短期的なスパンのみで課題解決に取り組んでしまいます。「そうじゃねえだろ」と、頭をガツンと打たれるような言葉でした。

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陽明学の有名な命題である「知行合一」が誤って解釈されるのを目にします。

「動き始めた人、動かなかった人」という二者択一で人の思考や行動を巧妙に規定し、「コロナ禍だからこそ何かアクションを起こすべき」という価値観を喚起するのは性急なものだと僕は考えます。

もちろん消費者の需要が冷えている中で、試行錯誤しながら現状打破されている人たちには頭が上がりません。

だけど、こういうときこそ、余裕のある人は自分自身の心の揺らぎに対して静かに耳を傾けてみてはどうかと思うのです。家族との時間をゆっくり過ごして「大切なものは何か」考えるのも良いですし、普段読まない本や音楽に触れるのも価値があることでしょう。僕はテレワーク中にスパイスカレーを作ってみました(失敗しました)。

立ち止まって周囲を見渡すと、意外と空は青いものだと気付くかもしれません。AXISの特集「立ち止まって、考える。」には、そんなメッセージが込められているのかもしれません。


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