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「当たり前を疑う。今を豊かに生きる。」【インタビュー記事#02:「その日暮らし」の人類学】

大切な一冊をおすすめしてくれた人と、1冊の本を出発点として人生を語り合うインタビュー記事第2弾。第1弾と第2弾では、運営の二人がお互いにおすすめの本を紹介し合う。第2弾は、副代表を務める多賀陽平が登場。

おすすめの本は『「その日暮らし」の人類学〜もう一つの資本主義経済〜』。

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この本をきっかけに人類学への興味が開きました。全く違う価値観のもとで動く文化に真摯に向き合う学問の姿勢や、そこから導き出される今後の世界のあり方についての深い示唆に感銘を受け、さらに本書で主張されている「いつかくる未来ではなく今のために生きることの豊かさ」にも強く共感しました。

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留学、就活、大学院、色々悩む時期。

本屋余白_小澤(以下、「小」):ほい、じゃあ始めましょう。

多賀(以下、「多」):お願いしますー。変な感じする(笑)

小:そうね(笑)まずは自己紹介を改めてお願いします。

多:おっけーです。本屋余白の副代表を務めている、多賀陽平といいます。四月から3年生で、東京大学教育学部の教育心理学コースに進学します。大学2年間は国際系の団体に入って活動してました。

小:どんな活動をしていましたか?

多:元々は海外の学生を日本に受け入れたり日本の学生を外に送り出したりしていました。それが新型コロナウイルスによって渡航制限されたのでリモートに切り替え。海外の学生と日本の企業を結ぶ活動をしていました。それは3月で終わり4月は余白に注力する予定です。

小:ありがとう。ついでに趣味も知りたいな。

多:趣味か〜。色々あるけどサウナかな!サウナっていうのはすごくよくて、日頃の自分が囚われている当たり前や窮屈な世界という檻から...

小:待って待って、まだ本編入ってないよ(笑)

多:ごめん(笑)サウナは単純に水風呂が気持ちいい。あとは辛いものが好き。

小:はいありがとう(笑)3年生になるってことは就職活動やってるの?

多:実は今年の9月から1年間海外留学で、就職活動と卒業は1年間遅らせるつもりです。そもそも就職するのか、大学院にいくのかも悩み中なんだよね。

小:色々悩む時期だよな。。留学先では何を学ぶ予定なの?

多:行き先がスウェーデンなんだよね。スウェーデンという世界のメインから少し離れた場所にある社会のあり方を見に行きたいと思ってる。あとは、日本だと北欧社会って理想化されて語られることが多い。どうして理想化されるのか、実情を見に行きたいな。

小:なるほどね、頑張って!

多:ありがとう!

「今を豊かに生きる」とは

小:じゃあここらで本の話に移っていきましょうか。おすすめの本を教えてください!

多:はい。おすすめしたのは『「その日暮らし」の人類学〜もう一つの資本主義経済〜』という本です。

小:面白そう。この本の内容を陽平から説明してほしいです。

多:著者の小川さやかさんは文化人類学者でいろんな地域を研究しているけど、中でも東アフリカのタンザニアを専門にして活動している。キーワードは「その日暮らし」。人間とは未来を予測して動くのではなく、その日その日を生きる存在なのだっていう主張がこの本の根幹にある。タンザニアをはじめとして、アマゾンや香港など様々な地域の「周縁化された」人々がその日その日を生きているとはどういうことかを分析して、そこから現代に生きる人々に示唆を与える一冊ですね。

小:難しい。。(笑)

多:そうよね(笑)

小:陽平がこの本をおすすめしようと思った理由は?

多:そうだな、、、この本の裏表紙に「今を豊かに生きるとは?」って書いてあるんだけど、自分が人生に対して抱いている最近のテーマが「どのようにしたら人間はより幸せに生きられるのか」なんだよね。

小:ふむふむ。もう少し詳しく聞きたいな。

多:2年間大学生活を送る中で、目的思考とか成長思考とかに囚われがちになっちゃったんだよね。あらゆることに意味を求めようとしてしまった。未来を見通してそのための手段として今を生きようとしてしまったな。

小:うんうん。

多:今日のために今日を生きることができなくて、毎日が味気なくなったり、漠然と何かに焦りを感じていた。そういう自分の対局に「今」を生きるっていう生き方があったんだ。明確には覚えていないけど、この本を読んで「今を豊かに生きる」ということを考えるきっかけになった、もしくはぼんやりとそんなことを考えてた時にこの本を読んで強く意識するようになったんだ。

小:ありがとう、そういう考えは何回か陽平から聞いていたけど、改めて話を聞いてみると知らなかったことが知れて面白いな。「今を手段として生きる」って、ちょっと抽象的だよね。大学2年間で、今を手段として生きていたエピソードがあったら教えてほしいな。

多:そうだね。まず前提として、自分は過去を否定したいわけではなく今までの2年間が楽しかったと思ってるっていうことを先に言いたいな。

小:うんうん。

多:その上で、この2年間学生団体で活動している中で、たくさんビジネスの本を読んでいた。勿論勉強にはなったけど、自分が心から読みたかった本ではなかったな。「読んですぐ役に立ちそう」「社会で戦っていくにおいて自分のためになりそう」そんな思いで読んでたな。

小:気持ちすごくわかる(笑)

多:よかった(笑)。振り返ってみると、自分には心豊かになれるような小説とかが必要だった。だけど小説とかを読む時間がないって思った。もしくは、読んでも自分に役に立たないって思ってしまったな。

