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伊丹十三の映画が観られる‼︎(その10)〜最後は女優讃歌「マルタイの女」

伊丹十三の遺作となった「マルタイの女」(1997年)、公開時は私はロンドンに赴任していたので、日本での様子・反響はよく知らない。ただ、Wikipediaによると、配給収入は5億円で、一部の作品を除き10億円以上の配収を挙げていたヒットメーカー(詳細は前作「スーパーの女」に関する記事をご覧ください)
にも翳りが出ていたのかもしれない。

最初に書いておくが、これら伊丹十三監督作品に関する記事は、日本映画専門チャンネルが伊丹十三劇場として、4Kデジタルリマスター版を放送してくれたことがきっかけである。同チャンネルでは、6月10日に全作品を一挙公開。7月以降は、毎月2本を放送する予定である。

日本にいなかったこともあり、この映画を見るまで“マルタイ“という言葉を知らなかった。まさか、棒ラーメンの“味のマルタイ“のことではあるまい。 このページを見ると、“マルタイ“とは捜査対象者のことだが、この映画では警護対象者として使われている。“タイ“とは対象ということであり、伊丹十三自身、「ミンボーの女」の公開後、暴力団からの襲撃を受け、警護の方の“マルタイ“となった。

映画の中で、“マルタイ“となるのは、殺人現場を目撃した大女優磯野ビワコ(宮本信子)である。そして、事件の背後にいるのはオウム真理教を想起させる、新興宗教団体である。伊丹は「マルサの女2」(1988年)で新興宗教における金の問題を取り上げているが、今回は暴力性を映し出す。なお、坂本弁護士一家殺人事件は1989年、地下鉄サリン事件は1995年である。旧統一教会問題は今も続いている。

本作は、警護と捜査を並行的に進める警察側と、警護される磯野ビワコの姿を、コミカルに描いていく伊丹的エンターテイメント作品だが、私の目には強烈な女優讃歌にも見えた。

宮本信子が演じるのは、どんな場面においても「大女優かくあるべし」という気概に支えられた一人の女性である。それは、かつての現実なのか、それとも幻想の世界なのか。どちらにせよ、映画・演劇ファンの頭の中には確実に存在している、消えてほしくないイメージのように思う。

そして、最後の作品でも、伊丹の妻・宮本信子は輝いている。

なお、この映画を見始めて、ちょっと三谷幸喜の映画作品に通じるような気がしたが、エンドロールに“
企画協力 三谷幸喜“とクレジットされていた。三谷といえば、三谷昇の姿も見られる。その他、脇役陣もいつものように尖っている。津川雅彦は勿論のこと、名古屋章、六平直政の警察陣、江守徹は宗教団体側の弁護士。三谷幸喜作品の常連、近藤芳正、西村雅彦も良い味を出している。

大ヒットはしなかったのかもしれないが、十二分に楽しめる作品である。



1997年9月にこの映画は公開され、同年12月に伊丹十三は64歳の若さで亡くなる。幅広い世界で才能を発揮した人物が消えてしまった。

今回、全10作品を観て、改めて伊丹十三の凄さを感じた。駄作が一本もない。 もっと映画を撮って欲しかった。以前にも書いたが、“静かな生活“のような作品ももっと見たかった。

残念だが、この10作は永遠に楽しめる



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