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本物の連帯は解かれない(映画「サマー・オブ・ソウル」を観て)

先日、映画館で「サマー・オブ・ソウル」を観てきた。

月並みな表現で大変恐縮だが、映画館で観るべき映画だった。公開終了ギリギリのタイミングで観ることができて本当に良かったし、僕がここ数年強く問題意識を持っていた「マイノリティ」に関しての示唆というか、確信めいたものを得たような気がした。

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それは「連帯」ということだ。

「分断の時代」と言われる中で、SNSではやたらと「分断は良くない」という言説を見掛ける。僕ももちろん分断は良くないと思うのだが、誰もが「良くない」と思うものに具体性はないことが多くて。「分断は良くない」、でも無理に絆とか言って手を取り合うフリをするのってどうなんだろうみたいな。まさに東京オリパラが象徴するような「絆っぽさ」は、その連帯がものすごく底が浅いことを示していたんじゃないかと僕は思っている。

原因はいくつかあるのだけど、東京オリパラに関しては、誰もが同じ痛みを共有していないからだ。今回はコロナ禍という未曾有の危機があり、それを乗り越えようという政治的なメッセージが発せられた。だけど政治的なメッセージが真実を意味していたことはない。とりわけナショナリズムを志向する現政権(前政権・前々政権)が発していたメッセージが、多くの国民に連帯を意識させるようなことは全くなかった。(むしろ彼らは、国民にとっととコロナ禍を忘却させようと仕向けていた)

そのような、痛みを伴わない偽物の連帯が、分断よりも価値があるかといったら微妙なところだろう。よほどタチが悪いんじゃないかとすら思える。

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映画「サマー・オブ・ソウル」を纏うのは黒人の黒人による強い連帯だ。アメリカでは黒人が長い間「マイノリティ」と見做されてきており、特に近年のトランプ政権による白人優遇の政策は彼らの悲しみ、怒り、憤りを増幅させていた。

2020年に命を落としたジョージ・フロイドさんの事件があったことは本当に不幸で心が痛い。だがBlack Lives Matterが世界中に波及していったのは、大きな潮流の中で止められない「怒り」だっただろうと推察する。

「多様性が大事だからみんな仲良くしようぜ」という表層的な話ではなく、同じ怒りを共有した者同士の本物の連帯は、ちょっとやそっとでは解くことができないのだ。

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この映画は、1969年にニューヨークのハーレムというエリアで開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルを取り上げた作品だ。

同年に開催されたウッドストックは誰もが知る伝説的なイベントだが、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルは殆ど誰にも知られていない。映画の副題は「あるいは、革命がテレビ放映されなかった時」というもの。様々な事情により「なかったこと」同然にされて、当時の映像は世に出ることなく静かに保管されていたのだ。

このフェスは無料で開催され、ハーレムに住む黒人たちのためのものだった。若き日のスティービー・ワンダーや、ニーナ・シモン、Sly & The Family Stoneなど豪華なアーティストが出演している。

時代は公民権運動の最中。

マルコム・X、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなどが暗殺される事件が続き、各地で黒人による暴動が起きていた。そんな中で、ニューヨーク公認のもと開催されたのが、このフェスであり、正直なところ「ガス抜き」としての側面もあったのだろう。

しかしそういった事情を超え、アーティストたちのパフォーマンスは圧巻だった。

R&Bやソウルミュージックのパワフルさは凄まじく、お客さんはグイグイと引き込まれ一体感を強めていった。

当然のことながらアーティスト側も「ブラック」の事情はとても良く理解しているし、当時の政治や差別構造に対する怒りを強く感じていた。この辺りの怒りをエモーションに感じたいのであれば、ニーナ・シモンを取り上げたNetflixのドキュメンタリー「ニーナ・シモン〜魂の歌〜」も併せて観ていただけたらと思う。

例えばベトナム戦争では、前線の危険な戦いには黒人が優先的に送られていたという。理不尽なことだ。

これが理不尽なことだと誰もが納得すると思うが、以前noteに書いた「ブラック企業」という名称使用の問題についてはなかなか異を唱える人がいない。白と黒との無意識のイメージングが差別の温床になっているのは明確なはずなのだが、いずれにせよ、この手の問題は常に「潜在」の部分の意識が噛んでくるから厄介だ。

そういった数を挙げればキリがないほどの逆境があり、痛みが伴う中で、「(少なくとも自分たち同胞は)連帯していかなくちゃいけないんだ」という強い意思に、僕は心から感動してしまった。

そんな厳しい状況下で「私たちは美しい!」と歌う彼らの姿に心を打たれない人なんているのだろうか。

諸手をあげて、お薦めしたい映画である。

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