金か、良心か(映画「七つの会議」を観て)
企業に勤めていると、金か良心か、というケースにぶち当たることが少なくない。
ほとんどの場合、大きく良心を損なわない程度に金を取るのだが、その「大きく良心を損なわない程度」というのは担当者、上長、企業によってレベルが全然違う。粉飾や資産流用など「国内会計不正 5年で3倍」という報道が出ている通り、もはや犯罪に手を染める人間が少なくないことが窺える。
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原作・池井戸潤、監督・演出の福澤克雄。
「半沢直樹」「ルーズヴェルト・ゲーム」「下町ロケット」「陸王」など、数々の作品がヒットし、「七つの会議」も野村萬斎さんというビッグネームを主演に招き、かなりの期待を持って映画化された。
勧善懲悪なスタイルで、分かりやすく「スカッとしたい」という視聴者のニーズに応え続けるという意味では、この映画も同様だ。野村萬斎さんが演じる「ぐうたら係長」が、最終的には企業内で幅を利かせていた「悪役」を追い詰めるという流れだ。映画も想定通りヒットを収めている。
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悪役はとことん悪役を演じ、観る者にとことん嫌われる。
池井戸潤原作ものの特徴だが、観る者すべてが同じ解釈に至る「善」と「悪」の切り分け方。企業における金と良心の問題を単純化し過ぎている。
利益や自らの出世を優先される人間は、会社に貢献してより良い商品を作りたいと願っていることもあるだろうし、逆に個人の良心ばかりに配慮しては思い切った意思決定に至らないこともある。どちらが人間として共感できるかはさておき、そこに「善」と「悪」を安易に当てはめるのは、いささか乱暴だろう。
野村萬斎さん演じる八角と、香川照之さん演じる北川。
対照的な歩みだったにも関わらず、最終的な着地で免罪された北川の「負」の側面。これは正直、どうにも後味が悪かった。最終的に会社は追われたものの、ちょっと平和裡に去ってしまったように思う。
幾つか巧みな伏線が散らされていたが、最も核となる部分で、北川という明暗併せ持つ粋なキャラクターが死んでしまったような印象を受けた。(香川照之さん演じるキャラクターの描き方は、「七つの会議」から「半沢直樹 続編」にきっちりスライドしている)
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とは言え、最終的に、「善」は「悪」を追い詰め、ギリギリのところで会社が自浄していったという流れに不満を感じる人はいないだろう。俳優の演技も抜群だったので、見応えがあったという見方が大半を占めるはずだ。
それでもやはり、切り分けられない微妙なラインを丁寧に描きつつ、「最後まで結論が分からない」という展開を楽しみたかった。
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やや酷評と捉えられるような書き方をしたが、「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」、僕は、それぞれ楽しんで視聴していたクチだ。
なので上述したものは、若干の自己否定を孕んでいて、どうも書いていて居心地が悪い。
「こういうのがあっても良い」とは思うが、表現者それぞれが「ウケる」ことを優先して、半沢直樹的なものづくりに至ることを懸念している。
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