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フリーランスの著者がイベントに出演するということ

とてもありがたいことに、「図書館ウォーカー」シリーズの売り上げ好調を受け、図書館ウォーカーとしてのトークイベント出演のご依頼もそれなりの数を重ねてきました。

出演済みが7つ、これから出演予定が4つで、今年の終わりには両手の指の数を超えそうです。ご依頼元も自治体、独立系書店、カフェなどさまざまです。

図書館を専門的に解説する、、、的な内容ではなく、図書館外観を含めた写真をたくさんお見せしながら旅の様子をジョークまじりでお話しする「スライド漫談」形式なので、いろんな方に楽しんでいただけていると自負しております。

さてさて、これらのイベント出演は確かに楽しい時間ではあるのですが、もちろん「仕事」としてやっているわけなので、なにがしかの形で収入につながることを目的にしています。

もちろんいちばん大事なのは「来ていただいた方に最大限の楽しい時間をご提供する」なのですが、こちらの目標としては「お客様、ご依頼元、そして自分」の三者が全て得になるような状態を目指しています。特に、ご依頼元と自分、については「得」の中に「お金」も含まれます。

時々、このあたりのことがあまり世の中には理解されていないのかな?と感じることがあります。同じくトークイベントに出演するタイプの同業者(物書きという意味です)とお話ししてても、オファーする側もわかっていないことがあるようだったという事例を聞くことがあります。

なので、僕のようなフリーランスの単著の著者がトークイベントに出演する際の「お金事情」みたいなことをとりあえず書いてみます。僕に限らず、どなたか著者さんをイベントに招きたい、という方の参考になればと思います。

まず、著書を出して比較的近い期間にトークイベントなりサイン会なりする際、いちばんの目的は「販促」です。僕は今のところ「図書館ネタ」、つまり公共施設に関する本の単著者なので、自治体さんからのご依頼も多いです。

なので僕の場合、出演に際しては以下の3つの形態に分かれます。

1)書店または出版社主催
2)カフェなど書店以外の主催
3)自治体主催

一方で、こういう分け方もできます。

A)仕入れコストなし/売り利なし
B)仕入れコストあり/売り利あり

あまり知られていないことかもですが、フリーランス著者が「2)書店以外の主催によるイベント」に出演して「即売」で著書を売る場合、基本的に自分で自分が書いた本をいったん版元から買い取ります。つまり出演するにあたってそれだけコストがかかります。

僕は10年ほど前、音楽ライターとしてディスクガイド↓を作ったんですが、その時はじめて「書店または出版社以外が主催するイベントで即売するには、自分の本を自分で買わなくてはいけない」と知りました。販売用に貸してくれるわけじゃないんです。

ただ、定価で買うわけじゃなくて「著者値段」という7~8割くらいの値引き料金になっています。あまりにディスカウントするのでなければ、イベント会場で実際にそれをいくらで販売するかは著者に任されます。例えば僕の「図書館ウォーカー」の場合、税込み2530円なので2500円にしたりします。

ちなみに、このしょっぱい「30円引き」という値引きは、自分でお釣りを準備しなくてはいけないから、という理由もあります。お釣りの準備もある意味「事前のコスト」にあたるかもしれません。

ともあれ、これが上の分類における「B)仕入れコストあり/売り利あり」にあたります。会場で販売した金額引く著者値段が収入になります。例えば2000円の本を著者値段1400円(7割で購入。「7掛け」という言い方をします)で準備したとすると、1冊売るごとに600円のプラスが発生します。

しかし、そのイベントで何冊買っていただけるかは「賭け」です。僕の著書のように比較的「高額」だと、例えトークイベント自体の反応が良くても、全員が買ってくださるとは限りません。10冊持っていって(つまり著者値段で10冊購入するコストを背負って)3冊しか売れない、ということもあり得ます。会場の規模を考えつつ、準備する即売用自著の数を決めないといけません。

ただ、あまりにケチって持っていって「なんだ、売切れちゃったんですか」という状況になったとしても、その方があとでネットか何かで購入してくださるとは限りません。というか、たいていの場合あとからわざわざ買ってくださることはないと思っています。

などなどの事情があるので「2)書店以外の主催」では、お金の面でも時間(版元から一定部数の著書を送ってもらうなど)の面でも僕たち著者側に事前の準備が必要になります。依頼元の方には、即売ある・なしについてそのへんも併せて考えていただけるとありがたいです。

ということを考えると、僕のようなフリーランス著者がいちばん「楽」なのは「1)書店主催」、つまり「A)仕入れコストなし/売り利なし」ということになります。

書店さんがイベントを主催するというのは、当然「販促」のためです。なので即売する本を自ら仕入れてくれますし、イベントに際しても「売る」ための努力・工夫をしてくださるでしょう。イベントでたくさん本が売れれば著者としての販売実績にもつながりますし、版元も主催書店もニコニコです。

ただリアルタイムの収入は直接著者の元には入ってきません。つまり、イベントに出演するにあたっての収入は「(あれば)出演料」のみ、ということになります。僕はまだ書店主催イベントはやらせていただいたことがないので、出演料が発生するかどうか知りません。

