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その「骨太」は何を排除しているのか。(映画「ブラックハット」を観て)

ちょうど7年前、2015年5月8日に公開された映画「ブラックハット」。

監督はマイケル・マンさん。間もなく80歳を迎えるいまも、精力的に作品づくり手掛けているレジェンド的な存在。

映画ファンの間で話題になっている、WOWOWで放送されている「TOKYO VICE」。出演した山下智久さんも、マイケル・マンさんの作品への出演を熱望していたと話しているが、1970年代からのキャリアを眺めると十分納得ができるだろう。

彼のキャリアを良い意味で踏襲するように、「ブラックハット」も骨太のアクションサスペンスだ。

「男らしさ」という言葉が死後になりつつある現在において、大義を果たすために奔走する主人公の姿はやや時代錯誤に映るかもしれない。


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「骨太」とは、都合の良い言葉だ。

強力、屈強、タフなどの類語がある中で、骨太という言葉はギリギリでスタンダードを保つような雰囲気がある。骨太の方針、ならOKだけど、屈強な方針、だとちょっと強すぎる。

だが概ね、伝えたいメッセージは同じだ。

ガシガシにプランニングを固めて、ついていけない人やチームは振り落としていく。コストカットも容赦はしないから、当然ながら損を被る人たちはいるはずで。

つまり、骨太の「強さ」は、「弱さ」を排除する可能性がある言葉だ。骨太という強さが見えづらくしている排他性には自覚的であらねばならない。(ちなみにオフィシャルのPRでは、おそらく「骨太」という言葉は使われていない。本作をはじめ、マイケル・マンさんの作品を視聴した人の「印象」として、骨太という言葉が使われているだけだ)

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では、「ブラックハット」が骨太だと言われる理由は何だろう。

映画.comの特集記事では、わざわざ「まさに男性ファンのゴールデンウィークを締めくくる、待望の極上のサスペンスアクションなのだ」という紹介がなされている。なかなか性で映画の価値を語るなんて、ちょっと未来を予見できなさ過ぎである。

とはいえ、製作陣まで「女性を排除している」という意図はなかったはず。

世界中で注目されるマイケル・マンさんの作品において、ごく一部のマーケットである日本のPRにおいて最適(と思われてる)キャッチが導き出されたに過ぎない。(個人的には、本作を手掛けた広告代理店もしくはPR会社の致命的なミスだと感じている)

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では、何を排除しているのか。

僕が思うに、「ブラックハット」は、組織という存在の価値を徹底的に貶めている。逆にいうと個人の屈強さがとてもタフに描かれているということだ。

本作で描かれている国家やFBIといった組織の意思決定は、どこまでも「ポンコツ」に見える。それは「こんなことをFBIは指示しないだろう」「設定にリアリティがない」と批評されるリスクを孕むが、監督が意図的に設定しているものだと僕は確信している。

たいていの映画では、国家やFBIといった組織は強大なものとされる。彼らの意思決定に対して、登場人物が結果的に反旗を翻すこともあるが、その辺りのプロセスは極めて厳密に、論理的に導き出される傾向にある。

本作で象徴的な場面がある。

例えばビオラ・デイビスさん演じるバレットが、上司にスーパーコンピュータの使用を申し出るシーン。上司は「中国に使わせるなんて、考えられない」と即却下する。結果的にクリス・ヘムズワースさん演じるハサウェイがハッキングして使用することになるのだが、果たしてこれは、有事における組織の最適解だったと言えるだろうか。明らかにNOである。

その対比として、ハサウェイをはじめ個々のメンバーの動きは俊敏に映る。

与えられた条件のもとで、どこまでも有機的にミッション遂行へと動いていく。しかも、命をかけて。

だからこそ、「ハサウェイ、ちょっと格好良すぎるだろう」と思いつつも、マイケル・マンさんが描きたい個人のあり方が、骨太に見えるのだろう。

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とはいえ、どんな組織にも「ひと」が関わるわけで、それなりの良心があると考えるのが普通だ。あまりにポンコツな組織の描き方に眉を顰める人はいるだろう。

でも、そんなのはどうでも良いというか、描きたい世界観の中で「余分なもの」として映りかねなかった。

そこをある意味で大胆に切り捨てた演出に、拍手しないまでも、「ほうほう」と膝を叩いたって良い気がするのだ。

繰り返すが、骨太とは、何かを排除する可能性がある強い言葉だ。

ただし「排除」というのは全てが悪い意味合いで使われるものではない。描きたいものが明確で、そこに確固たる信念があった。

マイケル・マンさんの「骨太」な映画作りに、ため息つくほど見惚れたって、それは間違いではないのだ。

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当時の公開から、かなり遅れて視聴したことが悔やまれるなあ。

リアルタイムで観るべき映画監督のひとりなので、これから「TOKYO VICE」の方も追いかけたいと思います。

(Netflixで観ました)

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