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以前からちょいちょい目立つ女が「いいね」を
372個も貰いやがった。

ありきたりな駄文に感動するバカの多さ。
ブログ管理人の武内っていうオモチャが居なくなり、丁度いい雑魚キャラ登場か。


オレは霊的な世界に魅了され、自分が特別な存在だと信じて疑わない。
いつも高次の存在との繋がりを求め、日々の生活をその教えに従って生きている。

チクりんが死に、周囲のヤカラからオレたちが誹謗中傷したとの批判は、オレにとって耐え難いものであり、自分が受け入れられないのを理解できない。

オレの考えや価値観は他人よりも優れていると常に思っている。
高卒や私立大学を卒業したヤカラはバカで、オレの直感は正しい。

オレが選ぶ道には常に正当性があると考えている。それは自分がギフテッドであり、本当は東京大学だって進学できたかもしれないからだ。

これを基にすれば、チクりんの国立大卒は怪しかった。

経済学部を出ていると自称する割にデータや根拠がなく、親友だからやんわり指摘すると
「ザンスまで私を誹謗中傷するの?
次はザンスをブロックするわよ!」
指摘を誹謗中傷とすり換えて、チクりんの学歴詐称を疑った。

オレはチクりんにない聡明さ誇示し、他人からの賛美を求めてやまない。
だが、周りはオレが優秀だから嫉妬し、認めようとしない。

「どうしてオレが文句を言われるのさ」
周囲のヤカラの反応に困惑している。

ブログ管理人の母親が死んだときも
「要らない命がある」
チクりんにメールして励ました。

被害者意識が高いチクりんは
「私を邪魔した連中は死ねばいい」

オレは理想に合わないヤカラを軽蔑している。
無駄に生きるヤカラを排除することで、オレの特別さが際立つといつだって考え生きてきた。

正直、チクりんとの会話はつまらなかった。

チクりんは若い頃の話ばかりし、現在や現実を見ようとしない。

歳上のチクりんへ芸能人の話題を振っても、オレの話を遮り、愚痴しか言わない。
そういうところはチクりんも女だなと思った。

退屈すぎて、オレはマッチングアプリやSNSにいる頭が悪そうな女たちとの関係を構築していた。

オレは女を存在証明のツールとしか見てなく、
賞賛の言葉やカラダを求めるけれど、その他の感情には無頓着だ。

バカが言うことは理解できない。

オレにとっては欲求が満たされたら、それでいい。身体に感じる刺激が強ければ、
女の気持ちはどうでもいい。

ネットでチクりんが暴れてオレは援護射撃をしてやった。
周囲からの批難はオレにとって屈辱であり、バカが言うことを受け入れることは到底できなかった。

オレは特別な存在で生まれてきたがゆえに、他人の理解を得られないのは当然だと考えている。

興奮しっぱなしのチクりんを
「冷静に刺せないのかな」
少し見下していた。

バカもいつかは目覚める時が来る。
オレの価値が認められる日は近い気がしていた。

他のブロガーが共感や理解などを書いているが
他人は己れ以外の気持ちは分かるはずもない。

チクりんの死後、
状況は変化し、誹謗中傷はやめようのスローガン。
「なんだ、チクりんも死んでいい人間なのか」

オレはチャンスを活かしステージへ立ちたい。
才能を示し、「いいね」が10個つかないかな。
より多くの注目を集めたんだ。

それには誰しも思う本音を呟いてみた。


部屋中に散らばる食べカスや空きペットボトルを足で退かしながらあの日を思い出した。


あの日の昼過ぎ、職場のテレビは、
親友であるチクりんの死んだニュースが流れていた。

慌ててスマホを開くと大きくチクりんの本名とブログ運営会社がテロに遭った情報で占め、一瞬驚いたが、すぐに頭の中で計算を始めた。

「これでオレが注目されるかもしれない」

葬儀に呼ばれ、オレは黒いタキシードを着て参列した。

親族が悲しみに暮れる様子を見て、
オレは少し不快感を覚えた。
「そんなことで落ち込むなんて弱い」つぶやいた。

葬儀の会場はチクりんを悼む親族がおり、
泣き崩れる姿を見て、周囲から心象を良くしようと考えた。

親族が祭壇に手を合わせる中、
オレは自分の存在感を強調するため、わざと大声で
「チクりんは本当に偉大な人だった」
言ってみたものの、
氷柱のような鋭い視線が集まりオレを褒めない。

その後、チクりん事件の続報で、ブログ管理人の武内は、放火で母親が殺されたとあった。

チクりんのシンパが放火したらしい。

オレはヤツが悲しんでいるコメントを読み、頭のどこかで小さな満足感が押し寄せた。

「ここでオレが武内を支えてやれば、オレを必要とするだろう」
ヤツの味方に立てば、叩いてきたヤカラも手のひらを返すに違いない。

武内のlimiterへDMを送ろうにも既にオレのことをブロックしてあった。


オレは貪欲ではない。
ただ自分が特別であることを証明できれば、
すぐに故人など忘れてしまう周囲の悲しみを利用していいと思った。

自分の価値を他人の評価で決めることに疲れていたが、これを認めることは決してすべきではない。

葬儀の後、オレはネッ友たちに囲まれ、
チクりんの思い出を語る場面で自分の中に空虚さがあった。

「本当に特別な存在であるなら、なぜこんなに孤独なのだろう?」疑問が浮かんだ。

しかし思考を振り払った。
オレは周囲の反応を見ながら、また自分の特別さを強調しなければならない気持ちに駆られた。

オレには葬儀の日に見たチクりんの親族や今この場にいるネッ友の悲嘆を理解する余裕はない。

自分が特別であり続けることだけが、オレにとってのプライドだ。


そうして見つけた雑魚キャラ。

「急がず、1回ヤッて捨てればいいか」
女へコメントを書いてやっても梨の礫。
見開くオレの両眼がミチミチと乾いていく。

女の方から
「ザンスさん、ごめんなさい」
平伏すまでは絶対に許さないと誓った。

                  …つづく

©️山根あきらさん

この小説は、山根あきらさんとの共作になります

連載物ですが、1話ごとに単独の短編小説として読むこともできます
作中の「私」は
山根さんやももまろの人格ではありません

フィクションです

「浮雲」は、こちらのマガジンに収録していきます