小:なるほどね。そんな考えを抱いていた陽平がこの本を読んで、印象に残ったのってどんなところなんだろう。

多:一番印象的だったのは「究極のliving for todayを探して」という章で語られた「ピダハン」というアマゾンの奥地で暮らす人たちについての話。

小:ピダハン知ってる!同じタイトルの本があって、まさに陽平におすすめしようと思っていた(笑)

多:そうなんだすごい偶然だな(笑)ピダハンの特徴は、過去とか未来について話す言葉を持っていないところ。「過去や未来を語らないことは、過去や未来、抽象的な概念を持たないこととイコールではないが、ピダハンのほとんどの関心が『現在』に向けられており、それゆえ彼らが『現在』をあるがままに生きていることは興味深い。彼らは直接体験したことのない他の文化に興味がなく、自分たちの文化と生き方こそが最高だと思っており、それ以外の価値観と同化することに関心がない。彼らはよく笑う、自身に降りかかった不幸を笑う。過酷な運命をたんたんと受け入れる。未来に思い悩むわたしたちに比べて、何やら自信と余裕がある。」ピダハンは現在にしか生きていないからこそ豊かなのだということを小川さんは言いたいんだろうな。他にも印象的な文章は「物質的には貧しいんだけど、物質的に貧しいんだからこそ他者と所有物について比べることがない。だからこそ心が豊かなのだ。」物欲を満たすこと、消費することを優先する自分たちのあり方とは根本的に在り方が違うなと思った。

小:現代社会で生きる自分たちにとってはなかなか想像もつかない生き方だね。

多:うん、そうだね。

小:この本を読んだことは、その時の陽平の人生や価値観に具体的にどんな影響をもたらした?

多:うーん...文化人類学に興味が湧いた。それが一番大きいな。そもそもこの本は文化人類学コースの先輩に繋いでもらって、その先輩から話を聞いた時に面白いっておすすめされたのがきっかけになった。

小:ここでもおすすめが陽平に影響しているね。

多:ほんとだ(笑)

「当たり前を疑う」文化人類学との出会い

小:話を聞いていて、この本を通して興味を持った文化人類学という学問が陽平に大きな影響を与えているのかなって思ったんだけど、どうかな?

多:その通りだと思う。

小:そもそも文化人類学ってどんな学問なの?

多:うん。文化人類学という学問自体、定義がかなり曖昧なんだよね。(笑)学ぶ人によって答えがだいぶ違う。

小:むむ(笑)

多:そんな文化人類学でも共通して言われるのは、「当たり前を疑う学問」であるということ。文化人類学の特徴として、今生きている世界のメインストリームから離れて、世界において周縁化された場所に行って、独自の文化のあり方を研究したり、リアルに感じとることが挙げられるんだよね。どういうふうに生きるべきかという哲学的な問いを間接的に投げかけてくることもある学問。

小:へぇ〜なるほどね。留学先にスウェーデンを選んだことと繋がった。あれ、陽平の専攻は文化人類学だったっけ?

多:いや、専攻は違うけど専攻を決めるときに文化人類学も検討したよ。今も興味は変わらずある。

小:そういうことか。うん、文化人類学については分かった。じゃあ次の質問、文化人類学を学んだこと・興味を持ったことは陽平にとってどんな意味がある?

多:文化人類学を学ぶことで、囚われがちな「当たり前」や社会で生きていく「義務」が絶対的な存在じゃないと気付かされるんだよね。

小:なるほど、たしかにそれは陽平の価値観や志向性に影響しているね。

多:その通りだね。

ワクワクをくれる知的な冒険譚

小:そろそろ終盤です。この本が陽平にとって大切な理由はなんですか?

多:自分の理想とする生き方が書いてあるから。その日のためにその日を生きる。燻っていた自分に、自分とは違ったやり方で生きる人もいることを知らせてくれた。それが大切な理由だな。

小:ありがとう。最後にお決まりの質問です。(笑)この本を一言で表すなら?

多:出た(笑)一言って難しいな...そうだな、あたらしい世界を自分に拓いてくれたんだよね。いくつかの意味で。

小:どんな世界だろう?

多:まずは文化人類学という学問。そしていろんな社会のあり方を知れた。

小:うんうん、他には?

多:あとは単純に読んでてワクワクした。この本は小説でも冒険譚でもない、学問書に近いんだけどまるでそういうジャンルを読んだ時のようにワクワクしたのを覚えている。純粋な冒険譚とか旅行記とかって魅力を感じても真似できないじゃん。すぐにはエベレストに登れないみたいな(笑)

小:その通りだね(笑)

多:この本は冒険譚や旅行記を学問に引きつけてくれている。学ぶことは自分にもできる。だからワクワクしたんだ。

小:いいこと聞いた。。じゃあこれで終わりにします、お疲れ様でした。

多:お疲れ様!

編集後記

本屋余白の副代表を務めてくれている多賀へのインタビューでした。インタビューした代表の小澤は2年間を共にしていますが、今回のインタビューで改めて彼のことを深く知れました。どうやらまだ話し足りないようでしたので続きは個人的に聞いてみます(笑)

目的思考や成長思考に囚われたり、よく分からないけど不安になったり、「当たり前」を意識しすぎて自分を見失ったり。多賀と多少なりとも似た経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。そんな時は一息ついて、知的な冒険譚の世界へ旅立ってみるのはいかがでしょう。


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