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どこまでもシンプルな世界を探究する【インタビュー記事#12:探究する精神 職業としての基礎科学】

大切な一冊をおすすめしてくれた人と、1冊の本を出発点として人生を語り合うインタビュー記事第12弾。今回は、東京大学の理学部生として物理学に傾倒する星野真宏様をお招きした。
おすすめいただいた本は『探究する精神 職業としての基礎科学』。
読者の皆様もきっと、「サイエンス」という深遠かつシンプルな世界の魅力を垣間見ることができるはずだ。

おすすめのメッセージはこちら↓

私自身基礎科学に惹かれていて、大学で勉強をしています。「なんの役に立つの?」「金にならない」などと言われることもあります。
そんななかで、基礎科学の意義を説得力をもってかつ面白く書いてある本書に出会いました。
本書を読んで、純粋な探究心で基礎科学に骨をうずめていこうと思いました。

一秒も惜しんで課題、勉強、研究。

本屋余白(以下、「余」):今日はよろしく!なんか星野くんとこうやって真面目に膝を突き合わせて話すの、新鮮だな(笑)(編注:本屋余白の2人と星野様は旧知の仲です。)
星野真宏様(以下、「星」):それな(笑)よろしく。
余:早速、自己紹介をお願い!
星:はい。東京大学理学部物理学科に通っている星野と言います。普段は図書館にずーっとこもってます。サウナで汗を流すのも好きですね。あとバッティングセンター行きたい。
余:インドアなのかアクティブなのかわからんな(笑)
図書館では何してるの?
星:ずっと勉強か研究だね。一秒単位で課題を詰め込んでる。
余:うげ。星野くんめちゃくちゃ授業とってたもんね…。確か、まだ学部生だけど学会で発表とかもしてるんだよね?
星:そうだね。
余:なかなかないことだよね、本当にすごい。
自己紹介がそのまま本の内容につながってくるので、早速だけど本の話をしようか。おすすめの本はなんだっけ?
星:『探究する精神 職業としての基礎科学』こちらです。本当は物理関係の1,000ページくらいの洋書をおすすめしてもよかったんだけど、本棚を占拠してしまう可能性もあるなと思ったので、これにした。
余:それはお気遣いありがとう(笑)。内容はどんな感じなの?
星:まずテーマは『職業としての基礎科学』なので、基礎科学の意義を中心に語っている本です。
その中でも内容はいろいろあって、著者である大栗さんの半生や過去の科学史・物理学史なんかも詳しく述べられてる。科学史に関しては、基礎科学の意義と絡めて第二次世界大戦のときの物理学者の悩みみたいなものが詳しめに書かれていたりもする。
余:ふむふむ、ありがとう。ちなみに著者の大栗さんは東大に関係する人でもあるんだよね?
星:そうそう、カリフォルニア工科大学に勤めながら、東京大学の研究所の所長みたいなのもやってる。(編注:大栗さんご本人のブログによると、正式な肩書は「東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 + カリフォルニア工科大学理論物理学研究所所長 × フレッド・カブリ冠教授」。)
今年の東大大学院の祝辞も述べられてたね。
余:あー、そうだったね!

いつか、どこかで役に立つかもしれない

余:さて、「基礎科学の意義」って話があったけど、まずそもそも「基礎科学」というものについて教えてもらってもいい?
星:そうだね。基礎科学っていうのはいろんな学問分野の原理的な部分を扱う学問で、実践への活用を目的にする「応用科学」と対置される学問です。とは言っても、これは基礎科学、こっちは応用科学、って明確に分けるのが難しいことも多いんだけど。
余:ふむふむ。
星:「応用科学」との対比からわかりやすいかなと思うんだけど、基礎科学って「何の役に立つのか」がわかりにくい研究なんだよね。現実への応用を目的としてないから。そこで、「基礎科学の意義とは」っていう話が出てくるわけ。
余:なるほど、よくわかった。
そうすると、本書で述べられてる「基礎科学の意義」が何なのか気になってくるな。
星:いちばんの意義は「いつか、どこかで役に立つかもしれないこと」かな。
歴史を振り返っても、最初何の役に立つかわからなかった研究が後々重要になるのはよくある例なんですよ。
余:例があったら実感しやすいと思うんだけど、何かある?
星:例えば、今の通信技術を可能にした理論って、マクスウェルという人がまとめたたった4つの方程式からできてるんだよね。
あと、みんながスマホとかでいつも使ってるGPS機能は、アインシュタインの一般相対性理論を使わないと実は数十キロ単位でずれてしまうので、使い物にならない…とかね。
余:うおお、そうなのか。一気に身近に感じられてきた。
星:さらに大事なことって、こういう理論って現実への応用を目的として作られたわけじゃないっていうこと。マクスウェルは「通信技術を発展させるぞ!」って方程式を作ったわけじゃないし、アインシュタインもGPS技術を作るために一般相対性理論の研究をしたわけじゃない。
研究者の純粋な探究心や知的好奇心こそが重要なんだっていうのが、本書で述べられている大切なメッセージなんじゃないかな。
余:タイトルの意図はここにあったのか。ありがとう。

