見出し画像

ビールの多様性、そして柏のビール文化を広めたい【HOPPIN’ GARAGE ブリュワー紹介 こまいぬブルワリー 柏ビール 丹羽岳悠さん】

2017年12月、千葉県柏市で初めてのクラフトビール醸造所、「こまいぬブルワリー 柏ビール(以下、柏ビール)」が開業しました。

それからわずか2年で「ジャパン・グレートビア・アワーズ2019」金賞・銀賞・銅賞を受賞、さらに2021年にも金賞・銀賞を受賞。併設されたレストランでは、クラフトビールだけでなく、地元で作られた食材を使ったおいしい料理も楽しめます。

そんな柏ビールの発起人である丹羽文隆さんは、2017年まで学習塾を経営していましたが、「還暦後は酒づくりにチャレンジしたい」という夢を叶えるため、学習塾を閉鎖。そして家族で力を合わせて、柏ビールをつくったそうです。

今回お話を伺ったのは、柏ビールの「顔」として営業や広報を担当する、次男の丹羽岳悠(たけひろ)さん。サラリーマンでしたが、ブリュワーとして新たなキャリアを踏み出しています。そんな岳悠さんが考える「ビールの民主化」とは?

父の夢を家族で叶えた「柏ビール」

写真1左から、丹羽岳悠さん、母・和子さん、父・文隆さん、弟・一宇さん

柏ビールは、岳悠さんの父・文隆さんを社長に据え、母・和子さんがレストラン担当、岳悠さんが営業や広報担当、弟・一宇(かずひろ)さんが醸造長という役割分担のもと運営されています。

最初に父・文隆さんがお酒づくりをしたいと言い出したとき、岳悠さんはどう感じたのでしょうか?

「父は昔からものづくりが好きだったので、酒づくりの話を聞いたときは父らしいなと思いました。当時弟は留学中でハンガリーにいたのですが、ハンガリーにはその街ごとにブリュワリーがたくさんあって、その土地でつくったビールを楽しむ習慣があるそうです。

だったらこの柏でも『ビールの輪』をつくれないか? そう考えて、家族とともにブリュワリーをつくることにしました」(岳悠さん、以下同)

岳悠さんは当時ITベンチャー企業に勤め、ホームページやECサイトの制作、オンラインでの商品販売などに携わっていました。その経験やノウハウが、今の営業・広報に存分に活かされています。

「大学卒業後、小さなITベンチャーに勤めていましたが、父がずっと学習塾を経営していたので、自営業も面白そうだなと思っていました。まさか自分がビールづくりで独立するとは思いませんでしたが(笑)」

クラフトビールの魅力は「多様性」

写真2

クラフトビールの良いところは何でしょうか? そう岳悠さんに問いかけると、こんな答えが返ってきました。

「クラフトビールの魅力は『多様性』だと思います。白ビールや黒ビール、味のしっかりとしたものから軽くてゴクゴク飲めるもの、さまざまなフルーツの風味が感じられるものなど、多種多様な銘柄があり、それぞれまったく違った味わいを楽しめるんです」

岳悠さんたちがお酒づくりを始めようと思ったとき、クラフトビール以外をつくる選択肢もあったそうです。転機は、丹羽家長男の結婚式が行われ、その披露宴会場でクラフトビールが振る舞われたときのこと。

「普段ビールを飲まない母がクラフトビールをごくごく飲んでいる姿を見て、『ビールやお酒が苦手な人でもクラフトビールなら飲めるんだ!』と気づいて。クラフトビールの多様性、懐の深さに大きな可能性を感じました」

また「ビールは生もの」だと岳悠さんは語ります。

「ビールは同じレシピでつくっていても、製造時の温度や水の質、材料、酵母の状態などで味が微妙に変わるので、同じものをつくり続ける方が難しいんです。私たちは小さな醸造所なので、外気温や天候などの影響もダイレクトに受けてしまいます。だからこそ、ここでしかつくれないビールの繊細さ、面白さを追求していきたいし、お客さまにも感じていただきたいですね」

クラフトビールの「懐の深さ」を知ってほしい。柏ビールにはそんな想いが込められています。

コンテストで金賞受賞。評価が良いプレッシャーに

写真3直営レストランで楽しめるごちそう

創業わずか3年半で、多くのお客さまから愛されるようになった柏ビール。しかしビールをつくり始めた頃は、漫然とした不安を抱えていた、と岳悠さんは話します。

「創業初期の頃からレストランに来てくださった地元の方々は、柏ビールをおいしいと言ってくれますが、果たしてそれは本当なのか? と漫然と思っていたんです。顔を知っている人は、良いことを言ってくださるものなので。

だから2019年のジャパン・グレートビア・アワーズで『柏はじめIPA』が金賞を受賞したときは、『これで良かったんだ!』と迷いがなくなりましたね。

客観的な評価をいただけると、改善点が分かるのでありがたいです。それに、一度高評価をいただいてもその後に品質が落ちたら、評価してくださった方々に申し訳ない。私にとってコンテストでの評価はモチベーションであり、適度なプレッシャーなんです」

