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短編: 闇の中に浮かび上がる⑤

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私は人差し指をマウスに乗せると、

それじゃブロックするぜ。

「チキり~~~ん、ブローーーック」
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ははは、バカなヤツだ。お前、私をフォローしたくても、もうフォロー出来ないよ~~だwww

今日もまた、私のブログ執筆の1日は幕を閉じるのであったが、寝床に入っても胸の支えが下りない。

「武内……この愚者、いやゴミがある限り、私に平和が来ないわ」
湿気った布団から這い出るとパソコンへ向かった。


僕は静かな夜のデスクでパソコンの画面を見つめていた。

最近、僕の周囲は異様な雰囲気に包まれていた。
特に「チクりん」と名乗るブログ主の存在が僕の心を重くしていた。

チクりんは、僕が勤務するブログ運営会社に対して執拗に攻撃を仕掛けてきた。
彼女の言葉は強く、僕の首を絞めているようだ。

「武内は無能だ」「運営はゴミ」などの投稿が次々とアップされ、僕の自信は徐々に崩れ去っていく。

朝、僕のスマホが一斉攻撃かのように鳴り、友人や家族から、
「なにやってんだ!巻き込むな!」
怒鳴り声が止まない。

未明にネットで何かが起こったのだけは分かる。

誰ひとりとして僕へ同情や優しい言葉などなく、
僕にもなす術はなかった。

僕は夜中に投稿してあるチクりんのブログへ目を通し、世界最大SNSのlimiterでは僕についてのデマが炎上しているのを知った。

そこには僕のプライベートな情報が暴露されて、友人や家族の名前、さらには出身大学や仕事の内容までが晒されている。

僕の身体は震え、運営会社に連絡して管理人権限でチクりんの投稿を削除しよう。上司にメールをしたところ、既に多くのユーザーが目にしてしまっていた。
チクりんのPVの伸びが150万を突破したそうだ。

「こんなことをして何が楽しいんだ?」
僕は呟いた。

僕の心中はチクりんへの殺意が占めていく。
上司は僕の苦痛を理解しようともせず、
「どうせ放っておいてもすぐに忘れられる」
会社の宣伝になるからいいじゃないかと言い出す。

むしろチクりんの言葉をコピペして同調しながら嗤っているようだ。

「管理人業務から異動したい」

会社に着いても冷ややかな視線を感じる。

僕は思い切ってチクりんに反論する記事を書いた。「あなたの言動はただの中傷です。僕には僕の信念があります」

投稿は僕から精一杯の抵抗だった。

チクりんはすぐに反応した。
「武内は自分を賢者だと思い込んでいる愚者だ」
僕の記事を嘲笑うように拡散した。

僕は断崖絶壁から突き落とされた気がし、
そして自分の言葉が全く通じないことに気づいた。僕は反論することすら無意味だと感じ、眼中へ深い墨が広がっていくのを感じた。

昼を過ぎても周囲からの視線が冷たく、僕は孤島に取り残された。


日が経つにつれ、僕はますます追い詰められていった。管理運営には多くのユーザーからメールが届き、チクりん支持者たちの僕を罵る声が目に飛び込む。

僕はもう何もかもが嫌になり業務から距離を置こうと決意し、早退すると心療内科へ直行した。
そうして暫く有給休暇を取得できた。

「もう辞めよう」僕は頭の中で呟く。

だが何度も決心を試みても僕の気持ちは重く、風呂へ入るのも動けなかった。チクりんの影は、僕の生活のすべてに侵食していた。

夜、僕はふと自分が書いた管理人ページを開く。

そこには僕が書いた言葉への記事が並んでいた。今はどれも空虚に感じられる。
僕は自分の存在意義を疑い、上手く呼吸が出来ない。そんな時、チクりんのブログが目に入った。

「武内はもう終わりだ」と書かれていた。

その言葉の一個一個が僕の身や心を何度も刺し、出血多量で気を失いそうだ。
僕はただ一人で戦うことの無力さを痛感した。

「どうして誰も助けてくれないのか?」
僕は声にならない、叫びにならない痛みに溢れた。
しかし声を上げることすらできなかった。

心の中に広がる漆黒は、ますます深くなっていく。

自分を守るためには会社自体を離れ、チクりんの影から逃げるしかない。でも決断が本当に僕を救うのか不安に思った。

僕は部屋の暗闇に座り込んでいた。
                  …つづく


この小説は、山根あきらさんとの共作になります
連載物ですが、1話ごとに単独の短編小説として読むこともできます

フィクションです