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教科書を読む「蜘蛛の糸」②

昔、母に「口を出すより手を貸す人になりなさい」といわれました。

アナウンサーとなって26年、デスクとか採用とか育成とか会社員としての仕事もたくさんあります。後輩のミスを裁くことに必死の人より、自分で動いてそっと解決方法を差し出せる人になりたい。

あれ、これって愚痴ですが笑。疲れてる疲れてる。そんな日は朗読解析をして気持ちを落ち着かせます。
では参りしょう「蜘蛛の糸」です

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池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。

今日はなかなか良い文が出てきたので少し寄り道して、音の質感や耳への触感によって言葉を立たせていきたいと思っています。「けの〜スの〜まの〜まっろ〜んいろの〜いから〜ふれでて」とあります。ごんぎつねの解析でも少しやりましたが、皆さんご存知のように日本語の語感は、ゴツゴツ、さらさら、まるまる、などその音だけでイメージできるものが沢山あります。うまくイメージを誘導させてください。
まずはけののです。目線が池のどこかにピンポイントで落ちている訳ではなく、全体的な池であり大きな視野を表すので、いはなるべくぼんやりと、口の形もあまり固定させずに広さを表現します。すのは、逆にはっきり出して葉っぱの輪郭、対象物をしっかり表現してください。もし脇役で墨絵のようにはすが存在する場合はも子音を弱めに出してぼんやり出せば良いのです。まっろのは、涼やかさをイメージさせるので、発声の仕方も英語で言うsíスイの濁ったものではなく、ちゃんと風を感じさせるʃíシです。子供に人差し指を口に当てて静かにしてとお願いするときの純正の。混じり気のない綺麗なです。の種類を使いこなせるとナレーションでもバリエーションが効いてきます。はいつもの母音の「い」より少し広げて引き気味に硬くだします。発声するとき口をより固定させるといいかもしれません。いはを中心から上に押し出す感じ。あふれでては溢れるので、あと言う言葉自体を山なりに出すのです。何かにかける感じです。ずいのずは下から上へしぼり上げあふれのあは上からかけるように出す。音を出す方向性でその物質、表現する言葉を作っていくこともできるのです。

もう一つ、「池の中〜溢れております」は、ズームイン、ズームアウト、カメラワークとしてどう捉えるかを考えて発声します。映像の遠近感を、音で表すには、その音をどの距離に落としていくかです。時々美術館の音声ガイドや、イベントの音声ガイドを担当させていただきますが、例えばクールベの絵画など、手前の鹿と絵画の奥森の茂みから顔を出す鹿とでは、音の広がりも着地させる場所も違ってきます。その意味では、この一文は、目線に合わせて音が放射線状に自由に動いていくと言ってもいいでしょう。

そしてやっと来ました。「極楽は丁度朝なのでございましょう」。
蓮の生命力を感じる動きのある読みのあとは、なるべくストンと落として、事実だけを述べてあげるのがいいかと思います。
動きのある読みのあとはクールダウン。私がよく使うやり方です・・笑

いやはやまたしても3行で終わってしまいました。
今単純計算しましたら、このペースですとあと20回以上必要です。
そうですかそうですか。なんだか盛り上がってきました!!

2020・11・8 TBSアナウンサー堀井美香