今後は日本を飛び出して、国際的なコンテストで金賞を取りたい。岳悠さんの夢は広がります。

オリジナルのデザインも楽しい、柏ビールのラインナップ

柏ビールの商品ラインナップは、定番商品が5〜6種類と、季節限定商品が1〜2種類。その中でイチオシのビールを2つ教えていただきました。

1つ目は、柏ビールがコンテストで初めて金賞を獲得した「柏はじめIPA」。麦芽のコクや苦味がしっかりありながら、ホップの香りがさわやかに香る、比較的主張のはっきりしたビールです。ラベルにはふっくらとした雀のイラストが。これはなぜなのでしょうか?

写真4「柏はじめIPA」がこれだ

「芳醇なビールでふくよかな味がすることから連想して、冬場にふっくらと太った『ふくら雀』をモチーフにしました。麦畑にも雀がよく来るんですよ」

ちなみに柏ビールのビールラベルは、すべて岳悠さんがデザインしています。ITの仕事で培ったスキルが、細部にまで活かされているんですね。

2つ目は、2021年に金賞を受賞した「柏太陽のエール」。

写真5柏レイソルをイメージしてつくられた、「柏太陽のエール」

写真6少し濁りのある黄色が特徴的

「これは地元のサッカーチーム、柏レイソルをイメージしてつくりました。少し濁りがある黄色味がかったビールを飲むと、ホップのフルーティな香りが楽しめます。苦味も少ないので、ビール初心者やビールが苦手の方にも飲んでもらいたいですね」

編集部は早速その場で飲ませていただきました。スッキリとした飲みやすさにびっくり! トロピカルな柑橘系の香りは、フルーツを全く使わず、ホップだけで出しているというから驚きです。

「ホップは苦味の素というイメージが強いですが、実はフルーティな香りがあります。そこで、煮込む時間を短くして冷却後にホップを加える『ドライホップ』という手法を使って、この香りを出しました」

ビールラベルには、柏レイソルのイメージカラーであるイエローの太陽が燦々と輝いています。こっそりついているビールひげがかわいいですね。

ビールの民主化とは「お客さまに多くの選択肢があること」

多様性を大切にする柏ビールにとって、「ビールの民主化」とは? 岳悠さんはこう答えました。

「お客さまに『ビールの選択肢がたくさんあること』ではないでしょうか。技術の結晶である大手企業のビールや、私たちがつくるような個性的なビールなど、どれを飲んでもいいという自由。そしてその中から好きなビールを見つけていただけることが、ビールの民主化だと思います。

柏ビールでは、100人中100人に受け入れられるビールはつくっていません。100人中1人のコアなファンに好かれるような銘柄をつくっています。そんな商品を何種類もつくることができれば、結果的に多くの方においしいビールを提供できると考えています。今後も多様性のあるビールを提供していき、結果的にビール愛好家の間口が広がったらうれしいですね」

では、柏ビールは今後どんなアクションを取っていくのでしょうか?

「柏ビールは『 “造る” ではなく“育てる”ビール』という言葉を掲げています。これには、よりおいしいビールを提供していくという意味もありますが、『地域のビール文化を育てる』という意味も込められているんです。

ビールはただ消費される飲み物というより、ビールを通じて飲んだ人がより幸せな気持ちになったり、ビールを飲む人同士の繋がりができたりと、『ビールによるつながり』が生まれる存在だと考えています。だから柏にも、そんなビール文化を創りたい。

写真7

また柏には、多くの特産品・農産物や、材料や製法にこだわった『クラフトチョコ』など良い製品をつくるお店がいくつもあります。そんな地元の良いものをビールに取り入れて、地元を発信する『ハブ』として機能していきたいですね。

今後本格的に取り組みたいのが、地元スポーツクラブのサポートです。最近は、スポーツの試合が行われる現地ではなく、家で観戦する機会が増えたので、スポーツクラブの収入が激減しています。

だったら、対戦チームのビールを飲み合う『エール交換』をしながら、スポーツを盛り上げていけたら面白いと思いませんか? そう考えて『柏太陽のエール』をつくりました。この動きをもっと広めて、コロナ禍でもスポーツシーンや地元のスポーツクラブを支援できたらうれしいですね」

地元・柏を盛り上げていく柏ビール。その活動に今後も注目です!


写真提供:柏ビール

***

HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「もっと自由にビールづくりができる世界」を目指し、お客様とサッポロビール醸造技術者(ブリュワー)の共創によるビールづくりを中心に、ビールを学べる講座やビールでつながる交流会などの体験づくりを行っています。



16
「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、魅力的な人々の人生ストーリーをもとにしたビールづくりをはじめ、絵本やゲーム、ラジオにイベントなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。