いとしさと、正しさと、多数決と、心強さと。
こんにちは あるいは こんばんは。
翻訳ジャーニーです。(※画像が上手く処理できず、投稿を再アップしました。いいね!してくださった方すみません)
突然ですが、ある言い回しが「正しい」かどうかって、難しいですよね。今日はそんなお話を書きたいと思います。
「おかげ」で悪いことが起きるか問題
産業字幕翻訳をレビューしていたときのことです。
上記のような訳文に遭遇しました。[1]と[2]は、それぞれ別のハコです。ハコというのは、画面に一度に表示されるテキストのかたまりのことです。1枚目のハコを見たときには「インボイス制度のおかげで」しか見えません。次のハコに切り替わったときに、オチである「手取りが減ることになります」(悪いこと)が初めて目に入ります。
「おかげ」という表現は、私の場合、結果として何か良いことが起きそうなイメージです。実際、多くの人が私と同じような印象を持つのだろうと思います。しかし、「おかげ」という言葉は良いことにも悪いことにも使えます。辞書にはそう書いてあります。
仮にデジタル大辞泉を例に出しますが、はっきりと「また、他から受けるよくない影響。」と書かれていて、必ずしも「おかげ」がよい結果につながるわけではないということがわかります。
しかし私は悩んだ末に、「おかげは良いことに使うイメージがあるので、特にハコをまたぐ場合には視聴者の期待を裏切ることになるから変えた方が良い」と伝えることにしました。辞書的に正しかったとしても、実際の用例の数や印象を踏まえて変えた方がよい場合もあります。
"検索用語"とは一体?
同様に、辞書的には避けた方がよい表現で、実際には定着しているっぽい言葉があります。セキュリティ系の翻訳をレビューしていたときに、こんな訳文に遭遇しました。
お察しのとおり、「検索用語」の原文は「search terms」です。私はこの訳文にOKを出すのを躊躇してしまいます。「用語」という言葉を辞書で引くと、こうあります。
ほかの辞書でもおおむね同じ結果が返ってきます。ふむふむ。「ある分野で使われている言葉」ですね。「用語」というのはざっくりと、専門用語・術語みたいな意味なのだと理解しています。
もう少し突っ込んでみてみます。冒頭の「使用されている字句や言葉。」という説明はどうでしょうか?専門的でなくても「用いる言葉」が検索キーワードを指して使えるとも解釈できるでしょうか。いや、本当にそうですかね?「使用されている」という受け身の形であること、続く「特に、」の内容を踏まえると、「今そこにある、使われた状態の、言葉」というイメージが正しいとみています。今回は、「これから、あるいは普段から、読み手がブラウザに入力する search terms が、サイバー犯罪者に知られてしまうかも」というセンテンスなので、辞書の記述には合わないと思います。
やはり「用語」という表現は医学用語や専門用語のような使われ方をするのでしょう。屁理屈のように聞こえるかもしれませんが、「検索用語」と書いたら「検索分野で使われている言葉」という意味に(字面上では)捉えられるのではないでしょうか?代わりの表記としては、「検索語句」や「検索キーワード」「検索ワード」などがあると思います。
ここで衝撃の多数決!
Google先生に聞いてみましょう。Google検索で二重引用符を使った "検索用語" と "検索語句" を調べてください。"検索用語" の方がほぼダブルスコアで多くの結果を返してきます。インターネット上では「検索用語」の方がスタンダートなのかもしれません(検索結果にどのくらい機械翻訳が入っているかわかりませんが、それはまた別の問題として)。
国会図書館のNgramを調べました。赤が検索キーワード。青が検索用語。緑が検索語句。茶色が検索ワード、です。
おや?「検索キーワード」が多い。
実体験として、「検索用語」という言い方は普段からあちこちで目にしますよね。私はそのすべてに「それは正しくないぞ」とケンカをふっかける気はありません。全然ないですよ、多勢に無勢です。私は平和主義者ですからお手柔らかにお願いします。
さて、実際のお仕事で上記のような「検索用語」を別の表現に変更し、辞書の意味を添えつつフィードバックを書いたところ、危惧していたことが起こりました。担当翻訳者からは「検索用語という表現が不自然とは思いません」という反論が来てしまいました。ですよね。はい。
特にオチはないんですけど、皆さんのお考えを下のコメントにお願いします。
きょうはこのへんで。アディオース!
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