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「儲けたい」という意思を支えるもの(映画「The Banker」を観て)

実話に基づく物語「The Banker」。

Apple TV+によるオリジナル作品ということで知名度は高くないが、社会的意義の高い佳作である。

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1960年代、2人の黒人起業家が「黒人でもアメリカンドリームを実現できる」と奔走する。彼らが目をつけたのは不動産売買や銀行業だ。多くの取引は裕福な白人のみに向けられており、黒人に対しても価値を提供できると考えたからだ。

しかし当時、これらに携われるのは、実質的に白人に限定されていた。黒人が銀行業に携わろうとすると、既得権益を守ろうとする白人によって抵抗されてしまうのだ。

主人公たちは、あの手この手を使って、白人をコケにしていく。前半はコメディタッチで描かれていくのだが、多額の利益を得ていく様子はとても痛快で面白かった。(後半の苦境とのギャップが大きく、だからこそ当時の社会問題の根深さを知らしめてくれる)

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昨年、映画「サマー・オブ・ソウル」を観た。

僕は昨年10月のnoteで「本物の連帯は解かれない」という趣旨のテキストを書いた。だが実際のところ、白人によって差別を受けてきたブラック・コミュニティは、彼らの生活や立場を守るために連帯せざるを得なかったのだ。

アーティストのニーナ・シモンは力強い音楽を世に送りながら、アメリカの公民権運動に没頭していく。眉を顰めるほどの過激さを纏ってしまうのだけど、彼らに通底するのは、人種差別に対する強い怒りだ。そこを見逃してはいけない。

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「The Banker」でアンソニー・マッキーさんが演じるモリスは、幼少期から白人向けの靴磨きに従事していた。

大した教育も受けられず、銀行の近くでせっせと仕事に精を出す。その一方で、時折耳にする「商売」の会話を逐一メモしていた。モリス少年にとって、白人のビジネスパーソンたちが交わす会話こそが商売の教科書であり、その集積だけを頼りに、商売を始めたのだった。

彼は「儲けたい」という意思を父親に伝える。

モリス「儲け方を知りたいんだ」
父親「黒人では(成功するのは)難しい」
モリス「テキサスでは、だろ?」
父親「よそでは違うと思っているのか?」

モリスの「儲けたい」という強烈さを描いたエピソードだ。

彼をここまで駆り立てていたのは、やはり、人種差別に対するカウンターだった。

ロサンゼルスで不動産売買の事業で成功したモリス。しかし実家のテキサスに戻れば、父親たちは白人たちによる差別を受け続けている。トイレは白人と黒人で分かれ、黒人は銀行の融資もロクに受けることができない。

だから、モリスは儲ける必要があった。

銀行のオーナーになり、黒人向けのサービスを堂々と提供する。

色々な無茶なやり方をして、結果的に不利益を被ったが、彼の姿勢に共感できるのはその強い意思があったからだ。

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翻って、現代を生きる僕が「儲けたい」と思う背景は何だろうか。

「儲けたい」という思いでなくても良い。仕事で何かを実現したいと思っているのであれば、その背景には何が色濃く過っているのだろうか。

その正体をぼんやりとしか掴めていないのだけれど、そのぼんやりは、とても大切なヒントであるような気がしている。

「The Banker」は、改めて働く意義を教えてくれる作品だ。儲けていく醍醐味を、ぜひ痛感してほしい。

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