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「どの図書館がいちばん良かったですか?」といういちばん難しい質問

ありがたいことに初の単著「図書館ウォーカー 旅のついでに図書館へ」(日外アソシエーツ)が増刷決定などなど売れ行き好調を受け、いくつかトークイベント出演のご依頼をいただいております。ちなみにトーク出演のご依頼は随時受付中です!

今のところ2つ(大阪府の松原市民図書館さん主催、図書館総合展の日本事務器さん主催フォーラム)出演が済んでいて、お客様や主催者関係の方々だけでなく、たくさんの人とお会いすることになりました。

そんな中でものすごくたくさん訊かれたのが「どの図書館がいちばん良かったですか?」「いちばんのオススメはどこですか?」というもの。

これ、僕にとってはむちゃくちゃ虚を突かれたご質問でして、訊かれるたびに「うーん・・・」と言って悩んじゃっています。

どうしてそんなに悩むのでしょうか。自己分析してみました。

まず、僕は図書館と旅、街自体の雰囲気、移住しても良さそうかどうか?などを切り離して捉えていません。

図書館、特に公共図書館は地元の街のありかたや文化、歴史、そして人と密接につながっていると思っていますし、図書館単体での「良さ」を評価することにあまり重きをおいていないのです。

なので例えば「おお、この図書館はすばらしいな」と感じても、街自体にそれほど魅力を感じなかったり(主に「移住したとしても生活しづらそう」などの観点から)、旅の体験がたまたま淡白だったりすると、総合点で劣ってしまう、ということが充分にありえます。

時々「10選」的な記事を書いていてご好評いただいてきましたが、その中でも「順不同」だし、「選んだ理由は旅そのものが楽しかったから、街が住みやすそうだったからという部分が多分に含まれている」とお断りしています。

図書館単体で評価することにあまり意味が見出せない理由はまだあります。先に書いたように、僕は旅先の街を「ここに移住したら楽しいかな?」という目線で見つめています。

つまり移住後の「日常生活」を想像していて、そのイメージの中に「図書館通い」があるわけです。

運転免許を持っていない僕にとって、図書館がアクセスしやすい場所にあるかどうかと、公共交通で周囲の街に行くことが可能かどうかは「採点」のかなり上位を占めます。

これは逆に言うと「通う図書館は必ずしも移住先の自治体のものでなくても良い」ということにもなると思います。自分とこの街の図書館は行きにくいけれど、隣の大きな自治体の図書館は列車に乗って駅から近くて、きれいで居心地も良い、のならば、それはそれでアリです。

例えば、札幌に住むより江別や恵庭に住むほうが都会と郊外のおいしいとこどりができていいのでは?的な考え方でしょうか。ちなみにこれはあくまで例えで、江別や恵庭の図書館が行きにくい、使いづらいということではありません。

さて最後にもう一つ。書籍「図書館ウォーカー」でも再三書いているように、僕自身は旅先でちらっと見たくらいでその図書館の良し悪しがわかるほど図書館について知悉していません。

せいぜい8年間ちょっと公共図書館で働いただけですし(しかも一部業務委託なので業務のすべてを体験したわけではない)、そもそも図書館の評価とは短時間でわかるようなものではないと考えています。

例えば世評の高い紫波町(岩手県)や伊万里市(佐賀県)の図書館は、確かに行ってみると「なるほど、評価が高いのはわかる気がするな」と感じたのですが、それは「わかる気が」した、だけであって、自分自身の感覚として納得したわけではないです。

両館のほんとうの良さがわかるには、利用できる場所に住んで、実際にふだん使いしていく中でようやく判断できる段階に達するのではないかと思っています。

逆に言うと、そういう「すぐに評価できるわけではない」ところが自治体における図書館運営を難しくしている理由の一つにはなっています。図書館法で定められた無料利用の原則もあるので、お金は入ってこないですし。

個人的には、設備も充分でなく、あまり予算もないのかなと思われる館でも地元で愛されている感が伝わってくるようなところもあったり、そうしたところと比較していわゆる「有名館」がどれほど良いのかあまり実感できなかったりということも多くて、ランキングや採点みたいな視点で旅先の図書館を見ることに意味を感じないですし、実際にそういう視点で見ていません。

なので「どの図書館がいちばん良かったですか?」というのは僕にとっていちばん難しい質問かも知れません。そもそも良し悪しを判断していませんし、たぶんその人が想定している「図書館の良さ」は「図書館単体のすばらしさ」だろうからです。

でも昔、図書館員時代に行ったPOPの達人的な方のレクチャーで「人にいちばんよく訊かれることがいちばん書くべきこと」という考え方を学び、それはずっと実践しているので、今後は訊かれてもすぐ答えられるように準備はしておきます(笑)。

ただしその時はこちらから「どの地方をオススメして欲しいですか?」と逆質問しますし、「あくまでも図書館ウォーカーとしての視点からの評価です」とお断りしますけれど。



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