書店イベントは「この人を呼んでトークしてもらったら販促につながる」という「利益をもたらす人ステータス」的な部分もありますし、その場の収入ではなくて売り上げ部数増加による重版出来(つまり印税発生)など、遠回り的な収入につながるものと言っていいかもしれません。

次に「出演そのものを対象としたギャラ」について見てみましょう。これは大まかに分けて下記の2つになります。

◇)出演料のみ
◆)(チケット代×入場者数)の何割か

自治体やそれに準じる比較的公的な機関(美術館・博物館・チェーン系書店や企業など)だと◇のほうが多い印象です。一方◆は、小規模の個人経営の書店やカフェなどが選ぶ方式で、お店半分出演者半分という割合がふつうでしょうか。

前者は例え集客が何人でも確実にその出演料がいただける一方、すごくお客様が集まっても、もらえるギャラは同じです。もちろん「この人は数字を持っている」的なステータスは上がります。後者の場合、もし大きな会場だとキックバックがすごいことになりますが、お客様が少ない場合のリスクがともないます。

◇の場合は、イベントの集客自体の売り上げで利益をあげようというより、それにともなう即売であったり、いろいろなイベントをやってます的な「場としての価値」を認知してもらうため、などが主な目的であることが多い気がします。

一方で◆の場合、出演者として考えるべきなのが「自分が出ることが、お店のメリットにつながるのかどうか」ということではないでしょうか。どんな規模、形態で営業しているお店も「ビジネスの場」の側面があるわけで、特に小さい店舗だと通常営業をやめて自分のイベントに充ててくれるわけです。

イベント2時間のために4時間お店を閉めてくれた時、そのお店が通常その4時間で得られる利益を超える何か(特にお金)を感じていただかないとやった意味がないな、とも考えています。そのためには、集客をお店に任せきりにするのではなく、SNSなどを使って自分でも頑張る必要がありますね。

さて、僕の場合は自治体主催のお仕事もあると上で書きました。実は自治体主催の場合、収入という面に特化すると二重の「リミット」があります。

まず、著書を販売できません。特定の誰か/何かの営利行為にあたらないようにする、的な感じでしょうか。一方でとりあえず「即売」のことは忘れてもいいので、上で書いたようなリスクは生じません。

あともう一点は、自治体の謝礼って自治体内でのルールで厳格に決まっていて、(民間イベントに比較して)そんなに高くないです。ただ、自治体から依頼していただくのはとても名誉なことでもあるので、金銭的な面に換算できないメリットはあると思っています。あと有名度によってギャラのランク分けされてるとかもないので、不公平感やネガティヴな気持ちを持つことはないと思います。

さてここまで、主催者、事前のコスト、出演料について考えてきました。たぶんいちばん即時的な収入につながるのが、2)+A)+◆)で、自分で持ち込んだ著書をたくさん売り(差額の儲けが多く発生)、お客様大入り分もしっかりギャラに還元される、という状態ではないでしょうか。ただし、フリーランスにはその「外側」のコストのことも考慮する必要があります。

自宅以外のどこかでやるイベントな限り、必ず「交通費」等の費用が発生します。これを出してくれるのかどうか、なども依頼を受けるかどうかの検討条件になります。日帰りできない遠い場所だと宿泊費も要りますよね。ちなみに僕は、青森県内のイベントの場合「車で送り迎えしてくれるなら交通費要らない」と言ってます。

まあ要するに、僕らフリーランスは「経費」的なものを前もって肩代わりしてくれる何ものもバックについていないので、それらの「コスト」とコミコミで金銭的またはそれ以外のメリット/デメリットについて考える必要があります。

例えば、1時間しゃべって3万円もらえるけれど出演料しか出なくて、宿泊必須かつ往復の交通費を入れると赤字になってしまう。というご依頼があった場合、それに出ることに金銭以上の価値とやりがいがあるかどうかを天秤にかけられるのは自分だけです。同様に、ギャラ面ではとても良いオファーでも、出たほうがデメリットがあると感じるものもあるかもしれません。

どのような条件でも、オファー受けるも受けないも、納得できるのならどちらでも正解だし、のちのち後悔したり不満を引きずるなら不正解です。フリーランスなら、イベントに限らず本業の執筆とかでも同じことだと思います。

ただ、あくまで僕の場合ですが、どんなにやりがいや金銭以上の良い影響がある(と思われる)出演でも、赤字案件が続くとかなりストレスが溜まります。音楽ライター時代は自分で計画・主催したものも含め、ほぼ東京開催ばかり。宿泊費・交通費を引くとかなりの赤字になるものが何年も続き、さすがに病みました(笑)。僕のような地方在住フリーランス物書きは、そのへんがネックかもです。

とは言え、僕自身はあまり時代の進化についていけてないんですが(笑)、トークイベントの新しい形態「配信型」もありますよね。視聴者からお金をいただいてその方たち限定で観られるようにするパターンでは、自宅にいながら出演できたりするのでしょうか。それなら地方在住者も関係ないですよね。

その場合「即売」は無理ですけど、販売用リンクとかに飛んでポチってもらったりとかはありなんでしょうし、出演料とかはどうなってるのかな、などいろいろ気になりますね。いずれそういうご依頼もあるのかもな、と楽しみにしつつ、ここで終わります。




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