普遍性から生まれるシンプルさに酔いしれる

余:このあとは星野くん自身についてもっと聞いていきたいな。まず、この本にはどうやって出会ったの?
星:2年生の夏くらいかな。Twitterで見かけて、キャンパスの書籍部にも置いてあったので買った覚えがあります。
余:なるほど。読んで何か影響を受けたりはした?
星:うーん、難しいな。俺、人から影響受けにくいんだよね(笑)
余:(笑)
星:そのころはすでに基礎科学にのめり込んでた時期だったので、基礎科学の意義については「なるほどこういう主張もあるよな」っていうくらいだったな。
一方で、著者の大栗さんに対する尊敬の念はすごく湧いた。日本の普通の公立高校の出身だけど、今では科学者としてアメリカをはじめとして世界で活躍されてるのが単純にかっこいいなとかもあったし。
余:ありがとう。ところで、星野くんが基礎科学にのめり込んだ最初のきっかけはなんだったの?
星:時期としては大学1年の夏休みかな。まずは大学で物理の授業を受けて、数学がしっかり自然界の法則と結びつくのを実感して。高校までの物理と全然違うなって思ったんだよね。
そういうときに田崎晴明さんの『熱力学―現代的な視点から』っていう本を難しいなって思いながら読んで、あぁやっぱ物理の世界って美しいな、と思ったのがのめり込んだきっかけかな。別の本のおすすめになっちゃったけど(笑)。
余:泣きながら!?
星:うん、泣きながら(笑)。
それから物理の本を読みあさるようになりまして。物理の本って本当に難しいし、前のページが完璧に理解できてないとどうしたって先に進めない構造になってるから、わかんなかったらその度に立ち止まって、前に戻って。面白いって信じられるから読み進めるんだけど、ちゃんと理解しきれないのはキツくもあったね。
余:なんでそこまで信じてのめり込めたのかが不思議だ。
星:純粋に物理やってる人がかっこいいっていうのはあった。あとは単純に自分が負けず嫌いで、わからないままで終わるのが悔しいっていう気持ちもあったな。
余:そうなんだ。なんか、純粋な好奇心とか学問への愛が一番にくるのかなと思ってたから意外だな。
星:もちろん物理学自体が面白いっていうのもある。
余:その話も聞いてみたいな。
星:いろいろあるけど、ぱっと思いつくのは「シンプルさ」ですかね。
余:「シンプルさ」。
星:物理を敬遠してる人からすると、物理は「複雑」っていう印象なのかなと思うけど、本当に真逆。いちばんシンプルなんだよね。
生物とか、ましてや経済なんて本当に予測不可能だし、多様で、複雑じゃないですか。一方、物理はとことん普遍性を探求する。より基礎的な方程式でできるだけあらゆる現象を説明しようとする。だからこそ、シンプルだということ。そういう「普遍性」から生まれるシンプルさに、いちばんの魅力があると思う。
余:なるほど…。自分はその境地には達してないけど、そういうシンプルさに魅力を感じられるようになったらのめり込むのもわかるような気がしてきた。
星:あとは、本書で言われてたことだと、物理は「方法の学問」であるっていうのも魅力だと思う。
余:「方法の学問」とは?
星:「方法」は「考え方」と読み替えてもいいね。「モデル・方程式を作って、それを用いて現実の現象を説明する」っていう「考え方」によって物理が定義されるってこと。
実は、この「考え方」自体は生物にも化学にも共通するものなんだよね。だから、すべての科学の底流にあるという意味で、物理は他の科学と本質的に異なると言ってもいいと思う。自分はそういうところも物理の魅力だと思うかな。
余:面白い。
最後の質問になるけど、この本はどんな人に読んでほしい?
星:うーん、難しいな。
…大学生、ですかね。
余:すべての?(笑)
星:うん。時間あるなら、読むべきなんじゃないかなと。
余:とても尖っていて魅力的な回答をありがとう(笑)
今までも星野くんを見てて漠然と「物理面白そう」って思ってたけど、一段と魅力が伝わってきたように思います。今日はありがとう!
星:はい、ありがとう!

編集後記

星野くんと話していると、いつも自分とは全く違う世界の見方をしているように感じられて刺激的です。あるいは彼だけシンプルな物理法則に支配されたパラレルワールドに生きてるんじゃないかっていうくらい。
でももちろんそれはパラレルワールドでもなんでもなく、僕と彼で違うのは「世界の捉え方」なのでしょう。世界の根底をなすシンプルな法則に対して向ける、好奇心に満たされた彼のまなざしが、彼のユニークな生き方を支えているように思います。
個人的にも、彼は余白のインタビューでぜひ紹介できたらと思っていた一人なので、今回記事にすることができてうれしかったです。インタビューの中では彼が今取り組んでいる研究についても噛み砕いて話してくれましたが(これがまた面白かった)、悔しいことにこの余白はそれを書くのには狭過ぎました(フェルマー)。また今度じっくり語りたいものです。


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